第11話 狐娘は初見張りする。
みんな思い思いの格好で寝息を立てていた。
冒険者たるもの、どんな場所でもすぐ寝られてすぐ起きられなきゃダメなのだそうだ。
火を囲むようにみんなで小さな輪を描くように寄り添って眠る。
あたしだけ起きたまま、昼間に食べられなかった魔力草を取り出し、まるでおやつでもつまむように食べていた。
ウェイズに取り出してもらった魔力草は暗がりで見るとほんのり青く光って見えて、ちょっと危ない植物にも見える。だが、食べてみるとほんのり甘いので、本当の意味でのおやつとしても問題なくイケると思う。
実家にいた頃はメイドのシルビアが午後三時になるといつも小さなケーキを一つと紅茶を用意してくれていたものだ。
他人との付き合いがないあたしの、唯一の知り合いと言っても過言ではなかった。
あたしが生まれた時からお世話してくれて、いつも優しい笑顔を向けてくれた。妹を生んで亡くなった母の分まで、あたしに愛情を注いで育ててくれた。お父様には嫌われていたから、本当にシルビアの愛情があたしにとっての救いだったと思う。
あたしの誕生日の二週間後がシルビアの誕生日だ。このタイミングで追い出されるとわかっていたら、もっと前から誕生日プレゼントを用意して置いてくればよかったと後悔している。
もう二度と会うことのない、育ての母だ。あたしの中ではそういう位置付けだ。
魔力草をもきゅもきゅと食べながら、上を見上げると満天の星空が広がっていた。
あたしはこれから先、何度仲間たちとこの星空の下で一緒に過ごすのだろうか。
家を出た当初こそ胸を張って冒険者になると言っていたあたしだが、本当は押しつぶされそうなくらい不安だった。
与えられた居場所がなくなり、自分でそれを確保できるのか。でも、ウェイズがいてくれるからどうにかなるだろうという楽観的な考えはどこかにあって、それで覆い隠そうとしていたのだ。
いざ蓋を開ければ、最初こそレミットさんの間違いから始まった関係だが、話してみれば皆良い奴ばかりで、あたしみたいなのがこんなところに居ていいのか? と思ってしまう。
亡くなったというアーランドの妹分の代わりになることはできないが、新たな仲間としてパーティーを盛り立てていくことはできる。
──ふと見ると、ミルフェの眼鏡が暗闇で月明りを反射してこちらを見つめていた。正確には、あたしが食べている魔力草を、だ。
「……ミリア、あの、それは……?」
「……夜のおやつ……? 少し要る?」
「はい」
起き上がったミルフェに魔力草を五枚ほど渡すと、しばらく眺めた後に驚いた顔でこちらを見た。
「ミリア、ここここ、これって、魔力草では!? ギルドの資料室の図鑑で一度だけ見たことがありますわ!?」
魔力草が飛んで行きそうなほど荒い鼻息をしながら興奮した様子のミルフェだった。
「元居た実家の裏山にいっぱい生えてた雑草なんだけど、これを食べると魔力が回復するらしくてね。あたしは魔力が人より回復するのが遅いから、倒れるのを予防するために食べてる」
「実家の裏山!? これを売れば結構纏まったお金になりますわ!?」
『そんな貴重品だったか? 数百年前は庭の雑草と言ったらこれだと言わんばかりにそこら中にはえていたぞ?』
『ウェイズは黙ってて』
あたしはそんなことを言われてももきゅもきゅと魔力草を噛み締める。噛むほどほのかに甘い汁が口に広がるのが好きだ。もし、この草が青臭い上に苦かったらこの世界に絶望していたと思う。
「これはあたしの生命線だから、売ったりはしないよ?」
「ちなみに今何枚くらいお持ちなんですの?」
言われて考えてみるが、ウェイズが自我を取り戻した頃からだから、大体三年間毎日刈っても刈っても生えてくる草を食べては刈って亜空間収納にぶち込んでいたが、一日百枚は刈っていたので三万枚以上あるんじゃなかろうか。
「うーん三万枚くらい?」
「ファー」
白目になったミルフェが壊れて奇声を上げた。
「売らないよ? それよりおいしいから食べてみて」
あたしが言うと勿体なさそうな顔をしながら、小さく千切った魔力草を口に運ぶミルフェ。
「あっ。これ甘くて美味しい」
「でしょ? 噛めば噛むほど甘みと魔力が染み出してくる」
ウェイズに受け売りだが、この魔力草というものはウェイズのような強力な魔獣であっても好んで食べるようなものらしい。たまに口をくちゃくちゃさせている魔物を見ることがあるらしいが、それはこの魔力草を噛み締めているのだという。ちなみに魔力ポーションの主原料だそうだ。
「しかもなんかゆっくりと魔力が満たされていくような感じが…???」
「そう。これはゆっくりだけど、確実に魔力を回復させてくれる。魔力ポーションの原料にもなるらしくて、そっちのほうがもっと即効性が高いらしいよ。知り合いが言ってた」
あたしは言いながら視線を上に向けた。
知り合いって俺? と言った表情で見返してくるウェイズ。
「……ミリアって本当に不思議な方ですわね。自分は箱入り娘だったようなことを言いながら、そんなことを知ってて、大量の魔力草を持ってるなんて」
「また今度あげようか?」
「頂けるかしら。魔力切れを心配しなくて良くなるのは心強いですわ」
ミルフェは親指をグッと立てた。
それから、魔力草を食べ終わるまでミルフェと共に空を見上げて、火の調整をしながら星座の話なんかをしたりした。
あたしの手元に魔力草が無くなったのを見てミルフェが言う。
「そろそろ交代しますわ。ミリアは寝てくださいな」
「わかった。それじゃ、おやすみ」
あたしは敷いてた布を半分に折ってその中に潜り込み、その中で小さく体を丸めた。
眠れないのではないかと心配していたが、睡魔はすぐにやってきて眠りに落ちた──。




