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こんけるふぇん(仮)  作者: 黄昏狐
第1章 冒険者パーティー『狐火』
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第17話 メルンの村の死闘(後編)

 彼女は僕の腕の中でその呼吸を減速させていく。

 血を吐きながら、目の前にいる僕に焦点の合わない遠い目をしている彼女に、最期にしてあげられるのはせめて一緒にいてあげることぐらいだった。今更薬草を使ったところでどうにもならない。

 僕はまた、腕の中の仲間を一人、見送ることになる──。


 目に見えてこの前の戦闘より鈍い動きでクレセントワイルドウルフに立ち向かった彼女は逃げろと言ってくれたが、僕らは彼女を置いて逃げることができなかった。

 それが彼女の足を引っ張ってしまったのかはわからない。

 けれど彼女とて敵わなかった魔物だ、すぐに追い付かれて殺されるのは目に見えていた。


 後ろを振り返ると、一歩ずつ着実に敵が迫ってくる。

 地面をワザと踏み鳴らして恐怖を煽るように、じわりじわりと近付いて来る。


 ──ゴキゴキ。

 聞きなれぬ音にミリアのほうを振り返ると、服の中で皮一枚で繋がっていたために伸びていた左腕が音を立てて元の位置に戻っていた。

 噛み付かれたことで開いた服の穴から、骨と肉が盛り上がってくっついたのが見えた。


 ミリアの着ていた狐パーカーが突如として生き物のように膨張しながら彼女の体を飲み込んでいく。

 僕は慌てて体を離し、様子を見守る。


 狐パーカーは一旦毛玉のように大きく膨れ上がってから収束し、その中からミリアの体のシルエットが見えてくる。

 だがその体は狐パーカーだったものと肉体が癒着したような状態になっていて、服と肌の境目が曖昧になっていた。

 

 パーカーからではなく、立派なもふもふ狐耳が頭部から直接生え、腰の下あたりからも体から直接立派なもふもふ九尾が広がっていた。

 胸部と下腹部周りがビキニのような毛皮で覆われ、肘から先と膝上から下が獣の手足のように人でありながらモフモフになっていた。

 口からは鋭い犬歯が顔を覗かせ、開いたままになっていた目が紅く光っていた。


 ミリア(?)の感情の無い紅い冷たい目が、ギロリとこちらに視線を向けると同時に、頭の中に声が響いて来る。


『小僧、離れていろ。近くでは巻き込んでしまう。(つが)い相手のお主を殺してしまっては、ミリアの心が壊れてしまう』


 ミリアとは違う、中性的で低い声が頭に直接響く。

 顔はミリアだが中身の違う彼女がそこにいた。


『体のデカいだけの犬風情がこのナインテイルが最長老──ウェイズリシア様に敵うわけがなかろうが。身の程を知れ俗物が』


 牙を剝き出しにしながら、ミリアの顔をしたウェイズリシアが眉間にシワを寄せながらクレセントワイルドウルフに向かって啖呵を切るのだが。


『──ええい、そこのお前、狐耳をもふるのをやめぬか』


 思わず立派なもふもふ狐耳に心を奪われ、その柔らかさを揉みしだくように堪能してしまっていた。

 せっかくウェイズリシア(?)さんがカッコよく決めている雰囲気をぶち壊してしまった。


 抱き締めていたのでお互いの吐息が感じられるほどの距離だったのだが、胸に腕を突っ張られてまるで嫌々する飼い猫のように距離を取られた。


『熱い抱擁は我ではなくミリアリアにしてやれ。自分を犠牲にして頑張ったのだから、それくらいの褒美はくれてやると良いだろう』


 ウェイズリシアは言うと僕を押し退けて立ち上がる。

 立ち上がったその姿に傷や怪我はなく──いや、体に黒い斑点が複数浮かび上がり、次第に大きくなっていく。


『今は時間がない。魔力のすべてを戦闘に回した。ミリアを死なせたくなかったら、道を開けろ‼』


 ミリアが戦闘の時に見せた低い姿勢と同じ構えを取るウェイズリシア。

 だが、出された両手両足の爪を見ると、赤黒い炎を纏っている。もちろんその炎が自身を燃やすことはない。


 クレセントワイルドウルフがその炎を見て足を止め、低い声で唸る。

 その瞬間、ウェイズリシアが地面を抉るように蹴って加速し、瞬きする間もなく敵の懐に飛び込む。

 彼女が地面を抉った跡が、赤黒い炎で燃えている。

 今まで見た動きで一番早い。


 いきなり眼前に接近してきた彼女にクレセントワイルドウルフは対応できず、飛び退こうとするがバランスを崩してその場に倒れる。


 神速の斬撃がすでにクレセントワイルドウルフの四肢をそぎ落とし、その切り口を赤黒い炎で炭化させていた。


 四肢が無くなって身動きできなくなったクレセントワイルドウルフの胸のあたりに押さえつけるためにウェイズリシアの左足を掛けられ、右腕が高く振り上げられる。

 瞬間的に腕が振り下ろされ、引き裂かれた胸から取り出された心臓がまだ鼓動していた。


 クレセントワイルドウルフは取り出された心臓を見て恐怖に怯える子犬のような鳴き声を上げる。

 その目の前でウェイズリシアは心臓を握り潰して赤黒い炎で炭化させた。


 クレセントワイルドウルフは自身の死を知覚しながら死んでいった。


 敵の死亡を確認すると、ウェイズリシアがその場に尻もちをついた。


「ウェイズリシアさん!?」


 僕が慌てて駆け寄ると、ウェイズリシアは──ミリアの口から虹色のゲロを吐いた。さっきまでのカッコよさがすべて台無しになる瞬間を見せられてしまった。

 虹ゲロの滝の中から、パーティー全員分の荷物となにかの葉っぱの束が放り出されて地面に落ちる。

 口の周りに付いた虹ゲロを拭いながら、顔面蒼白のウェイズリシアが口を開く。


『ぐぬ、もうだめだ、これいじょう、もたない。我、ふかいところ、もぐる。ミリア、おきたら、まりょくそう、ひゃくまい、くわせろ』


 片言になりながら要件を伝えると、彼女は仰向けに倒れ込んだ。

 脚部の毛皮がミリアの体の表面を這い上がり、立派なもふもふ九尾も収縮し、下腹部の毛皮に合体。立派なもふもふ狐耳が収縮し、腕部の毛皮が胸部の毛皮に合体。

 毛皮が這い上がった跡を見ると黒い斑点が消えていた。

 さらに下腹部周りの毛皮が体を這い上がり──。


「わーーーーーー!?」


 生まれたままの姿を見てしまった僕は叫びながら放り出された自分の荷物まで猛ダッシュしてマントを取り出し、また猛ダッシュして戻った。

 マントをバサッと広げて素っ裸になりつつあったミリアの体に掛けてあげる。


 マントの下で毛皮がゴソゴソと動き、一旦狐要素をすべて吸収して、ミリアの顔の上で一つの毛玉になった。そこからいつもの見慣れた九尾狐パーカーが再形成されていった。


 ウェイズリシアと名乗ったのが何者だったのか、僕らには結局わからなかった。

 ミリアが意識を取り戻したら聞いてみよう。


 とりあえず、危機は去った。

 マントで包んだままミリアをお姫様抱っこで抱き上げる。口元に耳を寄せて呼吸を確認すると、弱々しくはあったがきちんと呼吸していた。


 周りを見回すと、玄関ドアの開いた無傷の一軒の家があったのでそこで今日は休ませて貰うことにする。


「みんな、今日はこの家で休ませて貰って、明日の日の出とともに領都アルベルへ向けて帰還します。異論はないですね?!」


 僕が声を張り上げて言うと、遠巻きに様子を伺っていたみんなが近寄ってきてミリアの顔を覗き込む。


「またミリアに助けられちまったな。ゆっくり休ませてやろう」

「さっきの姿は……なんだったのですの?」

「リーダーさ、またラッキースケベしてなかった……?」


 ウェイズリシアは一度だけミリアのことをミリアリアと呼んだ。

 どこかで聞いたことのある名前だった気がする。


 けれど安らかなミリアの顔を見たら、そんなことどうでも良くなって。


「ありがとう……」


 昔アニーにしたように額にキスをして精一杯の感謝の気持ちを伝えた。

※表現修正

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