第7話 神従
日を改めてもう一度俺たちとナインテイルの飼い主たちとの話し合いの場が設けられた。
狐パーカーを着ている銀髪の少女とそのパーティーのリーダーらしき少年がナインテイルの飼い主らしい。
彼らも同じ宿に泊まっているとのことで、こちらの部屋の方が大きいので呼んで来てもらった。
ベッドに腰掛けた俺の膝の上にルベロ、その両脇にケルとロスが寄り添い、他のメンバーは空いてるベッドだったり椅子だったりに座ってもらっていた。俺はルベロの椅子のような扱いで、話し合いの場にはいるが参加はしていない。
「──で、この街に向かっているフェンリルを迎撃するのを手伝って欲しいじゃ」
「ハデス様もフェンリルの迎撃と瘴魔討滅を協力するのならば今は見逃すとおっしゃられていたじゃの」
「超法規的処置なのじゃ」
『フェンリルだと!? 族長代理様の仇を討たねば!!』
フェンリルという言葉に眉間に皺を寄せてサコンが吠えた。
「流石にナインテイルと我らケルベロスの連携があれば、フェンリルといえど敵うまい」
「単独で突っ込むでないじゃ、サコン。敵うわけがないじゃ。」
「ウェイズリシアの全盛期の力があれば鬼に金棒だったのじゃがのう」
ご主人ズは狐パーカーに成り果てているウェイズリシアを見て、ため息をついた。
『我はサポートしかできぬが、うちのミリアは強いぞ。我が二つ名の元である黒炎爪を自在に操れるまでに強くなったのだぞ。手足の爪に魔力の炎を纏って、攻防一体の斬撃を繰り出せるようになったのだ』
狐パーカーについているデフォルメされた狐顔がドヤ顔をしている。
「連続戦闘は一時間までって制約付きでしょ、ウェイズ? あたし、また筋肉痛で苦しみたくないよ」
『ぐぬぬ。だが、魔力同様に強化魔法は使えば使うほど体に馴染んで、戦闘可能時間が伸びるのだ。戦闘不能になっても丁度いい回収係もいるしな』
「回復魔法治す時に全身バッキバキに痛むのヤダァ!!」
「あのですね、敵の攻撃を掻い潜りながら最前線に行くこちらの身にもなってくださいよ」
リーダーのアーランドは引き攣った顔で苦笑いしながら言う。俺と同じく苦労してるのだろう。
「うちの子自慢はわかったじゃの」
「だったら、瘴魔と戦ってその実力を見せてもらうのじゃ」
「フェンリルが来るのはまだ先だし、番犬の迷宮に潜るじゃ。案内してやるじゃ」
「──瘴魔って何なんです?」
アーランドに尋ねられたご主人ズが三人でヒソヒソ話をしてから向き直る。
「冥府の大釜のようなものの奥底で眠る人間の悪意・欲望その他が現世に漏れ出して形を持った姿、とでも言うべきかのう?」
「本来であれば輪廻転生時の魂の再構成に必要な膨大な素材の一部として消費されるはずのものじゃが、どこかの誰かさんらが何回も境界干渉を引き起こす禁呪を使うものだから、冥府の大釜の底に穴が開いてそれらが漏れ出したのじゃ」
「醜態な見た目じゃから、普通の人間が見たら良くて吐き気、悪くて『死』を催すじゃの」
言われたアーランドが怪訝なジト目でお狐ズを見ている。
アーランドにジト目で見られたお狐ズは下手くそな口笛で誤魔化そうとしていた。
ここに来て、俺の知らなかった世界の仕組みが次々と明らかになってくる。
冥府と言うものの実在。
輪廻転生と魂の在り方。
そして、自分はご主人ズの手でその輪廻転生の輪の外へ弾き出されたのだと。
「現世に住まうお主らがどこまで知っていたのかは知らぬが、禁呪とは禁呪たり得る理由があるじゃの」
「源神オルディン様に仕えていたはずの神従ナインテイルも、落ちぶれたものじゃ」
「神々による天地創造の時代から何年立ってると思うじゃの? オルディン様がお隠れになって久しいじゃの」
ご主人ズは俺との生活で口にすることのない、知らない単語をスラスラと言いやがる。
『神に仕えるだと? 数千年の間族長をしていたが、先代に聞いたことはないぞ?』
ウェイズリシアはデフォルメ顔を怪訝に歪めた。
「百代以上前の族長の時代にオルディン様はお隠れになり、冥神ハデス様だけがこの世界に留まって下さっておられるじゃの」
「現世と冥府──この背中合わせを我らは『世界』と呼んでいるのじゃ」
「均衡が崩れつつあった世界が、どこかの誰かさんらの禁呪によってそれを加速させているじゃ」
ご主人ズにチクチクと突かれて、お狐ズは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「近い将来、この世界の『仕組み』は崩壊する。これはこの世界が成り立った時から想定されていたことじゃの」
「崩壊した時、世界は混沌に沈むだろうが、誰にも止められないのじゃ」
「それを少しでも延命するのが我らの役目。ナインテイルが忘れた、神に従う神従たる我らが役目じゃ」




