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こんけるふぇん(仮)  作者: 黄昏狐
第1章 冒険者パーティー『狐火』
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 閑話 ギルマスの考察 

 初めて見た時は何の冗談かと思った。

 彼女は見た目が九尾の狐みたいな変な服を着て、戦闘技能テストで武器はいらないと言った。


 見た目で相手を判断するのは良くないことだ。

 俺だって冒険者になりたての頃は見た目で判断して何度辛酸を舐めたかわからない。

 それで学習した後は何事にも油断せず毎日着実に前進することで、気が付けばギルドマスターにまで登り詰めていた。

 人は俺をカタブツだのカタブツマスターだの呼ぶこともあるが、石橋を叩き割って渡るくらいの慎重さが俺の取柄でもあった。


 彼女と対峙した時、はっきり言うと俺は油断していたのであろう。こんな小柄な少女が冒険者など務まるはずがないと。

 彼女を下に見て、怪我させないように冒険者を諦めさせるにはどうするべきか。そんなことを考えていた気がする。


 テスト開始直後、俺は瞬時にその考えを改め、気を引き締めた。

 何度も武闘家とパーティーを組んだり、戦ったりしたことはある。だが、彼らにはその動きに一律の流儀があって、見た瞬間にどう動きたいのか伝わってくる。

 しかし彼女はその獣のような異質な構えからの、まるで考えの無い本能に従うような動きだった。


 本当に4足で駆け出すのではないかと思われる程低い構えからの、予想できない加速だった。


 床を滑るように、だが着実に一歩一歩床を蹴ってその反動すべてを速度に変えて突っ込んでくる。

 とても幼い少女の脚力ではない。本当に獣じみていた。


 驚きに目を見開いて忘れていた牽制を繰り出す。

 間合いに入るタイミングに合わせて横に薙ぐ。

 ──だが彼女は避けることもなく、そのまま突進してくる。


 リーチこそこちらが長いが、この速度ではそんなもの刹那の時間だ。

 少し痛い目をみて貰うかと思いながら、剣をそのまま横に振り抜こうとして、その太刀筋は彼女の左腕によって弾かれた。


 まるで金属の塊でも切り付けたかのように鈍い反動だった。

 腕をガイドにしてその表面を強制的になぞらされているような感覚だった。

 普通だったら腕の一本くらいは切り飛ばされていたはずなのだが、そんな素振りもなく彼女はさらに肉薄する。

 続いて繰り出される右の拳に一瞬の恐怖を覚え、無理に引き寄せた剣の腹を向けてガードする。


 ──なんという膂力!?


 攻撃を受け止めた愛剣にヒビが走る。

 押し込まれる前に咄嗟に後ろに飛んでダメージを軽減したが、この剣はもう駄目だろう。

 次を受ければ折れるという確信があったが、これほどの強者との闘いは久々だ。

 思わず笑みが零れるのを抑えきれなかった。

 ギルマスという立場を忘れ、本気で振った剣にどう対処するのか見てみたい──思う前に体が動いていた。


 剣を振り上げ、神速の一撃を叩き込む。


 見ると迫る彼女の右腕にその愛らしい容姿には似合わない、殺意を込めた獣の爪が光っていた。

 暗器とかそういう類だろうか?


 だがこちらのほうが早い。剣が切り裂くと思われた瞬間、人間離れした反応速度で彼女は上体を起こして左腕も爪を出して、爪を交差させることで受け止めるつもりらしい。

 

 ──勝負!


 そのまま剣を本気で振り下ろすと、刀身部分が折れて飛んで行った。


 魔鋼(まはがね)製の剣撃を受けても彼女はビクともせず、飛んで行った刀身を呆けたように目で追っていた。

 魔鋼製だぞ魔鋼製! 俺の給料数年分が折れて飛んで行きやがった!


 驚愕はしたものの、彼女なら冒険者としてやっていけると確信した。いや、それこそ上級冒険者も夢ではないだろう。

 驚愕と色々な感情が渦巻いたので、大きく息を吸って吐く。ため息というやつだ。


 彼女の名を聞くと「ミリア」とだけ。

 声を張る彼女は何か強い信念を持っているようだった。


 自室へレミと彼女を送り出し、折れた愛剣を回収しようと壁まで歩く途中で、床の削れに気が付いた。

 この練習場は魔法的強化が施されているので、それほど簡単に傷がつくような代物ではないはずなのだが?

 明らかに体格に合わない歩幅で爪で抉ったような跡が残っていた。

 これが猛スピードでの突撃の結果なのだろう。負荷に耐えられなかった床が負けてしまったようだ。


 何か魔法的──身体強化魔法を使ったのだろうか? そんな素振りはなさそうだったが?


 考えていても仕方がないので、練習場に観戦に来ていた素行不良の冒険者どもに手伝わせて壁に深々と刺さった愛剣を抜く。

 あとで久々に鍛冶屋のクソジジイにお世話になるとするか。


 とりあえず剣を自室の隣の物置にしまうことにする。

 折ってしまったことを剣に謝らなければな。しばしここで休んでいてくれ。必ず直す。

 目を閉じて黙祷をささげるように押し黙ると、何やら自室が騒がしい。


 このギルドで新人の登録なんて久々だから、レミの奴も興奮しているのだろう。


 物置を閉め、自室のドアを開けて入るなり、できたばかりの鉄カードの動作確認ということで水晶球にかざして魔力を込める。


 ──だが、表示された情報に驚いた。まず最初の項目に閲覧制限の注意書きが出てくるなんて思ってもいなかった。

 ギルマス権限でも閲覧が禁止されている領域がある。そんなことは今までなかったぞ?


 名前の欄を見て驚愕した。『ミリアリア・フォクシリウス』と表示されていたのだ。

 直接会ったことはなかったが、5年前にフォクシリウス領主の長女が亡くなったということで一応葬儀に参列した記憶がある。お披露目会もなく亡くなった為、当時は惜しまれながら埋葬されたのだが、肖像画一枚すら無い、異様な葬儀だったのを覚えている。その長女の名前だった。


 一般職員では表層に表示される名前や討伐記録くらいしか閲覧できないから良いものの、ギルマス権限で普通閲覧できるであろう領域が貴族権限で秘匿されていた。

 難読化された領域にこれ見よがしにフォクシリウス家の紋章が居座っていやがった。


 普通、国を支配する側の王族貴族連中はその身分を保証する為に生まれた時にその生体情報を『儀式』を用いて巨大水晶に登録する。そうすることでもし誘拐されて姿()()()()()()()としても身分の照合ができるようになっているのだ。


 情報を記憶していた巨大水晶が制限付きだが情報を寄越したわけだから、目の前にいるのはミリアリア・フォクシリウスその人なのだろう。

 5年もどこで何をしていた……?


 不審な目で本人が見つめてくるので、平静を装いながら慌てて鉄カードを返す。

 貴族のいざこざなんぞに巻き込まれたくはない。


 遠い目をしながら窓の外を眺めることにした──。

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