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こんけるふぇん(仮)  作者: 黄昏狐
第1章 冒険者パーティー『狐火』
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第26話 アルベル駐留騎士団長の驚愕

 公式に地図上から一つの村が消えた。そこはメルンという農業を生業とする小さな村だった。

 私も何度か足を運んだことがある。


 周りの森から獣が出てくることがあるので、アルベルの人員を数人派遣していたのだが、その全員も犠牲になった。


 とある冒険者パーティーが言うには、クレセントワイルドウルフ率いる群れの襲撃を受けて壊滅したのだという。

 普段森の奥深くでしか生息しない魔物がなぜ森を出て人里まで来てしまったのか。自然界が起こした偶然なのだろうか。


 事後に派遣した部隊に持たせた水晶球を通して現地の状況を見たが、まさしく地獄としか言いようがない状況だった。

 防護壁は大きく破壊され、村の家々は外壁が崩れているものがほとんどで、ほぼ全ての民家は引き摺られたような血の跡が残っている。


 村の中央広場のハズレに、複数の墓が作られ死者が弔われていた。

 墓標も何もない、ただの盛られた土の上に、一本ずつ花が手向けられていた。

 その傍らに、首と四肢と毛皮のない巨大な魔物の亡骸が放置されていた。


 住民の全数に対して圧倒的に少ないのはすぐにわかった。喰われたのだ。遺体の一部が点々と落ちているのがわかった。

 流石に数人の冒険者での全部の回収は無理に決まっているし、彼らには義務はないのだが、死者を弔ってくれただけでもありがたい。


 プレートヘルムの置かれた墓があった。

 私の部下のものだとすぐにわかった。勇敢に立ち向かった部下を労う様に、地面に突き刺された剣の墓標にプレートヘルムが掛けられていた。

 部下であろう墓の数も足りない。

 立ち向かった彼らがどれほどの無念のうちに死に、その骸が喰われたか、考えるだけで胸が痛む。


 冒険者パーティーのリーダーへの聴取ではワイルドウルフの群れの数は二百を超え、群れの長はクレセントワイルドウルフだったという。

 しかもそのパーティーは群れの全てを蹴散らし、群れの長であるクレセントワイルドウルフすら倒したのだという。中央広場の肉塊がその亡骸なのだろう。

 銅級程度の冒険者が倒せるわけがない。だが、話を聞くと倒したのは駆け出しの鉄級の冒険者だという。

 

 件のナインテイルを二匹従えている、狐パーカーを着た風変わりな少女だ。

 ナインテイルの領主邸突入事件の後、ずっと意識不明らしく領主邸にて介抱されているそうだ。


 一介の冒険者を領主ともあろうお方が屋敷に入れるなんて聞いたことがないので、血縁者か何かなのだろうと睨んでいる。

 この街に伝わる伝承にもある通りフォクシリウス家はナインテイルとの関わりが深い。とある者はナインテイルが仕返しにやってきたとも騒いでいたが、実際はそういうわけではなさそうだった。


 あの時、領主邸の裏山になだれ込む騎士団を相手に、狐パーカーの少女とそのパーティーメンバーを守るように立ちはだかって見せた。

 パーティーのリーダーが宥めるがその静止を聞かず、抜刀した我らに対してその牙と爪を剥き出しにして全力で威嚇した。


 なぜかそのナインテイルの後で狐パーカーの少女を介抱していた領主様の一喝によって我らは剣を納めざるを得なくなり、撤退を余儀なくされた。

 ナインテイルたちはそのまま領主邸に留まり続けているというのだが、領主様のお考えが私たちにはわからなかった。


「団長殿! 二匹のナインテイルを引き連れた狐パーカーの少女とそのパーティー一行が面会したいとの言伝です!」


 自室で書類整理に追われていた私の元へ一人の部下がやってきて声を張り上げた。


「ほう、件の娘が意識を取り戻してやってきたというのだな。わかった、応接間へ通せ」

「はっ!」


 部下が出ていったのを見て、書類整理を区切りの良いところで引き上げてから応接間へ向かう。

 私が今書類整理をさせられている元凶がやってきたというのだから、どんな皮肉の一つでも言ってやろうかと考えながら、騎士団詰所の廊下を歩く。


 応接間の扉を開くと──件の狐パーカー娘とそのパーティーメンバーたちがソファーで待っていた。


 メンバーを見回してから、もう一度狐パーカー娘に目が行った。透き通る様な銀髪のショートヘア──見覚えがある。

 10年前に領主様がご長女様をご病気の治療のために遠くの街へ連れて行かれる際に護衛として参加したのを覚えている。当時の私はまだただの一兵卒だった。多分覚えていらっしゃらないだろう──?

 いや待て、ご長女のミリアリア様は五年前に亡くなられたはずでは──!? 葬儀にも参列して花を手向けたのを覚えている。


「あなたは──ミリアリア様!?」


 私が上げた声に当のミリアリア様も驚いたような顔をしていた。

 不用意に近付こうとした私の前に、二匹のナインテイルが立ちはだかる。裏山でも対峙した件のナインテイルたちだ。


「ウコン。サコン。下がって」


 ミリアリア様の言葉に従い、ナインテイルが下がる。


「生きていらっしゃったのですか!? 五年前のあの葬儀は一体何のために!?」


 私の荒げる声を聞いてミリアリア様が頭を抱えた。


「こういう場合どうしたらいいの、アーランド? あたしの知らないあたしの知り合い……」

「えーと想定外ですね」


 アーランドと呼ばれたパーティーのリーダーの男がポリポリと頭を描いた。


「きっと今の状況は父様も想定外だと思う。だから、あなたには私の現状を伝える。伝えるけど、その内容は墓まで持っていって欲しい。あなたは今ここで、ミリアリア・フォクシリウスには会わなかった。ただの冒険者ミリアという少女と会って世間話をしただけ」


 ミリアリア様の言葉に、私は片膝を床に付いて跪き、右の握り拳を心臓の位置に持ってきて頭を下げる最敬礼をした。


 ミリアリア様が言うには、十歳から五年間屋敷の敷地外へ出ることを禁じられていて、十五歳の誕生日に屋敷から追い出されて冒険者になったそうだが、呪いの狐パーカーと共に色々あって死に掛けながら帰ってきて、このウコンとサコンに助けられたのだそうだ。


 跪いたまま聞いていて、あまりにも話が突拍子すぎるので頭にハテナマークが沢山浮かんだが、つまり何か深い事情があるのだな、と勝手に納得することにした。


「わかりました。このシュバルツ、ただいまお聞きした事は絶対に他の者へ吹聴はせず、我が人生が終わったとしてもなお土の下まで持っていく所存でございます」


 私は下げた頭をさらに下げて誓った。


「えっ!?  ミリアって実はめちゃくちゃ偉い人だったの!?」


 パーティーのローブ姿の魔法使い風少女が言う。

 仲間にもご身分を伝えていらっしゃらなかったのだ、きっと大変な任に就いていらっしゃるのだろう。


「一つだけ御礼を。村民共々、我が部下を弔って頂き、誠にありがとうございました……」

「それはあたしじゃないよ。心優しいあたしの仲間たちに御礼を言ってあげて」


 ミリアリア様のお仲間に向き直り、深々と頭を下げる。


「我が部下を弔って頂き、誠に感謝申し上げる」

「僕たちは、僕たちのできることをしただけです。感謝されるようなことはしていません」

「なんと謙虚で誠実な……!」


 私は荒くれ者しかいないと思っていた冒険者のイメージを一新させられた。

 護衛の一人すら付けられずにお忍びで冒険者として生きていくミリアリア様に相応しいメンバーだと思った私は思わずアーランドという少年の手を握っていた。


「私は騎士団長という身でここを離れるわけにはいかない。お忍びであるミリアリア様に部下を付けるわけにもいかない。どうか、どうかミリアリア様の御身を頼みましたぞ」

「は、はぁ……?」


 少年は困惑した顔をしていたが、これで良かったのだ。世間ではミリアリア様はすでに亡くなられたものとして認識されている。


 即座に冒険者ギルドに対して要請していた狐パーカー冒険者の出頭命令の取り下げを指示し、各門に対して通達を出した。『ナインテイルを連れた狐パーカーの冒険者が門を通過する際は丁重にご案内差し上げること』と──。

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