この先に潜るのが楽しみになりますね。
翌朝、大迷宮に向かいます。
ミアラッハは少し眠そうです。
「時差って不思議よね。なんで起こるのかしら?」
「それはこの大地が丸いからですよ」
「大地が丸いの?」
「ええ。太陽を中心にして回っているので、瞬時に移動すると時間がズレるんです。……多分」
「……よく分からないわ」
私も実はこの大地が球体なのか調べたことがないので、分かりかねます。
ただし地平線は弧を描いていたので、まず球体だと思いますが。
〈ディメンションゲート〉で家に向かうと、ちょうど迷宮都市キャストルリアーヌは朝でした。
今日は依頼を受けずに、大迷宮の深くに潜ることを目標にしています。
入り口には行列ができていました。
私たちも並びます。
この辺りでは、「臨時のパーティを組みませんか!」といくつもの勧誘する声が聞こえてきました。
決まったパーティを組まずに、その日その日でメンバー集めをする冒険者もいるらしいですね。
さあ順番が来ました。
扉を開けて、迷宮内へ。
始めの十字路を左に向かうと、難易度の高い方へ直行できます。
迷わず、そちらへ向かいます。
長い長い通路を進むと、階段がありました。
宝箱はありませんね。
珍しいこともあるものです。
「宝箱なしとは珍しいね」
「いや、普通はあんなにほいほい出てこないから」
「そうなんだけどね」
まあ大迷宮は他の迷宮とは違って、複数の迷宮が合体したという特殊な場所なので、宝箱の出現法則もここでは通用しないのかもしれません。
なにはともあれ。第二階層、高難易度エリアに進みます。
さっそくお出迎え。
オルトロスです。
ふたつの頭部をもつ巨大な黒犬ですね。
ケルベロスの下位の魔物とされています。
ミアラッハが魔槍召喚しつつ縮地で距離を縮めて、「〈さみだれ〉」と槍術を放ちました。
ふたつの頭部が吹き飛ばされましたね。
楽勝です。
「楽勝ね。どのくらいから難易度が上がるのかしら」
「高難易度エリアとはいえ、まだ浅いから。気長に歩きましょう」
大迷宮は普通の迷宮よりも広く、出現する魔物も多種多様でした。
もちろん苦戦する要素はありません。
敢えて言うならば、この迷宮の広さが厄介でしょうか。
どうしても戦闘の回数が増えて、なかなか進んだ気がしないところが厄介です。
夕方までにはなんとか第五階層の中ボス部屋にたどり着きました。
ここはケルベロスが出ます。
今の私たちにとっては、雑魚ですね。
とはいえ第五階層の中ボスとしては破格の強さです。
この先に潜るのが楽しみになりますね。
手を繋いで、転移魔法陣に乗ります。
第一階層の転移魔法陣の集まる小部屋に転移してきました。
場所を覚えておかなければなりませんね。
「おい嬢ちゃんたち。今、その魔法陣から出てきたか?」
「え? そうですがなにか?」
「そこはケルベロスだろう。たったふたりか?」
「ええ。ケルベロスなら問題のない相手ですからね」
「おいおい、ふたりでケルベロスって……銀ランクだろ?」
「ほぼ依頼を受けていないので、ランクが上がらないんですよ。戦力は十分ですので、お気遣いなく」
「いや、それは――」
なおも会話を続けようとするのを無視して、ミアラッハと入り口に向けて歩きはじめました。
* * *
城に戻ると、ヨルガリアが待っていました。
「マスター、お手数ですが井戸の設置をお願いしたいのですが」
「またですか。まあ住民が増えるのはいいことですけど、どこからやって来ているんでしょうか」
「国境の街のようですな。どうも新天地として認識されているらしく、食事が美味く治安も良いとあって人気のようです」
「なるほど。ではさっそく、井戸の設置に行きますか」
「お手数をおかけします」
「ミアラッハは先に夕食にしていてくださいね」
「うん、了解」
私は街に出て井戸の設置をして回りました。