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こんけるふぇん(仮)  作者: 黄昏狐
第2章 冒険者パーティー『ヘルハウンズ』
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第3話 番犬の休日

 目を覚ますと、宿の部屋だった。


 一度死んだ身だというのに体調が良くないなんてどうかしている。

 起き上がってご主人ズがいつも寝ているベッドを見ると誰の姿もない。


 開け放たれている窓から日差しを見るに、翌日の昼過ぎくらいといったところか。

 ご主人ズに起こされる事がないなんて久々な気がする。

 

 俺を放っておいてレストラン巡りでもしているのだろうか。止める人間がいないと、街が食糧難に陥るレベルでご主人ズは食う。めっちゃ食う。

 慌てて飛び起きてレストラン街に向かおうとして、とりあえずいつも食堂にいる宿屋の女将さんに何か言って行かなかったか尋ねることにした。


 食堂へ行くと、いつも客が座る席から厨房を眺める女将さんの姿があった。


「女将さん、俺のご主人ズ──」


 言い掛けた俺を女将さんが静かにするようにと人差し指を立ててジェスチャーする。


 厨房を見ると、犬耳娘三人組がいろんなものをひっくり返したり壊したりしながら、何かをしていた。

 厨房なんだから料理なのは確かだが、たまにノコギリで物を切る音や鉋を掛ける音、金槌で釘を打つ音なんかも聞こえてくる。


 エプロン姿のご主人ズは黒い髪に白い粉を被ったり、手を包丁で切ったのか絆創膏だらけだったりしながら、料理をしているようだった。


「今日、記念日なんだって?」


 女将さんは小さな声で尋ねてきた。


「記念日──?」

「デッド君とあの三人が出会ってちょうど六年目だっていうじゃないかい。あなたは忘れちゃったのかい?」


 女将さんが苦笑いして俺を見てから、厨房で滅茶苦茶しているご主人ズに向き直る。


「記念ケーキを作るから厨房を貸して欲しいって言われたんだよ──で、デッドくんは誰が本命なんだい?」


 女将さんが小さめの声で尋ねてくるが意味がわからない。

 俺はご主人ズに仕える身であって、選ぶとかそういう関係性はありえない。


 ふと見ると、ご主人ズの犬耳が全てこちらに向いて話を盗み聞きしているようだった。


「いや、俺は彼女たちに仕える身だからそういうのはちょっと」

「おやまあ、律儀なもんだねぇ」


 女将さんが笑うが、ギロリとこちらを睨む目が六つ。笑ってない。


「──三人の誰かを選ぶなんて俺にはできない。三人にいつまでも仕えると決めたのだから」


 誰にいうわけでもなく呟くように言って、俺は腕まくりしながら厨房に入って行く。


「ご主人ズ、そんなんじゃケーキじゃなくて煎餅になっちまうぞ!」


「お前はまだ寝てるじゃ!」

「そうじゃ、体がまだ本調子じゃないじゃの?」

「そうなのじゃそうなのじゃ!」


 厨房に立つ俺にご主人ズがまとわりついて来る。

 俺はダンジョン内でご主人ズの食事を作ることもあるので、料理の腕前には自信がある。


 

◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆



 今日の夕食はオーク肉のステーキを山ほど作ってやり、食らわせてやった。

 腹が膨れるほど食べた後に、俺も作るのを手伝った巨大ケーキもペロリと平らげてしまうんだから、本当にその華奢な背格好なのに胃袋がどうなっているのか解剖してみたいものだ。

 蝋燭を6本立てて火を点けられて、息で吹き消すように言われたので従ったが、まるで誕生日ケーキにしか見えなかった。

 実際問題、勘違いした他の客に「誕生日おめでと〜!」なんて言われたしな。女将さんが爆笑していた。


 本当の問題はその後だった。

 部屋に戻ってパジャマに着替えたご主人ズにベッドに押し倒されたのだ。


 俺の右腕に跨って押さえ込むケル、胸の上に跨って押さえ込むルベロ、左腕に跨って押さえ込むロス。逃しはしないという強い意志を感じた。


「──で、じゃ。デッドは誰と(つがい)になりたいじゃ!?」


 ルベロの言葉に同調するようにケルとロスも頷く。


「あのな、ご主人ズ。俺はご主人ズにそんな感情は抱いてない。一人だけ選ぶなんてできない」

「甲斐性無しめ!」

「朴念仁め!」

「すっとこどっこいめ!」


 罵られても、俺の考えは変わらない。変えてはならないと思う。

 もし俺が三人の中から一人を選んだとしたら、俺ら四人の関係性は大きく変わり、ご主人ズ同士の関係性もギクシャクしてしまうだろう。


「感情抑制が効き過ぎているのじゃ?」

「そうじゃそうじゃ」

「外してしまうじゃの?」

「やめろご主人ズ。俺は三人との今の関係が好きだ。バランスを崩したくはない」

「一夫多妻制も悪くないじゃの?」

「それもいいじゃ」

「賛成なのじゃ」


 三人が顔を見合わせてゴクリと唾を飲む。そして三人で俺の服を脱がせに掛かる。


「ちょ、何すんだご主人ズ!?」

「既成事実とやらを作ってしまうじゃ!!」

「やめ……やめろ!!」


 俺が大声で怒鳴ると、ご主人ズは体を縮こまらせた。


「……ご主人ズ、何か焦っていないか? 俺に言えないことなのか?」


 俺の言葉に三人は黙り込む。口を強く閉じて、目に涙を浮かべている。


「なあ、ご主人ズ。俺はずっとここにいてやるから、焦らないでくれ。俺は大好きな三人とずっと一緒にいたいと思っている。もし俺が消える時が来たとしても、それまでずっと一緒にいてやるからさ」


 俺の言葉がダムを決壊させたのか、涙で顔を濡らしたご主人ズが俺に抱きついて来て、人の服で涙を拭ってやがる。鼻水はやめろ。


 でも──それだと俺、消えるのか──?

 否定の言葉が欲しかったがそれがない。今すぐというわけじゃないのだろう???

 俺は──最後の瞬間まで三人にお仕えするだけだ。泣く三人娘を胸に抱き、静かに目を閉じる。

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