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21.  継承されるモノ

いよいよ最終話です。

ここまで読んでくださりありがとうございます。


少し加筆と修正をしました。




 事件に緘口令がひかれていようとも、王宮ではあの日以来王位継承権に関しての憶測が噂好きな貴族たちの間で飛び交った。事件に直接関与していないとはいえ、第一王子の派閥貴族の半数以上は爵位降格や世代交代の後に王家の監視下に置かれることになったため、第一王子の継承権は当然剥奪されるだろうという見方が強かった。しかし、その噂を一蹴りにするかのように、国王は‘継承権については保留’という判断を告げた。そこにはカルロス第二王子の強い要望があってのことだということが周知され、それに関する話題はほとんどタブーとされた。そのためグレースが目覚めてからというもの、王宮は再び慌ただしくなった。


 ‘救国の聖女’


 グレースの目覚めを貴族たちは大いに喜び、口々にグレースをそう呼びはじめた。その名はたちまち城下へ伝わり、その吉報は商人たちを介して瞬く間に名前とともに各地へと広がっていった。そしてグレースの目覚めをきっかけに人々は救国の聖女を次期王妃に、そして共に戦ったカルロスが次期国王になるだろうと噂するようになった。その噂はやがて人々の期待となり王都にまで舞い戻ってきた。


 当然、城下の人々の声は宮廷中をざわつかせたが、王宮が混乱に巻き込まれてはいけないと、カルロスとグレースは国王へ宮廷会議の申し立てをし、王位継承権を明確にする機会を望んだ。




 「わたしたちは市民と共に暮らし、城下での生活を経て今まで想像でしかなかったこの国の真実と現実を見てきました。そこで学んだことは生かしていきたい。しかし、その市民の声を拾うことこそがわたしたちの使命だと強く感じているのです。」


 カルロスの発言は、会議に出席した貴族たちだけでなく、第一王子さえ驚かせた。


 「兄上、王太子としてこの宮廷の政務を学んできたのはあなたです。そして、約束通り、わたしはそんな兄上を支えたい。」


 責任感の強い兄が、継承権を放棄すると言い出すことはカルロスには容易に想像ができた。でも、それは自分の...そして愛しい婚約者の願うことではない。真っすぐに兄を見つめると、揺るがない決意がそこにあることを示唆しながら静かにそう告げた。




 「父上、グレースとわたしの褒章は保留にさせていただいていましたよね。わたしは当初の予定通り辺境にてグレースと共にこの王家を支えていきたいと思っております。」


 アルフォンソに告げたときとは対照的に、カルロスがからからとはじけるような明るい声で自分の希望を伝える。そしてグレースを見つめると幸せそうに微笑んだ。カルロスの笑みに応えるように頷くグレースの姿に、これがこの二人の真意だと知ると、国王は苦笑いした。


 「素直すぎるお前にこうした策略は無理だと思っていたのだがな。その手腕、主のものというよりも...まぁ、よい。そうまで言われては了承以外の答えはないではないか。」


 そこまで言うと、国王はカルロスの隣に立つグレースを見つめる。


 ’国王陛下、この視線…わたしの手腕だとおっしゃりたいのですか?まぁ、間違ってはいませんが。’


 ポーカーフェイスのまま国王の視線に気づかないフリをしたグレースは、いったん視線をそらしてからゆっくりと目を合わせて国王に微笑んだ。この一瞬で、自分の意図を理解したと気づいた国王もまたグレースの器量に安堵し二人にもう一度声をかける。


 「カルロスよ、よい伴侶を得たな。」


 カルロスとグレースはその国王の言葉に再びお互いを見つめて微笑みあう。同時に集まった者たちに告げる国王の声が響く。


 「みなのもの、次期国王は王太子であるアルフォンソであることをここに宣言する。そしてカルロス、お前をこの国の外交大臣に任命する。そう簡単に中央からは逃れられんぞ。」


 国王がにやりと笑う。


 「これからも外交大臣として、また辺境伯としてこの国をアルフォンソを支えてくれ。」


 二人の王子は互いに視線を交わし国王の命を受けた。




 「陛下。もう一つお許しいただきたいことがございます。」


 カルロスは議会の閉会宣言がされる前に素早く言葉をはさんだ。その笑みはどこか悪戯っぽく見えたが、続く言葉に反対する者は、国王を含め誰もいなかった。



>>>>>>>><<<<<<<<<<



 ある晴れた春の日。ヘンゼルとグレーテルとして数か月過ごした森のすぐ近くの街は、信じられない人の数に溢れて賑わっていた。それもそのはず、今日はカルロス辺境伯夫妻の結婚披露宴が行われることになっていたからだ。しかも、一般市民参加型という前例のない高位貴族の披露宴だ。話題にならないはずがない。



 「ねぇ、ママ。グレーテル姉さまの結婚式なんでしょ?グレースって誰のこと?」


 「本当の名前はグレース様とおっしゃるそうよ。覚えられる?」


 「新郎が王子さまって、ホントなの?」


 「ヘンゼルというのは仮の名だったそうだ。本当の名前はカルロス王子。この国の第二王子様だったらしいぞ。ヘンゼルだった時は魔法で容姿も変えていたらしいから、今回がほとんど初対面になっちまうのかね。」


 二人が森に住んでいる頃を知っている子供たちは新郎新婦の名前が違うことを不思議に思っているのかあちこちで疑問が飛び交っていた。質問に答える親にも、混乱や動揺が伺える。期待と不安と喜びと様々な感情が交差する中で人々は主役の到着を待っていた。



 そんな中、街の中央広場に光柱が立つ。人々の歓声があがり、その光の中心にカルロスとグレースが現れた。大きなどよめきが起こる。


 「グレーテル姉さま!」


 「お姉さま、きれい。」


 小さい子供たちは口々にグレーテルの名を呼ぶ。


 「きょうはわたしたちのために集まってくれてありがとう。みんなにはこの姿の方がなじみがあるだろう。」


 カルロスがそういうと、たちまち姿がヘンゼルに変わる。魔法を初めて見る市民も多く、歓声がより大きくなる。


 「今日のわたしたちはヘンゼルとグレーテルだ。結婚をみんなに祝ってほしくてわがままを言った。好きなだけ、食べて飲んで楽しんでくれ。ただし、もめ事を起こす奴には容赦はしないからな。」


 いたずらっぽく笑いながらそう告げたカルロスの口調は、すっかりヘンゼルだったころと同じだ。


 「みなさん、来てくれてありがとう。」


 グレースも満面の笑みで歓声に応える。


 「乾杯!」


 グレースの掛け声に合わせてグラスが高々と掲げられ、陽気な笑い声に包まれながら、街をあげての披露宴が始まった。




 「グレース、大丈夫かい?疲れてない?」


 披露宴の喧騒から少し離れた場所まで移動した新婦に、新郎がいたわりの言葉をかける。


 「平気よ。幸せだなって思ってただけ。」


 「そうだな。」


 主役が抜けてもわからないくらい、大人も子供もこの披露宴を楽しんでいる。つい数週間前、王宮で伝統的な王族の結婚式が行われ、カルロスとグレースはそこで正式な夫婦となっていた。王家と公爵家の主催で、親族へのお披露目、高位貴族へのお披露目、一般貴族へのお披露目と3日間にわたる披露宴も行われた。もちろん、辺境伯夫妻となる二人にとって貴族社会への披露宴は大切なものであったけれど、この街で披露宴をすることは、別の意味で大切なことだった。


 曖昧な記憶しかない不確かな自分たちをあたたかく迎え入れてくれたこの街があったから、二人は挫けずにいられた。幸せでいられた。貴族社会とは違う価値観を学び、人々の生活を知った。そこには日々を精一杯生きる市民の優しさとたくましさが溢れ、記憶が戻った今はその人々の笑顔を本気で守っていきたいと願っている。王族として高位貴族として生を受けたのは宿命だ。しかし、二人はこれから先の人生を人々の生活を身近に感じられる場所でその安寧を守るために尽くす道を選んだ。


 「ふふふ」


 喧騒から少し離れてグレースに見えた景色は、記憶を失くしていた頃の幸せが凝縮されているようなそんな光景だった。たくさんの幸せそうな人々を見つめながら、小さくグレーテルが笑う。


 不思議そうにカルロスがグレーテルを見つめる。


 「そういえばわたし、あなたにドキドキしすぎていつも困っていたのよ。兄だからって呪文のように唱えてずっと誤魔化していたの。」


 キラキラしたヘンゼルを見る度に、不自然なほど高鳴った胸は本能でカルロスを知っていたからなのかもしれない。


 「いつだってすまし顔のあなたが、ちょっぴり憎らしかったわ。」


 コテンと頭をカルロスの胸元に寄せながら、グレースが悪戯っぽく笑う。


 「わたしだって君にドキドキしていたさ。少しだけ、隠すのが上手かっただけだよ。」


 そう答えると、カルロスがゆっくりと唇をよせる。


 月明りと広場の中央で燃え上がる焚火を囲む人たちを見つめながら、二人はこれから切り開いていく運命の先にこの国に住むすべての人たちの笑顔が溢れているように、できること全てをすると改めて誓った。


最後はやっぱりハッピーエンドが好きです。

無事に完結できたことをとても嬉しく思います。

もし許されるなら評価や感想を残していただけると嬉しく思います。

次回作も執筆を始めました。

投稿は年始になると思いますがご縁がありましたらそちらもぜひ楽しみにしていただきたいと思います。

あらためて"ありがとうございました"。

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