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こんけるふぇん(仮)  作者: 黄昏狐
第1章 冒険者パーティー『狐火』
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第30話 狐たちの旅路

 あたしが倒れてから三日目の朝、ウェイズの発情がなんとか収まり、まだ発汗こそ続くものの言葉を受け答えできるほどには回復してきた。


 ここ二日間、アーランドがそばにいてくれたのでなんとか乗り越えられた。彼には迷惑かけっぱなしだった。

 獣の衝動に駆られてしまって、抱き抱えて運んでくれたアーランドをベッドに押し倒してその上に跨ってしまったり、衝動を抑え込むために彼の腕に思いっきり噛み付いてしまったり。


 無意識下の行動だったとしても、どう謝ったらいいかわからない。

 それでも、アーランドは文句一つ言わずにそばにいてくれた。

 お腹だって空いただろうに、そんなことすら言わずにそばにいてくれた。


「ミリア、食べられますか?」


 シルビアが運んできてくれた麦粥を見て、コクリと頷く。

 あたしの背中とベッドの間に大きなクッションを挟んでくれて、力を入れていなくても上半身を起こしていられた。


「ごめんね、アーランド」


 あたしは思わず謝っていた。ずっと彼を拘束してしまって、こんなことに付き合わせてしまって申し訳なかった。


「今更ですよ。ここまで関わってしまったんです、良くなるまで面倒は見ますよ」


 ヨレヨレになっているアーランドを改めて見ると、この二日間で自分がアーランドに対してしたことを思い出して顔面から火が出るほど恥ずかしい。


 アーランドの首筋に噛み付いたり、キスマークを残したり、腕に両手両足を使って抱き付いたり。

 少しでも楽になるならと、本能のままに色々するあたしに好き勝手させてくれた。


『ミリア、巻き込んでしまってすまぬ。我が未熟な故』

「大丈夫、大丈夫。ウェイズの方が辛かったはずだし」

『いや、半分くらいは意識を乗っ取ってしまっていた。心より詫びる』

「実害はそんなになかったんだし──」


 アーランドをもう一度見て、見て見ぬふりをした。

 彼が食べます? と言わんばかりにあたしの口元にスプーンで麦粥を運んでくれたので口に含む。


 ベッドの足元で眠っていたウコンが起き上がり、大きな欠伸をしてアーランドの方を見た。


(つがい)があんなに苦しんでたんだから、交尾してあげればよかったのに。甲斐性ないなぁ』

「ぶーーーー!」


 あたしは思わす麦粥を口から噴射して咽せた。


「交尾!?」

『既成事実もできて一石二鳥だったのに、勿体無くない? 長命種の私たちと違って、人間は短命種だから、一回するだけで子供できちゃうんだっけ』


 ウコンは悪びれる様子もなく念話を飛ばしてくる。


『私はアーランドにミリアと交尾すれば肉体的・精神的に満足させてあげることで、すぐに発情期が終わるってことをアドバイスしてあげたんだけど、聞いてくれなくてね。念話で交尾はどうすればいいのか解説までしてあげたのに。だからこんな重篤な状態までなってしまったんだけど』


 ウコンの話を聞くアーランドのスプーンを握る手に力が入ったような気がした。


「黙ってください、ウコン。僕らは獣じゃない。たとえ重篤な状態になったとしても、合意がなければそれは人として間違っている!」

『きっとミリアは合意したよ? だってひたすらに苦しいもん』

「それでもです! その時の感情で流されて体を重ねていたら、それは人間ではなくただの獣ですよ!!」


 怒鳴り声を上げたアーランドの手にそっと触れる。


「ありがと、アーランド。もう大丈夫だから、怒らないで。ウコンはウコンなりにアドバイスしてくれただけだから」


 あたしの言葉にウコンは頷いた。


『小僧……いや、アーランド。迷惑を掛けた。すまぬ。お主の心を踏み躙る結果にならずに済んで、お主の強い心に感謝している』


 ウェイズの謝罪の念話が聞こえてきた。

 ふと疑問に思ったことがあったので聞いてみることにした。


「そういえばさ、ウェイズ。あなたの毛皮の触覚があたしにも伝わってくるようになったんだけど、これってやっぱり?」

『ああ、魂の繋がりが前よりまた一段階強くなったようだ。分離しないと本当に一心同体になってしまう日が来るかも知れぬ』

「ええー」

『我とミリアの仲だ。そんな嫌そうな声を上げなくてもいいではないか』

「そうだけど、やっぱり分離はしたいよ。ウェイズはウェイズ、あたしはあたしだし」


 ウェイズと一緒にいるのはいいけれど、一つになるのは違う気がしたので、明確に否定しておいた。


 話が一段落したので、アーランドが口元に運んでくれた麦粥を咀嚼して嚥下していく。

 お腹の中がスッカラなので優しい味が空腹に染み渡る。


 あたしに麦粥を食べさせてくれているアーランドのそばにウコンが歩み寄った。

 先ほどの口論のせいもあって、彼は少し怒ったようにウコンを見た。


「なんですか」

『約束は覚えているか』

「は?」


 唐突な質問にアーランドが気の抜けた返事を返した。


『貴様は約束を反故にするようなクズなのか』

「何を言って──」

『一つだけ、我の言うことをなんでも聞く。そういう約束の上で我らはミリアの魂を冥府より引き上げた。あの時の約束を反故にすると言うのか』

「なんで今そんなことを言うんです!?」


 思わずアーランドが声を荒げた。


「アーランド!? あたしのためにそんな約束をしたの!? どうして!?」


 あたしが非難するように言うと、アーランドは項垂れた。


「あの時はそうするしか、ミリアを救う方法がなかったんですよ!」

『族長とミリアとの共生を見ていて、確信を得たから、強要する』


 ウコンは強要すると言いながら、アーランドの前で深々と頭を下げた。


『どうか、族長代理の依代になってほしい』

『──ウコン、依代とはどういうことだ、説明しろ!!」


 威圧の乗ったウェイズの念話が響いた。


『族長様。族長代理様は聖地を襲ったフェンリルと戦い、その命を落とされた。けれど、その意識は死してなお聖地にて族長様の帰還を待たれている。代理様は族長様への懺悔の言葉を呟かない日はありませんでした。私とサコンが招き入れてしまった災いを族長代理様が被ってしまった。だから私とウコンは謝罪のために族長様を探す旅に出た。あれから数百年が経っているけれど、きっと族長代理様は今でもウェイズリシア様のことをお待ちになっておられます』


 唐突に打ち明けられたウコンとサコンの旅の理由に、ウェイズは言葉を詰まらせて、声にならない声を上げていた。悲しみと絶望の感情を感じる。


『グェイストス様自身が、千年でも待ってウェイズに謝らないと死んでも死に切れない、そうおっしゃっていましたので、きっと今でもその意識は保っておられるはずです。けれど、永遠ではない。だから、私はアーランドにグェイストス様の依代になれと、約束のもとに強要する』

『ぐぬ……貴様、我ら夫婦の問題にアーランドを巻き込むでない!』

『ではグェイストス様は弁解の機会も与えられぬまま、朽ち果てるしかないのですか!? あの一途な優しいお方が浮気などされるはずがありません!』


 威圧されて小さくなっていたウコンが、ウェイズを威圧仕返した。


『依代と言っても体を寄越せというわけじゃない。今のミリアと族長様と同じ関係、つまり魔力を供給する側になって欲しいだけ。依代になれば離れることは難しくなる。そして、その依代同士も仲が良ければできるだけ誰も不幸になることがない。だから、私は敢えて既成事実を作ろうとした。煽ったことについては謝罪する』


 ウコンが頭を深々と下げてアーランドに謝罪した。


『だから、私とサコンはミリアとアーランドに聖地へ赴いて欲しいと心より懇願する。グェイストス様の依代になってくれるのなら、私たちは喜んでミリア様とアーランド様にこの身を捧げ、御身を護る盾となろう』

『勝手なことをしおってからに……!?』


 ウコンとアーランドを包むように魔法陣が展開され、何かの魔法が発動した。


魂の身代わり(スケープゴート)の魔法を掛けた。これから先、アーランド様が死ぬような事態になれば、私の魂を持ってその命が救われる』

『貴様、なんという魔法を使ってくれたのだ!? 禁呪ではないか!?』


 再び威圧の乗ったウェイズの念我が響くが、ウコンは真っ直ぐにアーランドを見つめ、深々と頭を下げたまま微動だにしない。


『多分あと二百年はグェイストス様は大丈夫だから、急ぐことはない。でも約束は約束』


 アーランドは諦めたようにため息を吐いてからウコンを優しい目で見つめた。


「ウコン、わかりました。そんなこと言われたら断る理由がないでしょう」

『副作用として今のミリア様のように肉体年齢が固定される。これから寿命の長いミリア様に寄り添う相手も必要だと思ってアーランド様を値踏みしていた。きっとあなたならミリア様に相応しい(つがい)となる』


 あたしは思わず驚愕する。


「え、あたし一生このまま成長しないの!?」

『……そうなるな』


 ウェイズの申し訳なさそうな念話が聞こえた。


『魔力がもっと戻れば、その限りではない。一応、ミリアが眠っていた一週間の間にミリアが生まれた時から背負っていた呪いは解呪を終えて、ついでに子供が産める体にはしておいたのだが、今の体躯では出産に母子ともに危険が伴う。子作りはもう少し魔力が戻ってからの方が良いだろう』

『──族長様、今回の発情期の件ですが、族長様の体の一部再生とミリア様の体の変化が重なったせいでは???』


 ウコンが訝しげにウェイズを見つめた。


「傍迷惑な狐さんたちに関わってしまったものですね、ミリア」

「でも、その分アーランドとずっと一緒にいられるみたい」


 しょうがないな、と笑うアーランドの手を握ると、力強く握り返してくれた。

 敢えて言葉にしてアーランドに伝えようかとも思ったけど、喉まで出かかった言葉を飲み込む。

 その言葉を伝えるのは今ではない気がしたのだ。もっと良いタイミングがあるはずだ──。

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