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こんけるふぇん(仮)  作者: 黄昏狐
第1章 冒険者パーティー『狐火』
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第21話 今から先へ進むために

 過去を打ち破り、僕たちが今から先へ進むために彼女はその身を捧げた。

 

 僕の腕の中から離れていこうとする彼女に手を伸ばすが届かなかった。

 濃密な赤い光の中に掻き消えた彼女を、僕は抱き留めることが出来なかった。


 ミルフェの魔法は永遠ではない。そんなのみんなわかっていた。けれど、彼女が稼いでくれた僅かな時間。きっとどこかに打開策があるはずだ! ミリアリアが犠牲にならなければいけないはずがない。


 パーティー内の最強の盾がいとも簡単に破壊されて、本人自身も満身創痍のガストン。

 遠距離攻撃を得意とするジョイルは肩をやられて弓も短刀も厳しいだろう。

 ミルフェはいつ覚えたのか知らない結界魔法で魔力を使い果たして昏倒している。

 僕は──腹に鞭打を受けて皮鎧が破けているもののまだ戦えるが、僕に何ができる?


 何もない。


 ミルフェの結界魔法の中でミリアがウィップテイルタイガーと戦って自滅していくのを、ここで見守ることしかできない。


 何かが絶叫を続ける中、小柄なミリアの体のシルエットが、赤い光の中で変形していく。

 ビキビキと音を立てながら筋肉が変形し、体が獣人のように変化していく。

 顔は獣のように尖り、頭から狐耳が生え、腰の下から九尾が生える。

 腕は肘から先が獣の前脚のようになり、脚は膝上から下が獣の後ろ足になっていた。

 フサフサの体毛が体を覆い、ミリアの面影はもうどこにもなかった。前回ウェイズリシアが表に現れた時はまだミリアの面影があったが、今回は違う。

 完全に魔物の様相だ──。


 赤い光が掻き消えると、『それ』は結界から弾き出される。その異形が結界に魔物だと判断されたようだ。

 つまり、そこにミリアリアはもういない。


 結界から弾き出された『それ』は空中で姿勢を整え、その四足に炎を纏う。

 刹那の時間でウィップテイルタイガーのボスであろう個体に着弾し、その巨体を二十メートルほど蹴り飛ばす。

 蹴られたボスの体表で赤黒い炎が燃え続ける。

 ボスの配下であろう小さな個体たちが村の方角へ逃げて行った。


 ボスがいた場所に、自身の両手を見つめながらウェイズリシアが佇んでいた。

 直立した姿勢で、その炎を纏う両手を見つめながら涙を流している。


『ミリア……もう、戻れぬのだぞお前は……⁉』


 明らかにミリアの肉体の質量を超えるウェイズリシアの肉体がそこにあった。


『我の魔力が尽きたとて、その亡骸すらも人へは戻れぬのだぞ‼』


 金色の毛を纏う九尾のバケモノが、その絶望に震えながら声を荒げている。

 その声は──ミリアにはもう届かない。


 その瞳から絶望で消えかけていた炎が、憎しみの黒炎へと変わる。

 ヨロヨロと立ち上がるボスに、その憎しみすべてが向けられた。


 直立した姿勢の状態から瞬時に加速し、気が付いた時にはウェイズリシアはボスの顔の前に立っていた。

 立ち上がる途中の姿勢のまま、恐怖でボスが震えている。

 僕も見ているだけで震えてくるほどの憎しみと絶望、そして怒りの感情が渦巻いているように感じた。

 

 ウェイズリシアは虚無を体現したような瞳でボスを見つめ、予備動作なしで振り上げた拳をボスの顔面に叩きつけた。


 ボスの頭部が瞬間的にブレてバウンドする。地面が凹んでいるところを見るに、圧倒的な強い力で殴られて地面にぶつかって跳ね返ったのだろう。


 淡々と一発、二発と殴り続け、殴る度に周りに地獄の黒炎が飛び散り、広がっていく。

 同時にボスの頭部がバウンドする度に地響きがして地面が凹んでいく。


 三十発くらい殴って地面がクレーターのようになり始めたところで、ボスの全身を砕いてその存在を抹消するかのように連打が始まる。

 ボスは一発目で息絶えていたが、その体は連続で殴打されるうちに骨さえ砕かれ、挽肉のようになっていく。

 それでもウェイズリシアの憎しみは消えず、高速の連打が続き、ボスの巨体は挽肉の方がマシと思えるレベルで粉砕されてしまった。


 それでもウェイズリシアの憎しみは止まらない。

 そのドス黒く変わり果てていた瞳が、何かに気が付いたように遠目で見ていた僕たちに向いた。


 言葉はないが、何を言いたいのかはわかる。

 ──お前たちのせいだ。そうその瞳は言いたそうにこちらを見ている。


 クレーターから、ゆらりゆらりと揺れながら、一歩ずつ着実にこちらへ向かってくるウェイズリシアに、僕ら全員は身構えた。


 結界の境界に到達すると、その黒炎で燃え上がる拳を結界に叩き付ける。

 結界の一部分が強烈な光を放つが持ちこたえた。


 もう一発黒炎で燃え上がる拳が叩き付けられた。

 結界の一部が強烈に光り、結界にヒビが走る。


 もう一発黒炎で燃え上がる拳が叩き付けられた。

 結界が砕けた──。


 ウェイズリシアが飛び掛かる体勢を取った瞬間、僕たちの頭上を飛び越えて二匹の獣が現れた。

 金色の毛に覆われた体毛を持つ九尾のバケモノ──ナインテイルだ。その姿は長らく伝承としてしか伝えられていないが、見ただけですぐに感じ取った。


『族長殿、こんなところで何をしておいでか?』

『族長様、一族皆、あなたの帰りを待っております』


 一匹のナインテイルがウェイズリシアに歩み寄り──邪魔だと言わんばかりに殴り飛ばされた。


『族長殿、そのような醜いお姿になられて、あなた様の身に何が起きたのです!?』


 殴り飛ばされたナインテイルは空中で姿勢を変えて着地した。特にダメージはなく無傷のようで、また跳ぶとウェイズリシアと僕たちの間に立ちはだかる。


 もう一匹の方のナインテイルがこちらを向き、顔面に皺を寄せ威嚇するような顔で尋ねる。


『貴様ら、族長に何をした!? 何をしたらこのような成れ果てた姿になる!?』


 こちらを向くナインテイルの後ろで、ウェイズリシアともう一匹のナインテイルの戦闘が始まる。


『ジャマヲスルナアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァアァア』


 憎しみに満ちた声が直接脳内に響いて来る。


 このままでは埒が明かないと判断し、ナインテイルに事情を説明することにした。


 メルンの村に辿り着くまでに、いや辿り着いてここまで引き返すまでにウェイズリシアという存在が数度助けてくれていたこと。

 ウェイズリシアはパーカーの姿でミリアと共に生きてきたこと。

 ミリアの体が短期間での最大強化の連発で限界だったこと。

 そして──ウィップテイルタイガーから救うためにその命を投げ出して僕らの未来をウェイズリシアに託したこと。


 ナインテイルが眉間に皺を寄せて話を聞いていたが、僕らへの殺気はなくなったように感じた。

 ガストンとジョイルさえも驚いて話を聞いていた。


『ウコン、族長の魔力が弱ってきている。このままではもう持たない』


 戦闘をしているナインテイルから、斬撃や拳を避けながらの念話が聞こえてきた。


『サコン、もうちょっと持たせて』

「──ウコンさん! ミリアとウェイズリシアさんはもう救えないのですか⁉」


 こちらを向くウコンというナインテイルに懇願するように僕は叫ぶ。


『話を聞いた限りでは魔力が足りないだけのようだが、族長が毛皮にされてしまっている状況ではもうどうすることもできない』


 ウコンは静かに首を横に振った。


『族長が倒された地なら、魔力の残滓が漂っているはずなのだ。その残滓を回収できれば救う手立てもなくはないが、その場所を我らは知らぬ』

「──フォクシリウス家の裏山!」


 いつの間にか意識を取り戻していたらしいガストンに介抱されていたミルフェが叫んだ。


 言われて僕はハッとした。

 アルベルの街には老若男女が知る伝承が残っている。

 遥か昔、一匹のナインテイルを討伐した初代領主がフォクシリウス家と名乗り、その血脈が現在まで続いていること。そして、そのナインテイル討伐の地が現領主邸の裏山なのだと。


 五年前に死んで葬儀が執り行われた領主の長女の名前は──ミリアリア・フォクシリウス。そんなまさか!

 死んだはずの領主の娘がなんでこんなところに居る──!?

 僕は困惑を隠し切れなかった。


「それに見て、これ──!」


 ミルフェは魔力草を掲げていた。

 魔力草は特に強力な魔物が死んだ地で見かけることが多い、魔力を糧にして育つ特殊な草の一種だ。


『ふむ?』


 ウコンが声を上げてミルフェの掲げる魔力草に近付いて確認した。


『たしかにこれは族長の魔力。我らが長年追い掛けてきたものだ』

「ミリア自身が、これは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だって言ってましたわ!! 毎日刈っても刈っても生えてくる程らしいですわ!!」


 ミルフェの言葉を聞いてウコンは考え込む。


『ふむ、しかし我らには族長を救う以外の目的がない。ミリアという者が族長を殺した者の末裔ならば、我らが助ける義理はない』


 ウコンの目がスゥッと細まり僕を射抜く。


『──だが、その罪人の末裔を我らが聖地まで連れて行き引き渡す、と言うのなら話は別だ。我らが聖地では──族長代理のグェイストス様が族長の帰還を心待ちにしておられる。そこでグェイストス様の手によって裁かれる』

「なんだよ、救ってくれるんじゃねーのかよ⁉」


 話を静かに聞いていたジョイルが抗議の声を上げる。

 その声にウコンは目を細めたまま返す。


『グェイストス様はウェイズリシア様の旦那様であらせられるぞ。裁いて悪い理由があれば申してみよ!?』


 念話による怒鳴り声と向けられた魔力の圧力でジョイルは腰を抜かして漏らしてしまった。


『ウコンよ、矮小なる人族が怯えてしまっているではないか。戯れもそれくらいにしておけ』

『サコン、我はこの人族を試しているのだ。黙れ』


 ウコンの言葉に、サコンが少しだけシュンと小さくなった気がしたが気のせいだろうか。

 サコンはこちらで会話している間もずっと戦闘しているが、最初の一撃以外は攻撃を受けていない。


 ウコンの細められた目が再び僕を見る。


『ミリアとかいう小娘は助けてやる。だが、貴様には我の言うことをなんでも一つだけ聞いてもらう。それでも良いか?』

「リーダー?! これは罠だ! やめておけ!」

「そうですわ! 絶対罠ですわよ⁉」

「やめとけよ絶対!」


 三人の声に僕は──。

※修正 名前を似たものにすると、書いてる自身が混乱する(*'ω'*)

    名前間違ってたので修正(*'ω'*)

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