今ここで披露してやろう
大会受付会場前の警備員はひどく混乱していた。目の前のトイウルフが、唐突に自分に向かって話しかけてきたからだ。
「ここで大会に出場するための登録ができると聞いた。よろしく頼む」
「......ん? え?」
疲労がたまってるのだろうか。
とても現実とは思えない状況に出くわしている。
警備員はそう感じた。
「どうした。場所が間違っているか?」
「......いや、受付は、この奥だけど......」
警備員はアニモに向かって話しかけている自身の正気を疑いつつ、呼びかけに答えた。
「そうか。ではお邪魔する」
「おいおいまてまて!」
「なんだ、急に声を荒げて」
「いや、おかしいだろ、いろいろと」
「なにがだ?」
「アニモが喋っている。めちゃくちゃ流暢に。おまけに、二足歩行で」
「うむ、当然だが?」
「......からかうのもいいかげんにしてくれ。アニモが喋るわけがないし、トレーナーがいないのに登録出来るわけないだろ?」
「いや、待て。たしかトレーナーは直接戦わぬと聞いている。ならば、特に必要ないであろう?」
「いや、そりゃあトレーナーがいないと勝負ができないし......とにかく、そういう決まりなの」
「それでは納得できん。然るべき理由を説明できなければ、我はここを動かんぞ」
(何で俺、アニモ相手に真面目に対応してるんだろう? 疲れてるんだからイレギュラーな業務を増やさないでくれ――)
警備員が心中で本音を吐露したあと、彼は目の前の現象に対する答えを導き出した。
「そーゆーことか! さてはお前、ロボットだな?」
「ん? 違うが? なぜそうなる?」
「どうりでこんなことが出来るわけだ。全く、手の込んだいたずらしやがって」
否定するラストをよそに、警備員は自身の確信にしたがって邪魔者を摘まみだそうと、彼を掴もうとした。
パフッ
しかし、ラストは小さな手でそれを払いのけた。
「気安く我に触るな」
「?」
「貴様、我を力づくで排除しようとしたな? なかなかによい度胸をしておるでなはいか。よかろう。ならば我も実力で認めさせるまで。実戦まで伏せておくつもりだったが、今ここで披露してやろう。我の力を!!」
ラストはないがしろにされたことに仄かな怒りを覚え、絶対的強者の力を振りかざすべく、臨戦態勢に入ろうとした――
その時。
「みんな離れろー!!」
近くの作業用ロボットが突然暴走を始めた。三メートルを超す大きなロボットは、猛スピードでこちらに突進してくる。
「う、うわあっ!!」
警備員はとっさに叫んだが、あまりに突然の出来事に体が動かない。
その後ろでラストは、大きく目を見開いた。
バキッ――
するとロボットの片方の車輪が破損し、その進行方向を僅かに逸れ、直撃を免れた。
交渉に横やりが入った結果、ラストは多少落ち着きを取り戻し、冷静になった頭で改めて登録条件について考えてみた。
(まあ、焦る必要はないか。それにトレーナーを捕まえておけば、話し相手には困らんだろう)
そう考え、ラストは尻もちをついて呆然とする警備員を横目に踵を返した。
「よかろう。おぬしの言う通り、トレーナーを連れてきてやる。その時はきちんと対応するように」
警備員は動揺して、ほとんど話を聞いていない。
「......それから。命拾いしたな」
「!?」
その言葉に驚き振り向いてみたが、そこにはなんの変哲もない、二足歩行のトイウルフが歩いているだけだった。
(本来であればバラバラにしてやりたかったが、今の我のキネシスではこれが限界か。我ながら情けない)
と心中で思ったあと、気持ちを改めてトレーナーを探すことにした。
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