第4話 番犬として生きる道
翌朝、五年間一緒に暮らしてきたご主人ズが、初めて真面目な顔で話があると言ってきた。
珍しく腹が減ったのでレストラン荒らしに行くなんて言わずに、初めて俺と面と向かって話す気になってくれたようだ。
ただ、腹の虫が聞いたことないレベルで鳴き始めたので、俺はしょうがなく厨房を借りて山盛りオークステーキを作ってから部屋に戻り、食べながら話を聞くことにした。
「ナインテイルに北から攻められているじゃ。西からはフェンリルがこの街へ向かっているじゃ」
「我らの目的──ハデス様のご命令は、三匹のナインテイルによって守護されている魂を冥府へと連れ戻すことなのじゃ」
「ナインテイルとフェンリルの衝突も避けたいじゃの。街なんて容易く消し飛ぶじゃの」
「──は?」
ご主人ズの口から衝撃のモンスター名が出た。
ナインテイルとフェンリル!?
「どっちも伝説級の魔物じゃねえかよ! どうしてそんな化け物がこの街に!?」
「フォクシリウス領に安置されていた死に損ないの狐が全ての発端じゃ。死してなお、自らその魂を現世に縛り付ける変態じゃ。どM過ぎんじゃろて」
「ナインテイルは聖地を目指して南下するじゃの。フェンリルはきっと次の滅ぼす存在をそのナインテイルに定めたじゃの。ナインテイルの進行方向を察知したようじゃの。進行速度的にこの街がちょうどいい戦場になるじゃの」
俺は頭を抱えて話を聞いた。頭痛が痛いとかそういうレベルの話だ。
「ハデス様よりのご命令は、南下を続けるナインテイルから守護されている魂の簒奪とフェンリルの会敵の阻止じゃの。カチ合えば数万単位で死者が出るじゃの。そしたら、ハデス様が仕事終わらなさ過ぎてブチギレになられるじゃの」
「そんなことになったら、我らとデッドとの契約も終わって、デッドは砂になるじゃ」
「は? 俺砂になるの???」
「安心するのじゃ、砂になったら飲み込んで我らの血肉としてやるのじゃ」
なんだか言い方が軽い気がする。昨日の夜の号泣はなんだったのか。
「デッドの焼いたステーキが食えなくなると考えると、悲しくて泣いておったじゃの」
「夫婦の契りを交わしてデッドを冥府に連れかえれば誰にも怒られないじゃ」
「フェンリル怖い……ナインテイル怖い……我らなんかがあんな化け物に敵うわけないのじゃ」
「ええ……」
貞操観念よりも食欲の方が勝るご主人ズはどうかかしてると思うが──今思えばいつものことか。
ケルベロス形態の時のご主人ズは結構強そうに見えるが、実はそうでもないらしい。
「我らケルベロス、真の姿はあんな姿をしてはいるが、現世に顕現している時点で本来の力の半分も出ぬじゃの。我らの真の存在理由は冥府の門の守護じゃの」
「専守防衛が基本じゃ! じゃがハデス様の命令じゃから……」
「使える手駒がないからってハデス様も番犬使いが荒いのじゃ」
いつもと違って急に弱腰になったご主人ズに呆れた。
ダンジョンでブイブイ言わせて魔物を狩りまくるご主人ズでも敵わない強さの魔物なのだろうか。
「「「冥府であれば遅れは取らぬが、現世ではなぁ…」」」
ご主人ズは遠い目をしながら同じセリフを吐き出した。
「ちなみにあと数日でこの街に到着するじゃ」
「対応策は何も考えてないじゃの」
「だってあいつら強すぎるのじゃ」
涙目で俺にすがり付くご主人ズ。
縋りつかれても俺だって困る。
「デッド、やけ食いじゃ! 肉もってこい肉!」
「今日は荷物の肉を全部食うじゃの!」
「腹が減っては戦はできぬ!」
「はいはい……」
いつの間にか平らげられていたステーキの山を見て呆れた顔でため息をつく。
また女将さんに厨房を借りることにしたのだが、今度はご主人ズも一緒についてきて、焼けた肉をさらに置いた瞬間に食っていく。
三人とも我先にステーキに殺到し、珍しく殴り合いの喧嘩までしながら肉の争奪戦を繰り広げた。
ケルベロスの考えていることは人間だった俺には理解できない。




