お気に召すかしら?
「......そういうわけで、今受付に行っても、また摘まみだされるのがおちなのだ。だから我は仕方なく、奴の言う通りトレーナーを探すことにした。ということでおぬし、我のトレーナーになってみる気はないか?」
「!!」
そう言ってトレーナーを手に入れるべくラストは道行く人に声をかけ始めた。
勿論、アニモの方からトレーナーをヘッドハンティングするなど、前代未聞の事態である。
声をかけられた巻き髪の女は、口を大きく開けて硬直している。
「なに、おぬしが我を指揮する必要はない。ただカカシになっておれば充分だ」
「............あなた、ロボット?」
「違うと言うておろう!......あ、いや、もうこの際そこはどうでもよい。おぬしの好きなように捉えればよい」
「......」
「......ん? なんだ、お前もあやつと同類か? はあ、物言わぬカカシは求めておらんのだ。もっとまともに話せる奴はおらんのか......」
怪鳥は無言の女にトイウルフ本人と似たような性質を感じ、若干辟易していた。だがすぐに、彼はその推測が全く外れていたことを思い知ることになる。
実のところ、女が無言になった理由は、話す気がなかったからではなく、脳に雷が落ちるような衝撃を受けていたからだ。
そして次の瞬間、奇声を上げながら、襲い掛かるような勢いでラストに抱きついていった!
「かわぃぃいいいいいいい!!!!!」
「う、うわ、おいよせ!我に気安く――」
「もうダメ。そのファンシーな見た目で我とか言われたら、私、私、ギャップで死んじゃうからああああああ!!!!」
ギュ――
「ああ、これはもう、逃れられない......」
先のキネシスの反動も相まって力を十全に発揮できないラストは、成されるがままその腕に包まれるしかなかった。
しばらくののち――
いつの間にか、トイウルフは背の高い丸椅子に座らされ、耳に花のアクセサリーを着けさせられていた。
正面には、先ほどの女がテーブル越しに座っている。トイウルフが話し始めるのを待っている様子だ。
「......ここは?」
「私のお部屋よ。お気に召すかしら?」
「ほう......」
特徴的な家具、豪華なシャンデリア、無数のぬいぐるみ......。そこは可愛らしさと優雅さが混在したような、まさに女の好みが色濃く反映された部屋だった。
「なかなかによい趣味をしておるではないか。我は気に入ったぞ」
「ほんと~? うれしい~~! かわいい顔して紳士的!」
「当たり前だ。我を誰だと――むぎゅ!?」
トイウルフが話し終わる前に、女は両手を彼のほほにうずめ、何かを探るようにこねくり回し始めた。
「それにしてもすごいわよね~。見た目も触り心地もトイウルフそのものなのに、喋るし、後ろ足で立つし、獣臭もしないし......。こんなにリアルなロボット初めて見たわ~。そのくせ、発信機も盗聴器もついてないなんて。まさか、野良のロボットちゃんなのかしら? まあ、その方が都合がいいんだけれど」
ちなみに、獣臭がしないのは、トイウルフの体が転生したてなためである。
「むぐぐ......一体いつそんなものを調べたのだ......。というか、そんなことよりも――」
「あ! そうよね! まずは自己紹介から始めましょうか」
「......まあ、よかろう」
ラストはトレーナー交渉をしたい気持ちを抑えて、一旦女の提案に乗ることにした。
「私はアリスっていうの。うふふ、アニモに自己紹介するって何だか新鮮! あなたの名前は? 何かある?」
ラストは少し考えた後、質問に答えた。
「我の名は、今はない。何ならおぬしが命名してもよいぞ」
「じゃあ、私が名付け親になれるってことね! 嬉しい!」
(どうだ、おぬしの存在が上書きされる感覚、とくと味わうがいい)
どうやら、トイウルフ本人に圧をかけるためのようだ。
「でも私、名前つける時いつもめちゃくちゃ悩んじゃうのよね~。ん~、とりあえずチャッピーって呼ぶことにするわ!」
「チャッピーだと? なんだその軟弱そうな名前は! 我は認めんぞ!」
「まあまあ、仮だから! よろしくね、カリチャッピー!」
「仮をつけるな、仮を」
「うふふ」
ラストはすっかり女のペースに乗せられている。名前について頑なに否定してもなあなあにされている感じがした。
女はアンティークデザインで彩られたコップで淹れたての紅茶を一口飲むと、改めて話の口火を切った。
「こほん。さて、そろそろ本題に入りましょうか。」
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