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こんけるふぇん(仮)  作者: 黄昏狐
第1章 冒険者パーティー『狐火』
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第4話 狐娘はギルマスと戦う。

 受付のお姉さんがギルマスを呼びに行って戻ってくると、大剣を背負った皮鎧の大男が一緒だった。

 左目の目蓋を縦断するようにある傷跡が強者感を引き立たせていて、威圧感がすごい。


「ふむ、良かろう。狐娘──か???」

「ギルマス、手加減お願いしますね」

「わかってるわかってる」


 言いながらギルマスと呼ばれた男はあたしの頭の先から足の先まで流し見ると、首を傾げた。


「これから戦闘技能テストを行う。君、武器は何を使う?」

「武器なんていらない」


 あたしは武器なんていらない。今着ている狐パーカーのウェイズ自身が武器なのだから。


「ふむ。武闘家か? そうは見えないがまあいい。俺は剣士だから武器を使わせてもらうぞ。奥の練習場を使うから付いて来い」


 言ってギルマスは背を向けて歩き出す。

 歩き出したギルマスに付いて行くと、後ろにゾロゾロと人が付いて来る。


『ウェイズ、どうする?』

『うーん、まああまり見られたくはないがしょうがない。認められなければ冒険者になれないから全力で行くぞ』


 真っ直ぐ歩いていくと練習場の広場へ出た。途中で後ろを付いて来ていた人たちが途中の通路を曲がって姿が見えなくなったと思ったら、練習場の外縁に設けられた観覧席らしき場所から現れた。


「おい、お前はあのガキどうだと思う?」

「無理じゃねーの? あんなふざけた格好してるし」

「俺は大穴で実は強いんじゃないかと思ってる。晩飯賭けてもいい」

「ハハッ! じゃあ俺はガキが認められたら逆立ちして大通りを3往復してやるよ」


 外野のガヤガヤとした声が聞こえてくる。

 少しだけ高鳴る胸の鼓動を落ち着かせるために、前屈だったり屈伸だったり腕をグルグル振り回したりして体を解して落ち着かせる。


『開始と同時に強化魔法は掛ける。相手の斬撃は局所強化で防ぐから気にせずいけ。腕の爪の使用は制限しないが、ギルマスの様子を見て使え。相手が防げなさそうなら使うな。足の爪も機動力強化のために出しておく』

『了解』


 家の山であたしたちが何をしてきたか。ウェイズと二人三脚でこれからの旅をしていく為に編み出した戦闘スタイルを対人で試す時が来た。


 ギルマスが練習場の中心で立ち止まり、あたしもそれに倣って立ち止まる。


「全力で来いよ、狐娘。受け止めてやる」

「望むところ」


 ギルマスは背中の大剣を手に取り構えながら床にある印の場所まで歩いて止まる。


「君も床の印の所まで動いてくれ」


 あたしも言われて床の印まで歩く。

 ギルマスとの距離は30メートルくらいだろうか。


「では──始め‼」


 ギルマスの馬鹿デカい声が広場に響く。


 その瞬間、あたしは腰を低く落とし、右足を一歩下げて両腕が地面に着くスレスレまで姿勢を低くし、それこそ四足歩行に近いのではないかと思うくらい低い姿勢を取る。

 あたしもウェイズも思い浮かべているのは狩りをする狐だ。


 それこそここは草むらではないが、ギルマスという獲物を仕留めるために意識を集中する。


「おい、なんだあの構え⁉」

「見たことねえぞあんなの」

「ハッ! あんなの見掛け倒しだって──」


『行くぞ』

 ウェイズの念話と共に体の各部に強化魔法が掛かり、靴の爪が少しせり出す。外野の声が途切れるその前に力の限り一歩を踏み出す。


 あたしは靴の爪で練習場の床を捉えて抉りながら、滑るように加速を開始する。

 戦闘の熟練者なのであろうギルマスは、急速に眼前に迫るあたしを見て目を見開いたが、焦ることなく横方向への斬撃を繰り出す。

 牽制のつもりの斬撃なのだろうが、あたしは避けるつもりはない。


「「「──ああああっ⁉」」」


 ギャラリーが息を飲んだ瞬間、正面左から右に抜ける斬撃を左腕の肘から手の甲に掛けて使って弾き飛ばして軌道を変える。

 ギャインと金属同士がぶつかったような音が響くが、あたしは追撃の手を緩めない。


 右のストレートをギルマスの腹にねじ込むつもりでさらに一歩踏み出して右手を振り抜こうとすると、弾いたはずの大剣が眼前に腹を向けて滑り込んでくる。大剣を盾にして防御するつもりらしい。

 大剣の腹を殴るガコーンという気の抜ける音がしたが、ギルマスは勢いを殺しきれずにガード姿勢のまま床に土ぼこりを上げながら数メートル下がった。


「なんという──⁉」


 ギルマスが驚愕の声を上げたが、それもお構いなしでまた一歩一歩踏み込んで加速する。

 ギルマスの視界は自身の武器である大剣で正面を塞がれていて、前を見れていないはずだ。

 そう踏んであたしは横に避けることもなくギルマスに向かって猛進する。


 ギルマスが剣を構え直した瞬間にはあたしも右腕の爪を出しての斬撃体勢に入っていた。

 だが、そこはさすがギルマス。彼は手加減するつもりが本気を出さざるを得なくなったようで、すでに次の斬撃が今度は直上からそれこそあたしを真っ二つにせんばかりの勢いで振り下ろされていた。


 あたしは瞬間的に体を捻り、上体を起こして左腕も爪を出して、爪を交差させて受け止める──予定だったのだが。


 受け止める力が強すぎたようで爪で剣を切り裂いてしまい、切り裂かれた剣の先が観覧席まで飛んで行った。


「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁ──⁉」」」


 振り返ると体に刺さってはいなかったが、飛んできた剣先と剣の破片を埴輪のようなポーズを取ることで回避していたギャラリーがいた。


「──あっと」


 まだ戦闘中だったので慌てて振り向くと、ギルマスはほぼ柄だけになった剣を見つめながらポリポリと頭を搔いて遠い目をしていた。


「これ、ミスリルの次に硬い、魔鋼で作られた剣だったんだけどなぁ……高かったのになぁ……」


「あのガキ、ギルマスの剣を折りやがったぞ、どうなってやがる?!」

「俺は見たぞ、あのガキ、腕であの剣を受け止めて軌道を逸らしやがった!!」

「化け物だ!!」


 ギャラリーがうるさいので一睨みするとビクッと反応してすぐに静かになった。


 遠い目をしていたギルマスはため息をつくと意識がこちらに戻ってきて、あたしの目をまっすぐに見つめてきた。


「合格だ。この街にこんな逸材がいたなんてな……。ところで君、名前は?」


「ミリア──」


 本名を言い掛けて、首を左右に振る。


「ミリア。ただのミリア。姓は無い」

「そうか」


 何かを感じ取ったギルマスは疑うことなく頷いてくれた。


「ミリア。冒険者カードを発行するから、あとでギルマスルームに来てくれないかな」

「わかった」

「レミーーーーーーーーー!!!!!!!」


 慌てて耳を塞いだが耳鳴りするほどのクソデカボイスでギルマスが受付のお姉さんを呼ぶと、素早くお姉さんが駆け込んでくる。


「ギルドカード発行だ! 私は折れた愛剣を回収してから部屋に戻るから準備してくれ」

「わ、わかりました──ってギルマスの剣が折れ──えええええっ⁉」


 目を白黒させて、壁に突き刺さる折れた剣とあたしを見比べるお姉さんだった──。

※言い回しがおかしかったので修正

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