第5話 狐vs番犬
その朝、我らは珍しくデッドが目覚めるよりも早く起きていて、まだ薄暗い中で着替えて自ら髪を整えていた。
思い詰めたような、三人とも強張った顔をしていた。
ついに街の近くまでナインテイルがやってきたのだ。
その強大な魔力を感知して体がガタガタ震える。
「デッド、今日でお主との契約は終わりかも知れぬじゃ」
「デッドと過ごした日々が、懐かしいじゃの」
「デッドと出会えて、本当に良かったじゃの。我ら、孤高の番犬ケルベロス。冥府にいた時はただ独りで番犬としての役目をこなしてきた。誰かと一緒にいられることなど、本当になかったじゃの」
まだ眠っているデッドのベッドに静かによじ登り、添い寝する。
「我らが倒されて冥府へ帰還したら、その時点でデッドとの契約は終わるじゃ。そしたら、我らからデッドへの魔力供給が絶たれて、デッドの体はきっと砂のように崩壊することになるじゃ」
「数日の猶予はあるかもじゃの。でも、確実な終焉が待ってるじゃの」
「もう少しだけ……デッドと一緒にレストラン巡りしたりデッドの手料理をお腹いっぱい食べたりしながら馬鹿やって、一緒に笑っていたかったのじゃ」
我ら、今、どんな顔をしているだろう? 三人とも泣いているのはわかる。鼻をグズグズと啜る音が聞こえてくる。
「「「我ら、本当にデッドと夫婦になりたかった」」」
「しかし笑えるじゃの。門から出る前に三人とも一目惚れするなんての」
「魂元は同じじゃ。好みも同じはずじゃ」
「あーあ、どうして幸せな時間はこんなにも短く終わってしまうのじゃ。これから、デッドの居ない長い人生を歩むくらいなら、ナインテイルに殺されてしまった方が良いのじゃ。幸せな気持ちを抱いたまま、最期を迎えられる」
「そうじゃの」
「ハデス様なら、いくらでも我らの代わりなど生み出せる。我らは今まで永いこと頑張ってきた。そろそろご褒美を貰ったって、怒られないはずじゃ」
「契ったところで、どのみちデッドを冥府へ連れ帰ることは叶わない。だったら──最期は自分の愛に素直になりたい。ナインテイルから逃げればきっと冥府へ送還されてしまう。どう頑張ったって愛する者が消えてしまうのなら、我らも現世で愛を胸に潰える」
三人で頷き合い、デッドのベッドから降りて街の外へ向かう。
せめて街に被害が出ないように、門の外で迎え撃つ事にしよう。
宿を出て通りを歩き不審そうにこちらを見てくる門番に挨拶して外に出る。
ナインテイル二匹を目視する。
三匹のはずなのだが──まあいい。
我らケルベロス。冥府の門番なり。
真の姿に戻り、ナインテイル一行の前に立ち塞がる。
ナインテイルが我らの気配に気が付いたようで駆け出してくる。
ターゲットの気配と三匹目のナインテイルの気配が重なっている──どういうことだ?
まあいい、とりあえず向かってくる二匹をどうにかしない限り、我らはターゲットに手出しできない。
強い者と戦うのは好きだ。
最後に戦う相手が夫婦のナインテイルなら申し分ない。
現世で愛する者と永く一緒にいられるなんて──羨ましいなぁ。
一筋の涙を流した後、我らは全力で駆け出した。




