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君は駄目

作者: あとまとな

特段と言った特別なことはない人生だった。

確かなのは私がいなくなっても悲しむ人はいないという事実だけだ。



彼女にあったのは夏の日。

彼女は小さな木の木陰にいた。さらさらな髪がゆれていて、夏の照りつける日差しのなかに不似合いなほど白い肌、華奢で折れてしまいそうな体にどこか儚げな雰囲気。ここが人里離れた森奥とは思えないほど彼女の存在は似合っていなかった。大きな麦わら帽からかすかに見える彼女の顔は彼女が眠っていることを私に教えてくれた。まわりの景色が夏の暑さでぼんやりしているなか、彼女だけははっきりとピントがあっている。少し突っ立っていた。熱中症かと思い慌ててここに来れるはずのない救急車に電話を掛けようとしたが、通話ボタンを押そうとした手は動かない。木の木陰に彼女の姿はなく、いつの間にか私の隣で腕をつかんでいたからだ。眠っている時には見れなかった、彼女の碧と青を混ぜたような色の瞳が私をとらえる。彼女は私の腕を離すと、その手を静かに口元に持っていき人差し指をたてた。私はその時動いて何かしらの行動ができたはずだが体は動かなかった。彼女は何か一言喋った気がしたが、押し潰されてしまいそうな暑さからか、それともその吸い込まれそうな瞳にに見惚れていたからか、よく聞き取れず、聞き返そうとした時には彼女はもういなくなっていた。数分後に多大な喪失感に見舞われ、彼女の姿はなく、何か手がかりといった足跡はないかと探したが何も残っていなかった。




後に私は目が覚めた。見覚えのない白い部屋の一室で。目の前には私が呼ぼうとした救急車の隊員がおり、自宅の近くの路地に一人倒れていたのだという。通報者は付近におらず人も居なかったのだとか。この暑さで生きていることと自体が奇跡だと言う。隊員はなぜ私が路地に倒れていたのか、事情を聞こうとしたが、おそらく、彼の求める返答を私は答えることができなかっただろう。その時私は頭のなかで彼女の姿とその一言を頭のなかで考えていた。



彼女の一言は、もしかしたらもう死んでいるから…なんて考えたりした。ただ今の私にできることは彼女に生かされた命を大事にすることだ。

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