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アナザータイトル  作者: かなん
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第一話 異形

読んでいただけたら嬉しいです。


 瞬間、世界が切り替わった。

 人々の喧騒が一転、静寂へ。

 色づいた世界が白黒へ。




 白夜イザナは、突然の事態よりも、むしろ、そんな事態になっても意外と冷静だった自分に驚いていた。


「・・・どこ?」


 呟き、辺りを見回す。

 どう見ても廃墟としか言えない場所だった。

 所々鉄筋の見える壁や天井、タイルの剥がれた床に窓から侵入している植物のツタ。

 一体どうして、このような事態になったのか、イザナは数秒前の記憶を振り返ろうとするが、無駄だと思い、考え直す。

 何しろ、こうなる前の最後の記憶は駅の改札口に切符を入れたという何の変哲も無いものなのだ。

 文字通り、気が付いたらここに居たことしか、分からない。


 考えられる可能性としては、二つ。


 改札を通った瞬間に気絶させられて、ここに連れて来られた。


 もしくは、夢。


 とはいえ、法治国家日本において一つ目が許されるはずも無く、あり得るとしたら後者なのだが、これが夢だと思ってもまるで夢から覚める様子が無い。

 それに、夢の割にはやたらと感覚がリアル過ぎる。

 軽く鼻から空気を吸ってみれば埃っぽいような、灰のようななんとも言えない臭いがするし、床に触れてみると、砂埃のザラリとした感触がしっかりと返ってくる。

 更に、お決まりのように自分の頬をつねってみるが、ちゃんと痛いだけで起きる気配はない。


「夢なら・・・後は死ぬくらいしか無いけど」


 流石に自殺するような勇気は無い。

 とは言え、それ以外に何か出来ることがーー。


 その時、床が爆発した。

 いや、正確には床を突き破って何者かが下から飛び出してきた。


「何!?」


 穴に手をかけて這い上がってきたのは黒いボロ切れを纏った筋骨隆々の大柄な男性だった。

 ただし、その腕は六本あり、顔には耳まで裂けた口以外のパーツが無かったが。


「・・・は、はは・・・いや、本当に何だよ、これ」


 乾いた笑いが出るだけで、最早驚く事すらできない。

 悪夢なら、早く覚めてほしいと心の底から願う。


「ヒ・・・ヒト・・・イキノコリ・・・」

「ッ・・・」


 化け物が酷く耳障りな声と共に多腕をボロ切れに突っ込み、血と赤錆で真っ赤に染まった斧や剣を取り出す。

 10メートルは離れているのに、強く鼻に突き刺さるような悪臭。一体、あの凶器はどれだけの血を吸ってきたのか、少なくとも百は下らないだろう。


「・・・」


 ジリジリと後ずさる。

 逃げ出したいのにそれが出来ない。化け物の姿を視界から外す事が恐ろしい。

 後ろを向いた瞬間、背中を斬られるかもしれない。

 走ろうとした瞬間、強張った脚がもつれるかもしれない。

 ネガティブな想像が指先から身体を冷やしていく。全身が氷像になってしまったかのように、冷たく、硬い。

 だが、その硬直は直ぐに破られることになった。


「ミ、ミ、ミナゴロシ!」

「う・・・うおぁ!!!」


 廃墟全体を震わせる化け物の叫びに釣られて、イザナも叫ぶ。情けない事この上ないが、そのおかげで身体が動くようになった。

 化け物に背を向けて全力で走り出す。

 背後から化け物が追いかけてくる気配を感じるが、振り返る勇気は無い。

 勢いそのままに、突き当たりの階段を一息に飛び降りる。


「グゥ・・・」


 着地で背骨まで衝撃が突き抜けるが、立ち止まる余裕は無い。

 どこに行けば良いのかも分からないが、ともかくあの化け物から距離を取らねばならない。

 再び走り出そうとした瞬間、天井が崩落した。


「!?」


 粉塵が目の前を埋め尽くすと同時に強い衝撃に吹き飛ばされる。

 そして、土煙の中から化け物が出てくるのを見て、ようやく何が起きたのかを理解した。

 奴は、床をぶち抜いて飛び降りてきたのだ。

 

「ニ、ガサナイ・・・」

「う・・・あ・・・」


 立ち上がろうとするが、強く壁に叩きつけられたせいで身体中が痛い。

 更に、先程の衝撃から身を守る為に咄嗟に腕を前に構えたのだが、その腕の感覚が無い。ゆっくりと腕のあるであろう場所を見てみると、そこにはぐちゃぐちゃになった肉の塊があるだけだった。


「・・・マ、ジ?」


 多分、瓦礫か何かにぶつかったのだろうが、何とも運が悪い。まさか、ピンポイントでぶつかるとは。

 不運を嘆いていると、頭上に影が降る。

 見上げれば、そこには口からダラダラと涎を垂らす化け物の姿があった。


「テンシ・・・オッシャッタ。ヒト、コロス!」


 化け物が武器を振り上げる。

 当然、イザナに打開策は無い。

 

「・・・・クソ」


 凶刃が振り下ろされる。


 


 


 

 


 

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