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こんけるふぇん(仮)  作者: 黄昏狐
第1章 冒険者パーティー『狐火』
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第23話 ガルドレフ・フォクシリウス

※残酷な表現があります。

 私、ガルドレフ・フォクシリウスは執務室の机で一仕事を終え、ふとあの日のことを思い出していた。

 呪い憑きとしてこの世に生を受けた我が娘は、日に日に衰弱していた──。


 生まれてすぐに黒い斑点のような痣を見つけた時、私は神を呪った。

 なぜ神は私の愛娘にこのような仕打ちをなさるのか、理解できなかった。

 それから十年が過ぎたあの日、もう寝たきりで身動ぎも満足にできない体になっていたミリアリアの手を握りながら、私と今の妻であるローテシアとミリアリアの妹のメルティリアと共に寄り添いながら、前妻との娘であるミリアリアの寝室で彼女の最期の時を静かに待っていた。

 全身が黒い斑点のような呪いに侵されて少しずつ呼吸が弱っていく彼女に、私は何もしてあげることが出来なかった。

 遠くに解呪のできる神官の噂を見つけては足を運んだが、その度にミリアリアの病状は悪化していった。

 これは我ら一族の数世代に一人が受ける罰なのだ。神獣様を討伐なんてしたから、祟られてしまったのだ。

 ふと眠りに落ちてしまっていたようで、ミリアリアを見るとベッドの上に彼女の姿がない。

 ハッとして部屋の開いていたドアを見ると、彼女が夢遊病の患者のようにふら付きながら廊下へ出ていくところだった。

 何かに誘導されるかのように、彼女はふら付きながらも確実に廊下を進んでいく。

 妻と妹を起こさぬように静かに抜け出し、ミリアリアの後ろを付いていく。

 彼女は廊下を進み、迷わず宝物庫に入っていく。掛けたはずの鍵を何らかの力で解除して部屋に入って行った。

 そして並んでいる高価な品々には目も向けず、最奥に封印されている初代領主が討伐したナインテイルの毛皮を徐に手に取り──。

 ()()()()()()()()

 その光景を見てしまった、私の後ろから付いて来ていた妻と妹の悲鳴が上がる。

 毛皮が突如として大きな獣の口を形成してミリアリアを飲み込み咀嚼した。バリボリと骨が砕ける音がして、口の隙間から血が垂れていた。

 咀嚼音が消えると、毛皮は繭のような球状に変化した。

 それから動きが無くなり、私は娘が死んだものとして宝物庫を完全封鎖し、葬儀を執り行った。

 最期に寄り添っていてあげられなかったせめてもの償いだった。

 その後一年半は繭に動きがなく、二年近く経って繭がその形態を解き、ミリアリアが二年前の容姿のまま出てきた。

 ある日、宝物庫のドアを破壊して食堂にやってきた狐パーカー姿の彼女は自身の席に着き、元気だった頃と同じように『父様、母様、お腹減った!』と声を張り上げ、自身の食事が用意されていないことに首を傾げていた。

 私たちは蘇ってきた娘が信じられず、受け入れることが出来なかった。

 それから彼女は弱っていた期間がまるでなかったかのように元気に庭を駆けまわり、勉強を抜け出しては裏山で何やら怪しげなことをやっていた。

 ここ執務室からは裏山がよく見える。そんなことも知らずに、彼女は日々独りで体術の訓練や魔法の練習を独学でしているようだった。

 葬儀をしてしまった以上、ミリアリアはもうこの世にはいないのだ。

 彼女には寂しい思いをさせてしまって申し訳ないと思っている。


 そしてつい先日、私はバケモノを追い出し『家族』を守るため、成人となったミリアリアに少しの金貨を渡して家から追い出したのだ。

 玄関ドアを閉めたあの瞬間から、いや、ミリアリアがバケモノに喰われる前から、なぜあの時に握った手を放してしまったのか、ずっと後悔している。

 せめてミリアリアが人のまま、その生を終わらせてあげることが出来たのかも知れない。


 追い出した日から毎日、朝と晩に玄関ドアを開けてミリアリアが帰ってきていないか確認している。

 お腹を空かせて帰ってきてはいないか。

 寒さに凍えて帰ってきてはいないか。

 孤独に泣き出して帰ってきてはいないか。

 もっと金貨をたくさん持たせてあげられれば良かった。

 確認したドアを閉めた後、私はいつもその場に崩れ落ちる。

 バケモノになってしまったとしても、娘は娘だ。顔は時が経っても幼い頃のままだ。

 ──帰ってきてくれたら、今度こそ、五年間抱き締めてやれなかった分を抱き締めてやるんだ。


 新たな誓いを胸に、私は領主としての仕事に忙殺され、休憩の度にミリアリアが遊んでいた、ミリアリアがもういない裏山を眺めていた。


「もうそろそろ日没か……」


 呟いて仕事に戻ろうとすると、裏山を駆け上がる二体の狐の魔物が視界に入った。

 あれは間違いなく、ナインテイルだ!


「──何をして!?」


 一体のナインテイルが首を振り回して何かを空中に放り投げると、もう一体のナインテイルが魔法を発動してその何かを地面に叩き付ける。屋敷までその地響きが伝わってきた。


 二体のナインテイルが地面に叩き付けた何かを挟んで座って遠吠えを上げると、光の粒子が裏山の頂上で竜巻のように舞い狂い、空に大きな魔法陣が出来てその中心に集まって大きな光の玉になっていく。

 二体のナインテイルが頭を下げると、それに引っ張られるように大きな光の玉が地面へ向かって激突した。


 凄まじい閃光が辺りを照らし、少し離れているこの部屋でさえ視界が真っ白になるほどの光が溢れた。


 私は胸騒ぎを覚え、光が収まらぬ中、裏山の頂上へ向かって執務室を後にした──。

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