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こんけるふぇん(仮)  作者: 黄昏狐
第1章 冒険者パーティー『狐火』
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第3話 狐娘は串焼きの双剣を手に入れた。

 おばちゃんがあんぐりと口を開けてこちらを見ていた。


「つ、強いのね、お嬢ちゃん」

「ミリアはそれなりには強いのです」


 無い胸を張って、強者アピールしてみる。

 

 周囲がざわついているが、そんなのは関係ない。あたしはお腹が空いたのだ。早く串焼きウエルカム!

 屋台の目の前に張り付き、音を立てて焼き上がっていく串焼きの匂いを堪能する。


 涎が口から溢れると思われたその瞬間、おばちゃんの声が響いた。


「はいよ!串焼き2本!お代はタダでいいよ!」

「なんで?!」


 物を買うのにはお金が要る。そう勉強で習った。今回が人生で初めてのお買い物だったというのに──⁉


「いやいや、さっきの奴らいたでしょ? ここら辺で暴れてて誰も手出しできなくてやりたい放題だったからスカッとしたのさね! そのお礼よ」


 おばちゃんは笑顔で串焼きを手渡してきた。


「いいの?」

『こういう時は素直に貰っておくものだ』


 小言を言うウェイズに、思わず視線を上に向ける。


「それに金貨出されても、お釣りを出せないよ、ハハハ! 困ったお嬢ちゃんだねぇ! さぞかし名のある冒険者さん(?)なんだろう?」


 小首を傾げるおばちゃんに合わせてあたしも小首を傾げながら、焼き上がって肉汁の滴る串焼きを両手に1本ずつ受け取り、両手万歳で串焼きを高く掲げる。


「ミリアは串焼きの双剣を手に入れた!」

『おい』

「冷めないうちにお食べよ。冷めたら硬くなるから」


 掲げた串焼きを下ろし、かぶり付く。

 口の中に炭焼きの香ばしさとシンプルな塩味が広がり、遅れて肉の旨味が広がっていく。


「噛めば噛むほどうまい⁉」


 噛むほど溢れてくる旨味に、口の中は涎の大洪水だった。


「このウイングラビットの肉は、臭み抜きをして塩で焼くのが一番さね! また見かけたら買っておくれよ」

「うん、わかった。ありがと、おばちゃん」


 あたしは肉を頬張りながら、残りの串焼きを両手に通りを歩き始めた。



 通りを歩き始めてすぐ、ウェイズのため息が聞こえた。


『はぁ……』

『どうかした?』

『呆れているだけだ』

『む』

『もう少しで人間の3枚おろしをしそうだった人間に呆れているのだが』

『誰のこと?』

『わかってて言ってるだろう?』

『ウェイズなら止めてくれると信じてた』


 あたしの念話に、ウェイズのデフォルメ狐顔が苦虫を嚙み潰したような表情になる。


 そんなウェイズを他所に、あたしは串焼きをむさぼりながら歩き続ける。たしかこっちに冒険者ギルドがあったはずだ。


『我はこれでも魔物の端くれなのだがな』

『人間に倒された時点でざーこざーこでしょ?』

『ぐぬぬ』

『でも今のウェイズはあたしのパートナーなんだから、頼りにしてるよ!』

『ぐぬぬ』


 出ましたウェイズの『ぐぬぬ』! それも2回も!

 ウェイズは大体言い返せなくなるとぐぬぬが出る。まあ、それでも気のいい相棒なのでそれ以上責めたりはしない。


『ところでさあ、ウェイズ?』

『……なんだ』


 ちょっと間があって返事が返ってくる。


『あたし冒険者になるにはどうしたらいいか知らないんだよね』

『それを数百年封印されていた魔物の我に聞くか?』

『そーだよねー』


 冒険者ギルドの場所は頭に叩き込んである。ただ、街中の風景を見るのは久々なのであっちふらふらこっちふらふらしてしまう。

 立ち並ぶ商店の店先を眺めて歩くだけでもすんごい楽しい!


『日が暮れるぞ?』

『むぅ! そこまで寄り道しないもん!』


 1時間ばかり街中をさまよったあたしは、ウェイズに突っ込まれたので泣く泣く冒険者ギルドへと足を進めるのであった。



 歩いていくとそこそこ大きい建物が見えてくる。

 家で穴が開くほど読み込んだ『アルベルの街グルメガイド』によれば冒険者ギルドには宿屋と酒場が併設されていて、この酒場の鉄板焼きソーセージが絶品なのだとか。あとで食べようと密かに決めていた。


『着いたか』


 ウェイズの声に顔を上げると、交差した剣と杖が描かれた盾から羽が生えたようなマークが入り口の上にデカデカと掲げられていた。これが冒険者ギルドのマークらしい。


 入口を出入りするのは誰もが冒険者らしい装いの軽装鎧だったり、ローブだったり、盗賊っぽいみためだったり、肩パット──あっ。

 気が付いて目を逸らした。

 関わっては面倒な連中もいるようだ。


 しばらく入り口前で呆然と周囲を眺めていると、冒険者たちの視線がこちらに向き始めたのがわかったので、おずおずと建物の中に入る。

 建物は入るとまず大きな吹き抜けになっていて、開放感がすごい。

 正面にはカウンターが複数あり、左に宿、右は酒場のようだ。右を見ると、昼間から酒をあおっている冒険者もいるようだ。


『ガラ悪っ』

『まあそう言ってやるな』


 第一印象は最悪だったが、冒険者として日銭を稼いで生きていくと決めたのだから、その第一歩を踏み出す。


 カウンターの一番左端に『冒険者登録の方はこちら』と書かれていたのでそちらに向かって歩く。

 そんなあたしを誰とも言えない視線が追いかけているような気がする。みんなこっち見てない???


 カウンターに着くと、そこには誰もいなかった。

 カウンターが埃を被っているところを見るに、この街で登録する人ってそんなにいないんじゃないだろうか?


「登録したいんですけどー!」


 声を張り上げると、後ろから騒めく声が聞こえてきた。

 まあ、容姿的にありえないのはわかるよ、自分でも。


 隣のカウンターで立ち並ぶ冒険者の相手をしていた受付嬢の一人があたしに気が付くと、カウンターの奥に声を掛けた。


「レミ、おねがーい! 新人さん来たみたいー!」

「はーーーーい」


 遠くから声がして、程なくして目の前に女性が現れた。

 冒険者ギルドの制服を着た、髪の長いお姉さんだった。青い髪と青い目が印象的だった。


「ようこそ冒険者ギルドへ! 当冒険者ギルドでは依頼を仲介、討伐依頼の紹介、魔物素材買取など、多岐に渡る冒険者の皆様のサポートを行っておりま──す?」


 お姉さんはカウンター前にいる小柄な狐娘(パーカー姿)を見て硬直した。


「依頼の受付は別カウンターで──」

「冒険者になりたい」


 あたしがまっすぐに見つめると、お姉さんはまっすぐに見つめ返してきた。


「わかりました。それでは冒険者になりえる才能をお持ちか、確かめさせて頂きます」


 お姉さんの言葉に、あたしは少しだけ動揺してしまう。


『えっ書類に名前書いて終わりじゃないの?』

『知らん』


「当ギルドでは子供の犬死にを防ぐため、幼い外見の方にはギルドマスター自らがその才能を見極める方針になっておりますのでご了承ください」

「マジ?」

「はい。マジです」


 超簡単に考えていたあたしはちょっとだけ後悔した。

※誤字脱字修正

※協会とギルドという表現が混在していたのでギルドに統一

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