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こんけるふぇん(仮)  作者: 黄昏狐
第1章 冒険者パーティー『狐火』
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第15話 狐娘は一緒に泣く。

 今日の見張りはあたし、アーランド、ガストン、ジョイル、ミルフェの順になった。

 アーランドに今日の見張りは大丈夫だとも言われたが、意地になって断った。


 あたしが意地になって断るものだから、アーランドも意地になって張り合ってきた。なんで?


「僕がミリアの分も見張りをしますから、今日は眠ってください。強化魔法の代償の筋肉痛を早く治してまた戦ってもらえるようにならないと困ります」

「いーやーだー! あたしもパーティーメンバーの一人なんだから、きちんと仕事はしますぅ~!」


 大人げなく言うあたしに、人差し指を口の前に持ってきて静かにするようにジェスチャーするアーランド。

 でもその顔はなんだか今までになく落ち着いたような優しい笑顔だった。


「声だけは小さくしてくださいね。みんなが眠れないじゃないですか」

「焚火を挟んで会話すれば、そりゃぁ声も大きくなるよ。アーランドが眠ればかいけ──へくしっ‼」


 思わずくしゃみをする。体が少し冷えてしまったからだろう。

 あたしがいる位置は焚火から少し離れた切り株で、意地でも起きた姿勢で見張りをするために温かさよりも姿勢を優先した結果だ。

 よりによってそのタイミングで夜が冷え込むなんて誰が思うだろうか。


「寒いですか?」

「寒くない……! ズズズ……」


 寒くないと言ったのに垂れてきた鼻水を思わず啜ってしまう。

 息が白くなるほどの寒さではないが、ずっといると体が芯から冷えてしまう程度の気温で、あたしの格好は丈の短い狐パーカー(九尾付き)だけだ。ウェイズの毛皮には防寒作用はあまりないのだろうか?

 アーランドですら、いつもしていないマントを取り出して体を覆う寒さのようだ。

 単純に露出している太腿から膝下までで体温を奪われている気がしないでもない。今使っている布にもあまり防寒能力は期待できないようだ。


「……風邪、ひきますよ?」

「馬鹿だから風邪はひかない」


 言い切って三角座りした状態の膝に組んだ腕を乗せて顎を乗せ、不貞腐れたような顔をしてアーランドを睨む。


 程なくして体がブルブルと震え始めた。抑えられないほど体温が下がってきているのだろうか。


 見兼ねたアーランドがそばにやってきてあたしをお姫様抱っこで抱え上げ、火に近い位置のアーランドが座っていた場所まで連れてきた。


「何するの……!?」


 静かにアーランドは胡坐で座るとその上にあたしを下ろし、それこそ人間椅子みたいな状態でさらにその上からマントを羽織った。

 1つのマントから前にあたしの頭、後ろにアーランドの頭があるような状態だ。


「──いっつ……‼」


 暴れてマントから出ようとするが、筋肉痛のせいでうまくいかないし、マントの中でアーランドに押さえつけられていた。


「体、冷えてるじゃないですか。本当に風邪をひいてしまいます」


 まるで子供でもあやすように優しく言うアーランドの声がすぐ後ろから聞こえてくる。


「何か防寒になりそうなものはあります?」

「……ない」

「ではリーダー命令です。今晩はこうして温まってくださいね。たしか、リーダーの指示は聞いてくれるんでしたよね?」

「……ぐぬぬ……」


 反論できなくて顔をしかめるが全身筋肉痛の辛さに負けてしまい、アーランドに体を委ねる。


「……とりあえず、今日だけだからね……!」

「はいはい。あれ、足冷えてるじゃないですか」

「ひゃっ!? どこ触って!? ぐぅぅ!? 腹筋が、腹筋が死ぬぅ!?」


 アーランドは容赦なくあたしの膝だったり太腿だったりを触ってくるのだが、その度にくすぐったくて体を捩ろうとして全身筋肉痛で喘ぐ。

 遠くから見たら球体から二つの頭を出した怪物がボコボコと形を変えているように見えたかも知れない。


 しばらく抵抗を続けていると、体がぽかぽかと温まってきた。アーランドもそれを感じたのか、あちこち悪戯に触るのをやめてくれた。


「ほら、温まったでしょう?」

「……んもうっ!」


 あたしは思わず頬を膨らませてそっぽを向いたが、心の中で少しだけアーランドに感謝した。


「では、体も温まったところで眠ってください。今晩はこのまま温めててあげます」

「いやだと何回言ったらわかってくれるのかな」

「たぶん朝日が昇るまでわかりませんね。ははは──」


 優しく笑うアーランドの声がぴたりと止まる。

 どうしたのかと振り向くと、なんだか下を向いて暗い顔をしていた。


「……アニーが生きていた頃は、良くこうやって暖を取ることを強請られて……困ったものでしたよ……」

「……アーランド……?」


 アニーがどういう人物だったのかはあたしは知らないけれど、アーランドはあたしとアニーを重ねて見ているようだった。


「……あたしはアニーじゃないし、アニーの代わりになる気もない」

「……っ!」


 少しだけ泣きそうになっていたアーランドがハッと気が付いたように顔を上げた。


「……あたしはミリア。どこの誰でもない、ミリア。あなたのパーティーの新メンバーなんだから──」


 マントの中でアーランドの腕が動き、あたしを後ろから抱き締めた。


「ちょ、ちょっと……!? いだいっ!?」

「あっ、す、すみません……」


 あたしの上げた声に我を取り戻し、抱き締めた腕をゆっくり解いてくれた。


「──アニーが死んじゃってから何年になるの?」

『お主、小僧の傷口を抉る気か?』

『ウェイズは黙ってて』


 あたしの、アーランドの心を抉るような問いを聞いたウェイズの念話が聞こえてきたが黙らせる。


「……三年前ですね……」

「……もう三年も過ぎたじゃない。あたしがすべてを失ったのは一昨日だよ。生みの母とは死別して、継母には毎日罵られて、お父様には家を追い出されて、泣く暇なんてどこにもなくて……誰も慰めてなんてくれる暇さえなくて……」

『ミリア……すまぬ、お主は……』

『別にウェイズを責めてるわけじゃない』


 ()()()()()()()()()()を思い出して、あたしは思わず目に涙が浮かんだ。


 狡猾な妹は継母が来てすぐに気に入られ、今でもお父様とも関係は良好だ。

 継母を受け入れられなかったあたしはいつまでも両親とは不仲で、最終的に今に至っている。

 心の支えであった育ての母──メイドのシルビアに会うことももう叶わない。

 帰る場所がない。

 はっきり言って正体すらわからないこんな狐の魔物の成れの果てと離れることもできず、当てのない旅をするしかない。きっと今思っていることもウェイズは思考を読み取っていることだろう。

 家を追い出された瞬間に首を掻っ切って死んでやろうと思わなかったと言えば嘘になる。

 まだ二日しか経っていない。

 それなのに、もう三年も前のことをまだウジウジしてるのかと思うと正直言って自分の悲しみより怒りの感情のほうが大きくなった。


「アニーは確かにここにいたかも知れない。けど、足を止めてしまって、もう一緒に歩んでいくことはできない。アーランドは生きてこれからも前を向いて歩いて行かなきゃならない。生きてあたしたち四人を前へ前へ引っ張ってもらわなきゃない」


 あたしはハッとして声が大きくなっていたことを自覚して、周りが起きていないか見回す。辛うじて起きなかったようなので、そのまま話を続ける。


「あたしはアニーじゃない。でも今日だけはアニーの代わりになってあげる。だから、アーランドも今日だけでいいから、不幸になったばかりのあたしのこと頭撫でて慰めてよ……!」


 目に浮かんだ涙がポタリと流れ落ちた。

 

 あたしは幼い頃の記憶だが覚えている。亡くなった母に良く頭を撫で慰めて貰っていたことを。

 だけど体はこんなだけどあたしだってもう十五歳だ。感情がぐちゃぐちゃな今日だけは許して欲しい。


「アーランドが立ち止まったら、必ずあたしが背中を押してあげるから、あたしが足を止めたらアーランドが必ず前から引っ張ってくれるって約束して」


 あたしは前を向いているのでアーランドがどんな顔をしているのかわからない。

 でもこうでも言わないとアーランドはいつまでもウジウジしてそうだったから言い放ってやった!


「わかりました……いや、わかった……」


 静かにアーランドの腕があたしを後ろから抱き締めた。

 感情を押し殺して今まで頑張ったあたしだったが、静かに泣くアーランドの声が後ろから聞こえてきて、貰い泣きしてしまった。

 これは貰い泣きだ!

 あたしもグズグズと泣き始めるが、優しく抱きしめてくれて、お願い通りに頭を撫でてくれるアーランドにすっかり心を許してしまい、静かに目を閉じた──。



 翌朝、ジョイルに「昨晩はお楽しみでしたね」と囃し立てられ──からのミルフェとガストンの拳骨の流れは恒例行事のようになっていて、おはようと言ってくれたアーランドの顔が今までで一番澄んでいた気がした。

 なので。


「おはよう、アーランドっ!」


 あたしも朝の挨拶を元気に返すのだ!

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