第1話:転校生は国民的アイドル!?
春の風が、桜の花びらを校庭に舞わせる。
登校する生徒たちの喧騒の中、相馬悠真は、一人静かに校門をくぐった。
彼の肩にはテニスバッグ。表情にはどこか影がある。
悠真(心の声)「また始まる…勝てない一年が」
彼はテニス部のエースだった。
だが、過去の大事な試合で痛恨の敗北を喫して以来、「本番に弱いエース」と囁かれるようになっていた。
周囲の期待と、重すぎる自己嫌悪が、彼の背中をずっと重くしていた。
その日のホームルーム。
担任教師が教壇に立ち、クラスに向かって告げた。
「今日から新しい仲間が加わります。朝比奈ひかりさんだ」
教室がざわつく。ドアの外から現れた転校生は、帽子とマスクで顔を隠していた。
それでも一目でわかる、"ただ者じゃない”空気。
「朝比奈ひかりです。よろしくお願いします」
どこかで聞いたような名前だーーそう思った瞬間、悠真はハッとする。
その声、そのオーラ......画面越しに何度も目にした"あの人だった。
悠真(心の声)「まさか...嘘だろ」
放課後。
テニスコートで悠真は一人、黙々とサーブ練習をしていた。
ラケットを振るたびに、過去のミスがフラッシュバックする。
そこに、ふと誰かの影が差した。
「なかなかのフォームね」
振り返ると、そこにいたのはマスクをつけたひかりだった。
帽子を深く被り、変装しているが、その声はまぎれもなく"本物。
「なんでここに?」
「ただの通りすがりよ。......って言いたいところだけど、本当は.....あなたに会いに来たの」
「は?」
「私、マネージャーになりたいの。テニス部の」
翌日、ひかりは本当にテニス部に現れた。
しかも、マネージャーとしての仕事をこなし始める。
部員たちは大混乱。
翌日、ひかりは本当にテニス部に現れた。
しかも、マネージャーとしての仕事をこなし始める。
部員たちは大混乱。
「え、え?あの子.....もしかして朝比奈ひかりじゃね?」「ってか、なんでマネージャー?芸能人が?」
本人は正体を明かすことなく、あくまで「似てるだけの一般人」として押し通す。
「気にしないで。私はただの新入生、ただのマネージャー
志望よ」
悠真は、その堂々とした態度に少し圧倒されていた。
だが、彼女の真剣な眼差しに、どこか自分と似た”孤独”を感じる。
夕方のコート。二人きり。
「……俺に構わないほうがいい。注目されるとバレるぞ、正体」
ひかりは帽子を押さえながら微笑む。
「あなたって、ずいぶんネガティブなのね」
「……仕方ない。勝てないエースだから」
「だったら、変わりましょう。私がそばにいる。あなたが勝てるように」
悠真は彼女のまっすぐな言葉に戸惑い、そして少しだけ心が揺れる。
⸻
その様子を、幼なじみの月城はるかは遠くから見ていた。
(悠真が……笑ってる? あの子と話して)
胸がチクリと痛む。
元マネージャーで、悠真のことをずっと見てきたはるかは、心がざわついていた。
⸻
数日後――。
学校内で「転校生、ひかりって、あの朝比奈ひかりじゃない?」という噂が流れ始める。
ひかりは慌てて隠れるが、心の不安は募る。
「……やっぱり、ここでも私は普通にはなれないのかな」
そんな時、悠真がそっと手を差し出す。
「俺が、守ってやるよ。誰にも言わない」
ひかりの目が、ふっと潤んだ。
⸻
日が沈む頃、テニスコートで二人はラケットを持って並んでいた。
「教えて? どうすれば勝てるの?」
「……じゃあ、基礎からな」
一球、また一球。
ボールを打ち返す音が、ふたりの距離を少しずつ縮めていく。
⸻
夕陽の中、ふたりが並んで歩くシーン。
その背中を、はるかが遠くから見つめている。
はるか(心の声)「私も……もう一度、前に出なきゃ」
ナレーション(悠真)
「この春、俺と彼女の“秘密のラリー”が始まった――」