裏エピソード1:悠真の葛藤と、父との約束
悠真がまだ幼かった頃、家はいつも厳しい空気に包まれていた。父は強く、厳格で、悠真に対して「家の誇り」として振る舞うことを強要した。
「お前は弱くなるな。家族の名に泥を塗るな」
幼い悠真の胸に響くその言葉は、まるで鉄の鎖のように重く、自由を奪った。感情を吐露することは許されず、涙も見せられなかった。誰にも弱さを見せてはいけない。そう教え込まれた彼は、自分の中にある小さな不安や恐怖を押し殺し、表面上は明るく振る舞った。
中学に入り、テニスでの才能が開花し始めると、父の期待はますます大きくなった。試合に勝ち続けることが、父の望みであり、自分の存在価値でもあった。だが、勝負に勝ってもどこか空虚な気持ちがつきまとい、心は満たされなかった。
そんなある冬の夜、悠真は大事な試合に敗れ、深い失望と自己嫌悪に沈んでいた。部屋の隅で膝を抱え込み、静かに涙を流していると、突然携帯電話が鳴った。父からの電話だった。
「どうした、悠真?」厳しい声だったが、どこか優しさが滲んでいた。
「負けました…」小さな声で答える悠真に、父は少し沈黙し、そして言った。
「無理するな。お前が幸せなら、それでいいんだ」
その言葉は悠真の心の壁を壊し、長い間抑え込んでいた感情が一気に溢れ出した。泣きながら、初めて父の真意を理解した。強さとは、無理をして自分を押し殺すことではなく、本当の自分と向き合うことだと。
悠真はその夜、自分の心に誓った。父との約束は、ただ強くあることではなく、弱さを認めたうえで、前に進み続けることだと。




