足元見られても構わないよね。
隣町で馬を返却した。
あばよ、馬ちゃん。
一晩のアバンチュールだったけど、楽しかったぜ。
冒険者ギルドに入ってホーンラビットの肉と皮を売る。
銀貨8枚になった。
ちょっと心もとない。
仕方がないので、次の街へは徒歩だ。
そろそろ父の追手が来そうで嫌な感じである。
それともどこぞで野垂れ死にするとでも思って、追手を出し渋ってくれたりするだろうか?
……ああいかん、領都で四人も殺したんだった。
加減の仕方を知らなかったのもあるけど、あれで父の警戒心を上げた可能性は高い。
やっぱり追手、来るよなあ。
《名前 クライニア・イスエンド
種族 人間 年齢 15 性別 女
クラス グラップラー レベル 6
スキル 【日本語】【レクタリス地方語】【算術】【礼儀作法】【宮廷語】
【全属性魔法】【闘気法】【錬金術】【剣技】【魔力制御】
【魔法範囲拡大】【経験値20倍】【熟練度20倍】【転職】》
ステータスを眺めながら次の方策を考える。
そういえば【錬金術】は試してなかったね。
貴族院では選択授業で取れたのだけど、私は錬金術に興味なかったので、絵画の授業を選んだんだよね。
スキルになっていないところを見るに、成績はお察しというやつだけど。
錬金術はある物質を別の物質やアイテムに変換するスキルだ。
何の元手もなく小石を黄金に変えることはできないけど、適切な触媒があれば可能らしいと聞いたことがある。
もっともその適切な触媒自体が黄金より価値があるので儲かるわけじゃないんだけどね。
ただの雑草から布を作り出すのもある意味で錬金術じみているなあ……ってそうか。
雑草布を集めて錬金術でまっとうな布に変換すれば元手ゼロから稼げるじゃん!
〈クリエイトソルト〉で製塩された塩を塩ギルドに売るのも手だ。
ていうかこれが一番早そうだけど、足元見られそう。
でも馬を借りて食事をする程度の小銭を作るだけなら、足元見られても構わないよね。
風呂は〈クレンリネス〉あればいらないし、下手に宿屋を使うと追手から逃げられないので野営すれば宿代が浮く。
よし決まり。
壺を買って、その中に塩を生成して売ろう。
露天で銀貨1枚の素焼きの壺を買う。
路地裏でこっそり〈クリエイトソルト〉を使って塩で一杯にして蓋をしてからカバンにポイ。
じゃあ塩ギルドへレッツゴー!
「ごめんください。塩を売りたいんですけど」
「塩の販売は許可制だよ。ん、冒険者?」
「あ、そうじゃなくて。塩を塩ギルドに売りたいんです」
「ああ、そういうこと。岩塩でも見つけた?」
「いえこの壺の塩なんですが」
私はカバンから塩の詰まった壺を取り出してカウンターに置いた。
蓋を開けると、職員さんが目を見開く。
「製塩済みの塩か……これ壺の中、全部?」
「はい。確かめてください」
「きめ細やかな塩だな……上物だ。銀貨40、いや50枚でどうかな」
「はい。じゃあそれで」
商談成立。
元手の壺代銀貨1枚が、銀貨50枚に大化けするとか地属性魔法、チート過ぎる。
冒険者ギルドに併設されている酒場で食事を摂って、馬を借りて隣町へ向かうことにした。
* * *
闘気法を纏って馬で駆ける。
足が痛いとか言ってる場合じゃないからね。
しかし馬も走り続けられるわけじゃない。
休憩は必須なのだ。
……とここで都合よく魔法を思い出した。
早馬を潰さないように稀に使われるという、〈スタミナ〉という光属性の回復魔法である。
もちろん使えるはずだ。
なんといっても全属性魔法なのだし。
「〈スタミナ〉」
ポワァと暖かな光が馬の体力を回復していく。
よしよし、これでまだ走れるな?
〈クリエイトウォーター〉で水たまりを作り、水を飲ませる。
その間に雑草をむしって〈クリエイトクロース〉で緑色の布を作成しておいた。
錬金術で、これを普通の布に化けさせることができるはずなんだけど。
私は緑色の布に対して【錬金術】を起動してみる。
《【錬金術】
緑色の布×3
→布》
ふむ、三枚で一枚の布ができあがるのか。
パパっと二枚の緑色の布を作成して、布を錬成する。
出来上がった布は?
……なんだかよく分からないクリーム色の布ね。
緑色のまだら模様が入っていてダサい。
これ私のセンスの問題だろうか。
それとも材料が粗悪だからか。
どっちだろう?
ひとまず布は使い勝手がいいので、カバンに仕舞う。
馬は水を舐め終えたらしい。
よし出発だ!