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こんけるふぇん(仮)  作者: 黄昏狐
第2章 冒険者パーティー『ヘルハウンズ』
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第2話 番犬は喰い千切る

 寝相の悪いケルに頭を蹴飛ばされて目が覚めた。

 三人姉妹揃って一つのベッドで寝ていたはずなのだが、朝になると必ず俺のベッドで一緒に寝ていて、その寝相の悪さが目覚まし代わりになる。

 ケルは足が枕に向いていて、ルベロは俺の腹を枕にして寝ていてケルの下敷きになっていて、ロスが俺の左腕を両手両足で抱き枕状態にして寝息を立てていた。


「起きやがれご主人ズ」


 俺が声を掛けると、ちょうど朝の七時を知らせる鐘が七つ鳴り響いた。

 ベッドから起きて椅子を三つ並べて、そこに脇の下で抱えて持ち上げてご主人ズを一人一人座らせる。

 ボサボサ頭になっている三人の髪を櫛で梳かしてやり、お気に入りのパジャマから無造作に脱ぎ捨ててあった服に着替えさせる。

 最初こそ戸惑ったが特に何か感情を抱くわけもなく、淡々と妹を世話するような感覚でいつもやらせてもらっている。

 いつも思うが、自身の魔力で服をわざわざ形作っているのなら、パジャマも魔力で作ればいいんじゃないのか?


「「「──くんくん」」」


 朝食の時間になり、食堂から朝食のモーニングセットを作る匂いが部屋まで漂ってくる。

 モーニングセットと言ったものの、ご主人ズ専用モーニングセットだ。


 三人が椅子からすくっと立ち上がり、俺の手を引いて食堂に向かう。


 食堂に着くと、おばちゃんが三人専用のモーニングセットを用意してくれていた。

 お金と食材を渡して特別に頼んである、三人が名付けた『ケルベロスぺシャルモーニングセット』だ。

 名前がケルベロスとなっているが、誰もがそれは三人の名前をふざけてくっ付けたものだと思っていて、まさか本物のケルベロスが自身専用の朝食を作らせているなんて思う人はいない。


 朝っぱらから肉汁が滲み出る極上の肉質の、厚さ10センチほどの超巨大レアステーキとサラダ、パン、スープのセットだ。

 俺は見るだけで胃もたれするので、おばちゃんがいつもトーストセットを作っていてくれる。


 宿には他の客も泊まっていて、朝は皆食堂に来るのだが、こちらを見て胃もたれしてそうな顔をしていた。俺たちは長期に渡ってこの宿に世話になっているので、ある意味この宿の名物的光景にもなっていた。


 三人の犬耳娘は喜びながらいそいそと席につき、冥神ハデス様への祈りの言葉を捧げてからステーキに齧り付く。大好物のステーキを目の前にしても祈りの言葉を忘れないところを見るに、それ程までに崇拝しているのだろう。


 俺がトースト一枚を齧っている間に、三人は『ケルベロスぺシャルモーニングセット』を平らげ、俺のトーストの付け合わせに出されていた焼きソーセージやベーコンエッグも食べて、満足げにゲップをしている。

 俺の分まで食ったのは怒らないが、見た目が少女なのだからもう少しこう、な? と呆れてしまう。


「今日は(ダンジョン)に湧いた魔物の一掃を行うじゃ」


 一応、ご主人ズはケルベロス形態時に中央の頭となるルベロがリーダー兼頭脳的な存在で、右の頭のケルが魔法担当、左のロスが脳筋担当だ。あくまで見ていて、の話なので彼女たちは個々が一定以上の魔法も使えるし、体は一つなので物理攻撃力は同じだ。


「ギルドには()()()()なのじゃ」

「久しぶりに稼いで美味い肉を食うじゃの」


 三人とも特上ステーキを頭に思い浮かべているのか、口元から涎が垂れている。口元に付いていたステーキの油と涎を拭き取るのも従者である俺の仕事だ。ご主人ズはその辺が無頓着なのだ。


「いつも通り、半分をハデス様への贄として、半分を我らで冒険者ギルドに卸し、得た金でレストランを食い荒らすじゃ」


 冥府の番犬と言われるだけあって、狩った獲物の半分は上司であるハデス様へ納めるとのことで、いつも狩った半数だけをギルドに納めて、素材と討伐の報酬を受け取っている。

 まあ、俺はハデス様とやらがどんな人?神?なのかは知らないが。


 いつも通り朝食のお礼をおばちゃんに言ってから食堂を出て、そのままダンジョンへ向かう。


 俺は移動の度に急かされてご主人ズに両手を引かれ背中を押される。

 見てくれは愛らしい少女たちとその彼女たちに引っ張られる優男といった感じなのだが、三人の邪魔をすると惨殺する気満々の魔力全開の殺意と絶対零度の暗黒の眼差しを向けるので、その度に俺が諌めるのだが、繰り返すうちに街の人々は俺らを見つけると自然に道を開けてくれるようになった。


 ダンジョン入り口に着くと、ギルド職員が交代で見張りをしてダンジョンに入ろうとする者を止めていた。

 ギルドとご主人ズの間では密約(きょうはく)が交わされていて、ご主人ズの家であるここ『番犬の迷宮』の自室前までは冒険者の出入りの自由を認める代わりに、魔物の駆除の時は何者でも立ち入りを禁止する権利を与えられている。


 ご主人ズが直々にこの街のギルマスに会って本当の姿で殺意(プレッシャー)を掛けて、いい歳で強面のギルマスをチビらせて認めさせたのだ。目の前で犬耳娘三人が合体してケルベロスになったらそりゃあそうなるとは思う。


 過去は上級以上の冒険者だけで賑わっていた『番犬の迷宮』だが、ご主人ズが定期的に魔物の駆除をしているため今では初級冒険者向けのダンジョンになっていた。

 それでもたまに魔力溜まりからは強力な魔物が生まれることもあるため、上層は初級、中間層は中級、下層は上級者向けとなっている。上級者が潜るにはあまり旨味のないダンジョンに成り果ててはいる。


「ヘルハウンズの皆様、おはようございます」


 入り口で見張りをしていたギルド職員が俺らを見るなり声を掛けてきた。


「通達いただいた通り、現在迷宮内に潜っている冒険者はいませんので、()()()()()()()()()()()

「「「うむ、良きにはからえ」」」


 ご主人ズがふんぞり返って無い胸を張って言う。

 通常のダンジョンであればダンジョンボスという括りになる彼女たちだが、ダンジョンから自由に出入りしている。それを鑑みるとここ『番犬の迷宮』は異質な存在なのかも知れない。


「デッド、行くじゃ」

「毎回俺ってご主人ズに引っ張られてくだけなんだが、必要なのか?」

「小腹が空いたらお主の料理を食うのじゃ。今回も食材はたんまり収納してあるのじゃ」

「今日は前に食べたテリヤキなるものがまた食いたいじゃの」


 俺は職員に軽く会釈してからご主人ズに引っ張られてダンジョンへ突入した。



◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆



 『番犬の迷宮』は37階層からなる石造のダンジョンだ。

 湧く魔物も基本はゴブリン、コボルト、オーガ、オーク、ミノタウロスと初級冒険者でも簡単に倒せるものから少し厳しいものまでとなっている。魔物の湧き加減をご主人ズが管理しているわけではないので、たまにドラゴンマイマイなんていうドラゴンの頭を持った巨大なカタツムリの魔物なんていう珍妙な魔物が湧くこともある。見た目通り顔だけ強いが。


 ご主人ズは正確に魔物の位置を把握していて、最短経路で次々と魔物を倒して次元魔法の地獄門(ヘルズゲート)で収納していく。どこかに亜空間を使って収納する魔物がいるとは聞いたことがあるが、ご主人ズが使う魔法は収納の度に漆黒の門が現れて扉が開いて飲み込むような感じだ。


 ご主人ズはいつも通り魔物をその華奢な見た目に反して殴り殺したり爪で首を跳ね飛ばしたりしながら踊るように次々と魔物を狩っては収納していく。


 基本的に二人が攻撃一人が収納という感じで順繰り順繰り代わりながら全てを駆逐していく。

 素早い動きで反撃を受けることも返り血すら浴びるもこともない。


 あっという間に37階まで駆け抜けてご主人ズが守護する漆黒の扉がある部屋まで到達した。


「今回は雑魚しかおらんかったじゃ」

「間隔が短かすぎたのじゃ?」

「いや、何か視線を感じるじゃの」


 扉の前で三人が集まって会議をしている。

 その頭上で──俺が死んだ原因となった異形の魔物がまた現れて天井に張り付いていた。

 気が付いた俺は腰を抜かしてへたり込む。


「──休んでおれ。我らにはお主が必要じゃ」


 漆黒の突風が吹き荒れ、三頭四足の魔獣ケルベロスがそこにいた。

 体全体が漆黒の艶やかな毛並みに覆われていて、所々に白い毛が生えていて、ツートンカラーがアクセントになっていた。


 敵は前よりも大きい個体のように思う。球状の体が大きい代わりにチグハグな手足が小さくなっているが、その分数が多くなっている。見るだけで吐き気を催すような醜態なデザインの魔物だ。


 俺は荒い呼吸をしながら早まる鼓動と明滅する視界に立っていられなくなって、ダンジョンの壁にへたり込む。


 俺が壁際にいることを確認してから、ご主人ズは本気で敵に向かっていく。


 魔法の三重発動をして漆黒の炎を吐きながら、両前足の打撃・斬撃を連続で繰り出していく。

 敵の触手のような雷と攻撃がぶつかる度に地響きが起きてダンジョン全体が揺れる。


『ぬぅ。久々に骨が折れそうじゃ。デッドよ、奴を見るな。心をやられる』

『この世の理の外にある魔物じゃの』

瘴魔(しょうま)は現世に漏れ出てはいけないのじゃ』

『どこぞの馬鹿が冥府の扉をこじ開けてくれたおかげで、その隙間から瘴魔が溢れている。魂の収容違反も起きたおかげでハデス様はその辻褄を合わせるために苦労なされているじゃ』


 触手雷撃を避け、弾き、ご主人ズは少しずつ敵を喰い千切って小さくしていく。


「こいつは本当に不味い。今すぐ口直しに極上ステーキが食べたいじゃの」


 敵がバランスを崩して床に倒れるとご主人ズが上からのしかかって押さえ込み、ガツガツと瘴魔を喰らい始めてあっという間に完食した。


 ゲフッとゲップを三つの口から漏らすと、またいつもの三人娘の姿に戻った。


 荒い呼吸のままの俺に駆け寄ってきて、悲しそうな顔をして俺の目を覗き込む。


「また、記憶を消してやるしかないのじゃ?」

「せっかく従者としてここまで育ったのにもったいないじゃの」

「いや、今回はきっと戻ってくるじゃ。デッドを信じて、寄り添っていてやるじゃ。そのための眷属化じゃ」


 三人の少女が俺に優しく触れる。


「今は何も考えずにゆっくりと呼吸をしろ。我らの温もりだけを感じろ」

「これ以上の眷属深化は意識のないただの操り人形なのじゃ。そんなのがそばにいても面白くないのじゃ」

「目を閉じて今は休むじゃの」


 ケルが何かの魔法を掛けてくれて、意識が遠くなっていく。

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