第32話 アーランドという少年
目が覚めた。
隣でアーランドが静かに寝息を立てているのを、すぐ近くで眺める。
あたしの部屋のベッドは一人で寝るには大きすぎるから、一緒に寝て欲しいと引き摺り込んだのだ。
夕食中にあたしが言ったものだから、父様が『婚姻前の男女が〜』とか口走った瞬間に母様に羽交締めにされて黙らされていた。
特に深い意味はないのに。
昨夜は他愛もない話をしながら、気が付けば眠りについていたようだ。
カーテンの隙間から少しだけ明かりが入ってきているところを見るに、まだ日の出とかそんな時間帯だろう。鐘の音は聞こえないので鳴ったすぐ後なのかも知れない。
薄暗い部屋の中、ふと考える。
あたしの体は成長しないと狐トリオが言っていたが、こんな魅力のない体でアーランドの気持ちを長い間留めておけるだろうか。正直なところ自信はない。
自分自身、性格だってガサツだし、世間一般常識も礼儀作法もどちらも欠落した人間だ。
これからアーランドたちと旅をしながらその全てを養っていかなければならない。
これからどれだけ長い年月を一緒に過ごすことになるのだろう。想像もできない。
──アーランドは本当に一緒にいてくれるのだろうか?
唐突な不安に駆られてベッドの上をモゾモゾと動いて、こちらを向いて眠るアーランドに近づき、彼の額に自分の額を静かに当てて目を閉じる。
「……アーランドには……別の人と歩む未来だってある……」
長く生きるとして、もしウェイズみたいに喧嘩して離れ離れになったとして、あたしは大丈夫でいられるだろうか。独りになったとして、壊れずにいられるだろうか。
独りになるなら、最初から一緒にならなければよかったと後悔するんじゃないだろうか。
目を開けると、目を開けたアーランドの少しだけ不機嫌そうな視線がこちらを見ていた。
「立ち止まったら前から引っ張るって約束したじゃないですか。僕の背中を押してくれる人は今のところミリアリアしかいませんので安心してください」
「むぅ!? それはこれから良い人が現れたら乗り換えるってこと!?」
あたしは頬を膨らませてアーランドを睨む。
「……ミリアリアこそ、こんな僕で良いのですか? どこの誰かもわからない僕で。院長先生に聞いた話だと、僕はただ一枚の布に包まれて孤児院の前に捨てられていたそうです。だから、正確な誕生日はわからない。ちょうど今日がその拾われた日なので、便宜上の誕生日としてますが」
「でも、アーランドがそこに捨てられていなければ、あたしたちは出会うこともなかった。あなたは生きて、育って、冒険者になってここにいる」
「………………」
アーランドは何か覚悟を決めるように目を閉じた。
「あたしの名前を心の底から呼んでくれたのはアーランドだけだよ。あの時アーランドが呼んでくれなかったら、あたしきっとあのまま消えて……むぐ!?」
唐突にアーランドの手があたしの頭をがっしりと押さえ、言葉を遮るように短いキスをした。一瞬だけ唇どうしが触れ合う短いキスだった。
顔を離したアーランドが、あたしが拒むかどうかを確認するようにあたしを見つめたので、彼の頭に腕を廻して
抱き締める。
「アーランド。あたし、こんな妙ちくりんだけど、ずっとずーーーーーっと、あたしと寄り添ってくれますか?」
「ミリア! そういうのって僕が言うべきセリフじゃないですか!? もー!」
今度はお互いに見つめ合ってから長いキスをした。
これからどんな困難があってもアーランドがいてくれさえいれば、きっと乗り越えていける。
その日の午後、あたしとアーランドは思い立って婚約指輪を買いにアクセサリーショップに出かけたのだが、そこで同じく婚約指輪を物色していたジョイルとメルティ、そしてガストンとミルフェに鉢合わせしてしまい、お互いに他人のフリをしたのだった。




