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こんけるふぇん(仮)  作者: 黄昏狐
第1章 冒険者パーティー『狐火』
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第20話 過去との対峙

 森へ突入したあたしたちは何事もなく中間辺りに差し掛かっていた。


 良かった。このまま行けば森を抜けられる──!

 そう思ったのが甘かった。


 街道を走るあたしたちに並走する影が複数現れた。

 街道脇の木々をヒョイヒョイと身軽にかわしながら、獲物を狙うような目で品定めをしている。

 

 尾が極端に細長い、トラ型の魔物だ。

 あたしは図鑑で見たことがない。どのような攻撃方法を取って来るのかわからない。

 向かって右側だけを並走していると思ったら、左側も並走する個体が現れた。

 まずいと思って後ろを見ると、後ろからも追い上げてくる個体がいる。


「──アーランド!?」


 アーランドの様子がおかしい。

 荒い息をしながら、泣きじゃくるように血走らせた目から涙を流しながら、何かの衝動を必死に抑え込むように必死に荷車を押している。荷車を押さえる手には必要以上に力が入り、血が滲んでいるように見える。


 ハッとして隣のミルフェを見ると、まるで寒さに凍えるように青ざめた顔でガタガタと震えている。

荷台を見ると漏らしてしまったようで、染みが広がっていた。


 ジョイルが珍しく真顔で荷車を押していると思ったら、生気の無い絶望した顔になりながらも必死に荷車を押していた。もう半分は生きることを諦めたような顔をしているように思う。


 ガストンは──どんな顔をしているのだろう。こちらからは見えないが、きっとみんなと同じような顔をしているのだろう。


「アーランド! 指示を⁉」


 荷台の上で立ち上がったあたしの声を聞いて、アーランドが我に返る。


「ミリア、戦っては駄目です! 逃げるんです!」

「あの魔物を知ってるの!?」

「あれは──あれはアニーを殺した仇なんですよ‼」


 憎しみのこもったアーランドの咆哮が聞こえた。

 納得がいった。メンバーの動揺、感情の変化。アーランドの憎しみと涙の理由。


「あいつの攻撃手段は⁉」

「噛み付き、前脚の爪でのひっかき、一番危険なのは鞭のように長い尻尾での斬撃に匹敵するリーチの長い鞭打(べんだ)です‼」


 言われて並走する魔物の尻尾を見る。

 尻尾が途中から細くなっていて毛がない鞭のようなものになっていた。

 並走しながら、パシン、パシンと音をさせ、まるで鞭を打つように尻尾を動かして威嚇しているように思う。


「ウィップテイルタイガーがどうしてここにいるんだ⁉」


 怒りに満ちたガストンの怒声が響いた。


 ガストンの怒声にミルフェが我に返り、疲労軽減魔法の詠唱をして発動する。

 淡い光が全員を包み込み、低下していた速度が持ち直されて加速する。


「ミルフェ、無理をするな!!」


 ガストンの怒声が響くと、ミルフェは何を思ったのか荷台の上を歩いてガストンに近付き、頭を杖で殴った。


「いたっ!?」

「今無理をしなかったら、いつすれば良いんですの!? それに──」


 ミルフェは思い詰めたように息を飲む。


「街に戻ったらあなたに言いたいことがあるんだからぁ!!」


 普段のミルフェではあり得ない声量の絶叫が森に木霊した。


「うるさいぞ、ミルフェ! 生きて帰れたらいくらでも聞いてやるから、今は生き残ることだけを考えろ!?」


 馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿……! と小さく言いながら、ミルフェは握りこぶしの連打をガストンの背中に叩きつけた。


 バカップルめ、他所でやれ! とか思いながらジト目で二人を見る。

 ──と、そんな余裕はあたしたちにはないのだった。


 あたしたちと並走&追走するウィップテイルタイガーの包囲網が少し狭まったような気がする。特に追走してくる一団との距離が詰められたように感じた。


「アーランド、後ろへの攻撃許可を!」

「ミリア!?」

「一番距離が近い、追い付かれる!」

「あーもう! わかりましたよ!」


 アーランドの許可が出たのであたしは両手に魔力を集中する。

 呪文の詠唱なんて知らない。ウェイズとの訓練で学んだ意識下での魔力制御のみで火球を顕現させる。

 込めろ、込めろ、力をありったけ込めろ!

 火球はどんどん大きくなり、直径一mほどになったところで、あたし自身熱くて持っていられなくなったので、高めの放物線を描くように追い縋る集団に向けてポイッと投げ捨てる。


 高く投げることで滞空時間を稼ぎ、地面に触れたと思った瞬間、凄まじい爆風が辺りを薙いだ。


「──なに今の!?」


 爆風で飛ばされそうになる帽子とまくれ上がりそうになるローブの裾を必死に抑えながらミルフェが声を上げる。

 ちなみにあたしはノーガードだったので、顔を上げていたアーランドにパン──思い出して慌てて捲れ上がったパーカーの裾を押さえて引き下げる。亜空間収納から自分のパンツが出してもらえなかったからミルフェに借りた、彼女のおとなしめの外見に似合わず派手な水色と白の縞々紐パンを履いていたことを思い出したのだ。

 爆風が収まると、追い縋る個体が半分に減っていて、まだ追いかけてくる個体も体に負傷した個体が多かった。


「ははは! こりゃあ頼もしいねえ!」


 荷車を引くガストンが一声上げるとさらに速度を上げた。


 顔を真っ赤にしたあたしは思わずジト目でアーランドを睨む。

 あたしに睨まれたアーランドは目の逸らしようがないため、目を閉じてやり場の無さを脚力に変えて荷車を押す。


 狐パーカーのポケットから魔力草をごそっと取り出し、口に含んで懸命に咀嚼する。一気に魔力が減ったのを感じたのだ。


「ミリア、あと一発ずつくらい左右にぶちかませませんかね!?」

「ごめん無理!」

「ええ……」


 だが、並走する包囲網が少しだけ広くなったように感じた。あたしの魔法攻撃を警戒したのだろう。


 街道が緩やかにカーブする。見通しが悪いなぁ、なんて思ったその先で──。


「みんな避けろ──!?」


 ガストンの声が響く。

 同時にガストンが横に跳ぶのが見えた。


 スローモーションのように、街道脇から伸びた極太の尻尾が鞭のようにしなりながら木々を薙ぎ倒しつつ高速で迫ってきていたのが見えた。

 咄嗟にミルフェを抱き締めて荷台から飛ぶ。


 空中で体を捻ってアーランドとジョイルを見ると、二人も間一髪で横に跳んだのが見えた。

 しなる尻尾が荷車を直撃して破壊しつつ、クレセントワイルドウルフの素材を吹っ飛ばした。

 荷車は右前方から左の車輪に掛けての斬撃で粉砕されて走行不能になった。


 あたしの背中から思いっきり地面に落ちるが、痛みはない。ウェイズの防御が復活している……?


 みんなゆっくりと立ち上がったので、誰も怪我はしていないようだ。


 街道脇から、クレセントワイルドウルフ並みの巨体が現れて街道の中央を塞ぐ。その尻尾がまた異様で街道の端から端より長く、十五メートルはあるだろうか。


 今度はクレセントワイルドウルフの時と同じようにはいかず、周囲を囲まれていた。

 デカい個体側にガストンが盾を構え、その反対側にアーランドが盾を構える。

 ミルフェを背にするようにあたしとジョイルで中列を防御した。


「あいつは……⁉」


 デカい個体の体には無数の傷があった。それも最近ではなく治癒して数年は経ったような傷だった。


「あいつはアニーを殺したやつです!?」


 アーランドの声が響いた。


「高位冒険者でも倒しきれなかったやつが、戻ってきたって言うのかよ⁉」


 ガストンが嘆きの声を上げる。


 包囲網がジリジリと狭まって来る。

 デカい個体も周囲の個体も、一歩また一歩と距離を詰めてくる。

 あたしが魔法を放ってこないことを確認しつつ、距離を詰めてきているように思う。


 打開策はないものか──。

 冷汗を流しながら考える。考えて──一か八かウェイズに呼び掛けてみることにした。


「ウェイズ、ウェイズ!」

「──⁉」


 あたしが上げた声にアーランドが振り向く。


「なんだ──⁉」

「ミリア、どうしたんですの!?」

「気でも狂ったか⁉」


 ウェイズの存在を知らない三人が、頭がおかしくなったのかと言わんばかりにあたしを見る。


 それでも、あたしは呼び掛ける。


「ウェイズ! 聞こえてるんでしょ!? 力を貸して! このままだとあたしたちは全滅する!?」


「来るぞー!?」


 大きな個体が動き出したのを見たガストンの悲痛な叫びが響く。それが合図になり、他の個体も動き始めた。


 ガストンがデカい個体の尻尾による斬撃の連撃を何とか盾で受け流すが、盾が一撃で変形し始めた。

 ジョイルは得意の弓を捨て、両手に短刀を持ち、飛びついてきた個体に体術と短刀を組み合わせた攻撃で何とか耐えている。

 アーランドは襲い来る二体を相手に、何とか攻撃をさばいている。

 ミルフェは周囲を見回しつつ、やばそうな個体に火球(ファイヤーボール)を叩き込んでいるがイマイチダメージは入っていないようだ。

 あたしは襲い来る三匹に腕に嚙みつかれながらも、復活していたウェイズの防御に助けられて何とか耐えている。痛みがないかと聞かれればそれは嘘になるが。


「ウェイズ!? お願い、あたしの声を聞いて!?」


 ウィップテイルタイガーの猛攻にさらされながら、あたしは必死に声をあげる。


 目の前で猛獣が唸り声を上げながら自身の腕を喰いちぎらんばかりに暴れる、そんな地獄の中であたしは必死にウェイズを呼ぶ。


「ミリア、今、そっちに行きますから、耐えてください!?」


 アーランドが一瞬だけこちらを振り向き三体に襲われているあたしを見て、悲壮な顔で自身を襲う二体に向き直り耐える。


「いでぇ──⁉」


 肩に噛み付かれたジョイルが悲鳴を上げた。


「ジョイ──がぁっ!?」


 ジョイルを振り返ろうとしたアーランドが腹に尻尾による鞭打を受けて片膝をつく。それを狙ってさらに二体が彼に喰らい付こうと襲い掛かる。


「ちくしょう、ちくしょう──!?」


 盾を少しずつ変形させていくデカい個体の連続攻撃に防戦一方のガストンも悲鳴を上げる。あと数分も持たないだろう。


 パーティーの中心にいるミルフェが聞いたことのない呪文の詠唱を始める。

 いつもの早口詠唱ではなく、一語一語呪文を確かめるような詠唱だった。

 このまま全滅するまでに詠唱が完了するのだろうか──?


 ウェイズの防御を貫通して牙が腕に食い込むのを感じる。

 両腕を封じられているので足で蹴ってみるが、まったくダメージが通らない。


「ウェイズ! あたしはどうなってもいい、みんなを、みんなを助けて──⁉」


 あたしは祈るようにもう一度叫ぶ。


『──お主、自分の体のことがわからぬのか、愚か者が!?』


 ウェイズの怒鳴るような念話が響いた。


「なんだ!?」

「誰の声だ!?」


 今回は対象を指定していないようで、驚くガストンとジョイル。ミルフェは目を閉じて詠唱を続けていて外の情報を完全にシャットアウトしている。


『お主を逃がすことなら簡単だ。街へ逃げる僅かな間だけ強化魔法を使って周りを見捨てて逃げればいい』

「ウェイズ、何を!?」


 捻くれたことを言うウェイズにあたしは思わず声を上げた。


『そうであろう? 出会ってまだ数日だ。情もそれほど湧いてはおるまい?』

「なんでそんなことを言うの?!」

『次に戦闘のために強化魔法を使えば死ぬぞ、お主──』

「──────⁉」

『あまりにも短期間で最大強化をし過ぎた、体が持たぬ。すまぬ、ミリア……。我の力が及ばぬばかりに、苦労を掛ける』


 ウェイズの心から謝る念話が聞こえてくる。


『体を癒して、新しい仲間を見つけて、新しい冒険に出ようではないか』

「ウェイズ、何を言ってるの!?」


 ウィップテイルタイガーをなんとか抑え込みながら、あたしは抗議の声を上げる。


『お主を失えば、我はまた孤独になる。永遠の孤独だ。我は怖いのだ』


「ウェイズ……」

「ぐあああ! もう駄目だ、喰われる!?」

「盾がもうもたない、ダメだ!?」

「くそぉぉぉぉ⁉」


 三体のウィップテイルタイガーに組み付かれて噛み付かれるジョイル。

 盾が破壊され、剣と腕でガードしつつ連撃を受けてボロボロになっているガストン。

 二匹に圧し掛かられて剣で防御するが、圧し潰されそうになっているアーランド。


 ミルフェに四体のウィップテイルタイガーが襲い掛かろうとして──。


聖域!!(サンクチュアリ)


 ミルフェが詠唱を終えて杖を高く掲げて叫ぶ。

 白い魔法陣が杖の先から展開され、大きくなりながら地面に下りる。地面に接した魔法陣から全員を包むように光が放たれる。

 すると魔物だけが魔法陣の外へ弾き出された。


「ミルフェ、すごいぞ、なんだこの魔法──!?」

 

 その場にミルフェが倒れた。

 ガストンが駆け寄って介抱するが、とりあえず魔力切れで昏倒しただけのようだ。


「ウェイズ。あたしは、あなたも大事。でも、仲間のみんなも大事。あたしだけ生き残ったら、きっとあたしはあなたを許さない」

『………………』


 あたしが言うとウェイズは沈黙した。


「なあ、ウェイズって誰だよ⁉」

「静かに!」


 アーランドがジョイルに拳骨をくらわせる。


『──なあ、もう少しだけ考え直さぬか? 小娘のおかげで時間がまだある』


 あたしは力強く首を横に振る。


「あたしはもう十分生きた。ウェイズのお陰なのは分かってるよ。本当は五年前に死んでたのも──」

『なっ──』


 あたしが外に出られず、屋敷の中だけで遊ぶのが日課だった理由も、本当は理解している。

 ウェイズのせいではない。あたしは呪われて生まれてきて、十歳の頃にはもう死んでもおかしくない状態だった。

 その呪いよりも強力なウェイズが呪いとして取り憑くことで元の呪いの進行を遅らせ、少しずつ体の修復と解呪を続けてくれていたことは本能的にわかっていた。


「ウェイズ、あなたはベッドの上で意味もなく潰えるはずだったあたしの人生に意味を与えてくれた。だから、だから、あたしにここで死なせて欲しい。あたしに選ばせて欲しい。みんなのいない未来で生きているくらいなら、みんなのためにここで死ぬ!」

『お主──』

「──でもちょっとだけ待って」


 あたしは地面に座ってミルフェを介抱するガストンに歩み寄り、ミルフェの頭を撫でながら言う。


「ミルフェがね、ガストンのこと好きだって」

「なっ──⁉」

「街に帰ったら告白するんだって言ってたよ?」


 ガストンは思わぬ言葉に顔を真っ赤にしてミルフェを見つめる。


「幸せにしてあげてね」


 優しく言うと、あたしは立ち上がり、地面に座って息を整えているアーランドに向き直る。

 足を一歩下げ、低い姿勢を取る。いつもの戦闘態勢だ。


「なっ、なにを──!?」


 ふざけてピョインと軽く跳ねてアーランドを押し倒しつつ胸に飛び込む。


「アーランド」


 あたしはアーランドの胸に顔を埋めて背中に腕をまわして抱き締めて彼の名を呼び、満足げに顔を上げる。


「──よし、十分にアーランド吸いしたことだし、あたしは行くね」

「待ってください──!?」


 あたしの背中にまわそうとするアーランドの腕を引っぺがし、あたしは立ち上がる。


「あたしの名前はミリアリア。あたしがいなくなっても覚えていてくれると嬉しいな」

「待って、待ってくれ……!」


 アーランドから意地悪く距離を取り、満面の笑顔でバイバイと短く手を振る。

 アーランドに背を向け、魔法陣に攻撃し続けているウィップテイルタイガーのデカい個体に目を向ける。


『ウェイズリシア。お世話になりました』

『ぐぁぁぁぁ、グァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!』


 赤い魔力に包まれて、体の支配権をウェイズに譲る。

 守護契約の終了を心の中で宣言した。

 ウェイズの嘆きが、悲しみが、心に入って来る。

 短い間のすべての出会いに感謝しながら、あたしは意識を手放した──。

※脱字修正 なんで「が」とか「で」とか「を」が抜けるんや(*'ω'*)?

※語句の並び順がおかしくて時系列が入れ替わっていたので修正(*'ω'*)

※読み返してて気が付いた矛盾点をセリフによって無理やり解消したので、ちょっと違和感があるかも?

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