第18話 狐娘は帰還準備する。
心地よい朝日に目が覚める。
見覚えのない天井に不安を覚え体を起こす。
周囲を見回すと、あたしが寝ていたベッドに倒れ込むようにして顔を突っ伏して眠っていたアーランドがいた。
記憶がはっきりしないが、最後に覚えているのは自身の命がもう潰える──そんな状況だった。
腿を切り裂かれ、左腕を噛まれ、腹を蹴り飛ばされて、最後に頭を蹴り飛ばされて。
絶望して死んだ。そう記憶していた。
不思議に思って体を確認するが、腿の傷もないし、左腕は傷もないし、お腹も頭も特に異常がない。
これが死後の世界というものなのだろうか。
最後に呼びたかったアーランドの名を呼んでみることにする。
「アーランド」
優しく名を呼ぶと彼の目がぱちりと開いて、あたしに飛びついて抱き締めてきた。
「──ミリア! 心配したんですよ⁉ あれから2日も目を覚まさなかったんですから!?」
何がどうなって今ここにいるのかわからないが、あたしたちは今生きてここにいるらしい。
アーランドの確かな温もりと鼓動が伝わってくる。
「んーと、状況がつかめないから、何があったのか教えてくれると助かる」
あたしが言うと、アーランドはあたしがたった今起きるまでに起きたことを話してくれた。
取れかかっていた腕が繋がったこと。
あたしが着ていたパーカーが変形・融合して、鋭い犬歯のもふもふ九尾狐ビキニ娘になったこと。
ウェイズリシアという謎の存在があたしの体を操って、赤黒い炎を纏った爪でクレセントワイルドウルフを瞬殺したこと。
戦闘が終わった後に素っ裸を経て狐パーカー姿に戻ったこと。
──ウェイズリシアがあたしが目覚めたら魔力草を百枚食えと言っていたこと。
「ウェイズリシア──?」
誰だっけ、と考えてハッとする。あたしはいつもウェイズ呼びしていたので忘れていたが、ウェイズの本当の名はウェイズリシアという。その名前を聞くのは久しぶりだ。
結局のところ、念話は届いていて、見兼ねた彼が助けてくれたということだろうか。
「ウェイズリシアとは誰なんです? ミリアの本当の名前──でもないようですが」
アーランドは目を泳がせながら尋ねてきた。目を泳がせついでに目に入ったベッド横にあった魔力草の束をあたしの手にドンと置いた。たぶん百枚くらいはあると思う。
ウェイズ自身が名乗ったようなのだから、この情報は開示しても良いだろう。
あたしは視線を上に向けながら言う。
「この狐パーカーの名前。正確にはナインテイルのウェイズリシア」
「ナインテイルって、あの神獣とまで言われた魔物の!?」
「そ。それがあたしの戦闘力の理由。あたし自身には何にも力はないよ」
あたしは肩を竦めて言う。
「ウェイズ? ウェイズ? 聞こえてるんでしょ?」
あたしはいつものようにウェイズに声を掛けるが反応はない。
「ウェイズリシアさんなら、『深い所に潜る』と言ってましたよ」
「ふーん……? しばらくは話せないのかな」
「あの消耗ぶりだと、そうなのではないですかね。とりあえず、ウェイズリシアさんのことはミリアのそばにいた僕しか知りません。他の仲間に言うかどうかはミリアにお任せします」
「ウェイズが話せるようになるまで、ちょっと待って欲しいかな」
あたしは頭をポリポリと掻いた。
「今はまず、魔力回復しろって言ってたみたいだし」
先程渡された百枚の魔力草の束に目をやる。
「さすがに好きでもこれはきつい……」
魔力草は噛まずに飲み込んでは魔力が吸収できない。猛烈に噛み続けて初めて魔力が染み出してくるのだ。
あたしはため息をついた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
夕食の時間になって、みんなで食堂に集合して現在の状況を聞いた。
あたしが眠っていた二日を使って村の再捜索を行って、結局のところ生存者は発見できなかったとのこと。
良い知らせとしては食料などの一部が手つかずで残っていたため、今食べている食事分は困らない。また、ウェイズが荷物を吐き出してくれたため、帰還準備を進める上で困ることもなかったそうだ。
ある程度原型を留めていた村人の埋葬を行い、クレセントワイルドウルフの首と毛皮を討伐の証拠として準備できた。
あれ以来ワイルドウルフの姿もないそうだ。
悪い知らせとしては、ウェイズの反応がない為に亜空間収納魔法が使えないし、引き続きあたしが戦力外だということだ。クレセントワイルドウルフの首と毛皮は大き目の荷車で人力で運ぶしかない。
周囲の森に動物の姿もないらしく、それだけが引っかかるとのことだ。
一応念には念をということで、窓という窓を塞いで明かりが漏れないようにして、玄関ドアも内側から家具で塞ぎ、今日は家の中で泊まらせてもらうことにした。
明日は要所要所で休憩は取るが長丁場での移動にするとのことで、徹夜の移動とするらしく、今日は話し合って五人まとめて眠ってしまおうと決まった。
アーランド、あたし、ミルフェ、ガストン、ジョイルの順で床に寝ることになった。
おやすみと口々にしてからしばらく時間が経つが、みんなどうにも眠れないようで、寝返りをうってみたり、枕の高さを変えてみたり、工夫し合っているが眠れないようだった。
「……ミリア……?」
少し冷え込んできたためにあたしが震えていたことにアーランドが気が付いたようだった。
「……もし寒ければこちらに来ますか……?」
アーランドが体に掛けていたマントを持ち上げておいでおいでしてくれるので、遠慮なくアーランドで暖を取らせて貰うことにして潜り込む。
あたしのそんな大胆な行動を見て、ミルフェがガストンの服を引っ張る。
服を引っ張られたガストンが気が付くと、一瞬躊躇う素振りもあったが、ミルフェもガストンのマントの中に納まった。
ミルフェがあたしに向けてグッと親指を立ててくる。もしかしてミルフェは前からガストンに気があったのだろうか。
アーランドの温もりを感じてぬくぬくしていると、目蓋が重くなってくる。
帰るまでが依頼だ。みんな無事に帰れるといいなぁ──そう思いながら眠りに就いた。
※表現修正




