チャッピー......
「あ、あ、あなたから獣臭がする! ロボットのはずなのに!」
アリスは明らかに動揺している。
「今さら何を言っとる。一週間程度たてば多少の臭いがするくらい当然であろう?」
「う、ううう嘘よ! そんなこと、あるはずないわ!」
「いや、我は最初から言っておったぞ! 我は生きておると! というか、臭いがしただけで騒ぎ過ぎではないか?」
「私にとっては大問題なの! そんなあ......。こんなの、悲劇じゃない......。」
アリスは座り込んでがっくりと肩を落とした。
チャッピーから見て、彼女は必要以上に慟哭しているように見えた。
「別にロボットであろうとなかろうと、大した違いはなかろうに......。まあ、そう気を落とすでない」
チャッピーはそう言って慰めたが、アリスは依然として落ち込んでいる。
そして、再び話し始めた。
「......認めない。認めないわ!」
「? うわっ!」
そして素早くチャッピーを抱きかかえると、パジャマ姿のまま風呂場に入っていった。
「ショートするかもしれないから、今まで入れなかったけど、もうそんなこと言ってられないわね」
言い終わると同時に風呂場の扉を閉める。
「お、おぬし、何をする気だ?」
その問いに応えるように、アリスは右手にシャワー、左手にシャンプーを持って言い放った。
「私の愛用シャンプーで、何が何でも臭いを落とす! 今後二度と臭いがしなくなるほどにね!」
「む、無茶を言うな!」
「成せば成るわ! そして可哀そうなあなたに自分がロボットだってことを気づかせてあげる!」
「おぬしの勘違いに振り回される方が可哀そうだわい! うわっ!」
「大人しくしなさい!!」
こうして一坪の風呂場の中で壮絶な争いが始まった。捕まえては逃げ、捕まえては逃げを繰り返し、チャッピーの中である決意が広まった。
(もう辛抱たまらん......!)
長引く戦いの末に、彼はこの戦場から脱出する決意を固めた。捕まえようとするアリスを避けつつ、彼女の体をつたって扉の取っ手を引き、退路を確保した。
「!! まさか!」
アリスはチャッピーの意図に感づいたが、彼の素早さに体がついていかず、阻止することはできなかった。トイウルフの体に備わった俊敏性を、怪鳥が初めて発揮した瞬間だった。
瞬く間に風呂場を抜けて、開かれた窓に辿り着いた。そしてアリスが追いつく前に彼女に話しかけた。
「実に、よい日々であった。では、さらばだ!」
「待って――」
アリスは手を伸ばしたが、チャッピーはその先の空を飛んでいた。彼は一階窓から飛び降りた後軽く受け身を取り、住宅街を縦横無尽に駆け抜けていった。
アリスは迅速に正面玄関から飛び出し、ハンターのような目で周囲を見渡したが、そこにチャッピーの姿はなかった。
一呼吸おいて、アリスは一言、悲しげに呟いた。
「......チャッピー......」
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