我ながら妙案であろう?
ある晴れた日。川のほとりで、ぬいぐるみのような小さなオオカミが喋っていた。
当然のように、喋っていた。
「……よし、うまくいったぞ」
彼の名はラスト。不死鳥とうたわれる伝説の存在である。
そう、彼は鳥である。それは疑いようのない事実である。......はずなのだが。
彼は今、紛れもなくぬいぐるみのような小さなオオカミの姿になっている。
「まだあまり力が入らぬな。充分に力を扱うには、今しばらく時間が必要ということか。......しかし、慣れぬものだな。翼がないというのは」
その姿には、翼どころか不死鳥の面影一つ感じられない。
一体、彼の身に何が起こっているのか。
「おい。聞こえておるか?」
ラストは自分に向かって話しかけている。決して、気が狂ってしまったわけではない。
彼はわけあって、別の生き物の体に意識を移しているのだ。
ことは数時間前にさかのぼる。
ラストは普段人里離れた山奥に住んでいるのだが、そのせいで退屈に苦しんでいた。
(つまらん。いいかげん代り映えしない生活にも飽きてきた。最初は壮観に見えた山麓の景色も、今となってはただ盛り上がっただけの土にしか見えん)
そう感じていた彼は、気晴らしに普段は寄り付かない、別の場所を探検してみようと考えた。そして、まずはなんとなく、東の方向へ行ってみようと思い立った。
ひとたびラストが飛び立てば、行きたい場所に辿り着くことは造作もない。海を越え、すぐに目的の場所に着いた。そこは人間たちが居住しているエリアであり、中心部では町が栄えているようだった。
そこで、彼は新たな試みを思いついた。
そうだ。人間たちと話してみるのはどうか。
彼は言葉を理解し話すことができたが、肝心の話し相手が周りにいなかったのだ。
(ふむ、これはよい暇つぶしができそうだ。さて、問題は.....どうやって話しかけようか。この姿では、流石に相手が委縮してしまうな。何か良い案は......)
そんな風に考えを巡らせていると、ちょうど真下の方に何かが倒れているのが見えた。どうやら、小さなオオカミのようだ。まだ生きているようだが、憔悴しきっている様子である。
ラストはその小動物をみて、あることを閃いた。
(ふむ、ちょうどよい。試してみるか......)
不死鳥は、オオカミを足で掴むと、身を隠せる場所を探した。すぐに近くの滝の奥にちょうどよい大きさの洞窟を見つけ、そこに入っていった。
そのあと、ラストは自らの血の一部を蒸発させ、その蒸気を使ってオオカミの体を覆うように操った。蒸気は次第にオオカミの体に馴染んでゆき、ついに一つとなった......!
実は、ラストにはある特殊な能力が備わっていた。それは、血を与えることで自分の意識と力の一部を分け与えるというもの。この能力を受けたものは、脱皮のような形で転生が可能となり、ほとんどの傷を癒すことができる。これによってオオカミは息を吹き返し、またラストは人と話すための器を獲得するに至ったのだ!
......という一連の流れを、ラストはオオカミの意識に向かって説明していた。
「......とまあ、そういうわけだ。おぬしのちゃちな体であれば、人間たちと対話することも容易かろう。我はおぬしの命の恩人になり、さらにこの体を借りて自分の願いを叶えられる。どうだ、我ながら妙案であろう?」
「......」
「ん? どうした?」
オオカミの精神は、一向に応答を示さない。
様子を聞いてみると、しばらくして一言だけ返事が返ってきた。
「ヨケイナ......オセワダ......!」
「な......!?」
これ以降、オオカミの意識は沈黙を貫いた。
ラストは呆れてしまった。
「命を救った我に向かって余計なお世話だと? なんと恩知らずな奴......! ならば、意識が消滅するまでそうしてふんぞり返っておるがいい。この体は、我が存分に活用させてもらうとしよう」
こうして、不死鳥とオオカミによる、冒険の物語が今幕を開けた。
「そうさな、まずは、町とやらにいってみようか。この外見だ。人間たちも快く受け入れてくれる事だろう」
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