いろいろやろうぜ! に作戦変更した。
昨晩はトラブルがあってやや寝不足だ。
なので今日はお休みにして、のんびり過ごすことにした。
とはいえ私は休日なら鍛冶をしに行く。
一日でも早く魔法の武器を打ちたいのだ。
「なんじゃ、今日も休みか」
「そうなの。昨晩は盗賊に襲われてね」
「なに? ……まあお主ら稼いでおるようじゃしなあ」
「そうなの。冒険者ギルドも気が利かないのよね。大勢に大金を受け取っているところを見られてるから昨晩みたいなことになる」
「ううむ。まあ冒険者ギルドとしては特別扱いするわけにもいかんじゃろうしな。一攫千金の実物を提示することで他の冒険者のモチベーションを上げようという目論見もあったんじゃろ」
「それで私たちが盗賊に襲われるんだから、納得いかないわ」
「そうじゃな。女ふたりというのもあって、舐められやすいじゃろうしなあ。パーティメンバーを増やす予定はないのか?」
「ないわね。私たちがステータスバグなのは知っているでしょう?」
「ん? もうひとりの方もステータスバグなのか?」
「あれ、言ってなかったっけか。そうよ。私たち、揃ってステータスバグなの。読めるのは私だけなんだけどね」
「なるほどのう。ステータスバグなのを知られると面倒そうじゃな」
「そうなの。だからパーティメンバーをおいそれと増やすわけにはいかないのよ」
「ステータスバグの人間を新しく仲間に加えるのはどうなんじゃ?」
「私がステータスバグを読めるのはたまたまなのよ。他の人のステータスバグを全部読めるとは限らないの。ミアラッハは運良く、読めたけど」
「なるほど。それじゃあ希望をもたせていざ読めないとなると……面倒じゃな」
「でしょう?」
愚痴を聞いてもらって少しスッキリした。
さあ今日も鋼の剣を打つぞー!
かなり熟練度が貯まっていると思うのだけど、まだ魔法の武器は打てない。
ちなみに魔法の武器を打てるようになるには才能があっても数年の修行が必要となるらしいから、いくら熟練度20倍とはいえ、数日で打てるようにならないのは、おかしくない。
まだ当分、この街にとどまるからその間に打てるようになればいいなあ。
ちなみに私の打った鋼の剣は、ちょくちょく売れているらしかった。
日中、お客さんが来ては師匠が対応していたので詳しくは知らないけど、表に出ていた剣の本数が減っていたから、売れたのだと思う。
まあ売れた以上に供給したんだけどね。
今晩のデザートはドライフルーツ入りのクッキーだ。
果物の自然の甘さが嬉しい。
『竜殺しの魔導書』を読み進めて、その晩は事件もなくゆっくり眠れた。
* * *
冒険者ギルドに寄ってから、ドレイクの迷宮に向かう。
今日はいよいよ折り返しの第五十階層到達が目標だ。
ガンガン行こうぜ!
しかし迷宮の雑魚の質が高くなったなあと感じる。
というのも、〈シャドウセイバー〉一撃で魔物が死ななくなったのだ。
二、三発叩き込めば死ぬから、同時発動で多数撃っているから別に構わない。
だけど面倒だと感じるのも事実であり。
ううむ、もっと効率いい攻撃魔法が欲しいね。
というわけで、いろいろやろうぜ! に作戦変更した。
まずは魔法武器化だ。
〈ウォータースピア〉を掴み、〈死棘〉して投げる。
急所を貫き、役目を終えた〈ウォータースピア〉は消滅するという寸法だ。
やっていることはミアラッハの魔槍を〈死棘〉して投げるのと変わらない。
あちらは自前の武器を投げて戻ってくるが、こちらは魔法で生成した水の槍を投げてそのまま捨てるという違いだけはあるが。
これが低燃費でかつ一撃で気持ちよく魔物を倒せる方法である。
ただし一度に一体までしか倒せない点では、〈シャドウセイバー〉連打に劣る。
そこで同時発動〈ウォータースピア〉を両手にそれぞれ持って、〈死棘〉して投げるという二刀流投法である。
これは難しい。
なにせ別々の対象に槍を投げる必要があるのだ。
投げる動作自体、工夫が必要になる。
工夫というにはお粗末だが、右手を投げてから左手を投げる、という二連撃に落ち着いた。
低燃費で二体の魔物を倒すことができて、ちょっぴり効率アップ。
やっぱ〈死棘〉が強力すぎる気がする。
本来なら槍の間合い内でしか発動しないし、投げた場合でも槍は普通は戻ってこない。
使い捨ての投げ槍を多数持った〈死棘〉戦法とかあっても良い気がするけど、〈ストレージ〉でもなければ弾数制限が厳しいだろう。
その点、魔法武器化〈ウォータースピア〉はその場で生成して投げ捨てる点で理にかなっている。
「……ねえ。一本ずつ投げるんじゃ駄目なのそれ」
「いや、二本同時発動すると一回の呪文詠唱で済むから少しだけ二発目が早いんだよ」
「左手で投げるの、大変そうに見えるけど」
「慣れてきたから大丈夫」
そう、熟練度20倍があるから、きっと今頃ステータスに【二刀流】とか増えてるに違いない。
実際、投げるテンポは早くなっている。
「ていうか、よく魔力が保つなあ。羨ましい」
「本業は魔法使いだからね!」
「剣も槍も使えるクセに」
「まあまあ。ミアラッハには魔槍召喚があるじゃないの」
「槍に特化しているのは否定しないけど、横で何でもありをやられると、こう、考えるものがあるのよねえ」
はあ、とため息をつくミアラッハ。
うん、なんかお株を奪ってしまったようで悪い。
ところで〈マジックハンド〉という基本魔法がある。
これは魔法の見えない腕を生やして、非力ながら色々とできるのだが。
これに魔法武器化した〈ウォータースピア〉を持たせて〈死棘〉発動して投げる動作を行わせたわけだけど、まんまと成功してしまった。
身体を使って投げるより無理なく投げられる。
宙に浮いた〈ウォータースピア〉が敵の急所を次々と貫いていくのは、卑怯を通り越して爽快だ。
なお敵の装甲の厚い部分に当たると、そもそも貫通できないという弱点があって、硬い敵に弱いことが発覚するのはすぐのこと。
低難易度の迷宮とはいえ、下位属性の〈ウォータースピア〉では厳しいらしい。
一応鎧貫きもあるのだが、そもそも装甲の厚い部分には効果がない。
なので威力の高い魔法武器化〈マナジャベリン〉に切り替えた。
やっぱ基本魔法、優秀だわ。
ただし燃費は〈シャドウセイバー〉連打にやや劣る。
ただし戦闘時間は確実に短くなった。
同時発動〈マジックハンド〉、同時発動+魔法武器化〈マナジャベリン〉、槍の数だけ〈死棘〉、一斉投擲。
一連の流れを続けると、段々と最適化されていくような気がする。
多分、何らかのスキルの熟練度が貯まっていっているのだと思われる。
ステータスを見てないから分からないけどね。
さてそんなこんなで色々していたら、第四十五階層の中ボス部屋に辿り着いた。
相変わらず、『三魔炎』の六人組が前に並んでいた。
きっと朝、一本早い乗合馬車で迷宮に潜っているのだろう。
そしてこの後、私たちに追い越されるのだ。
「こんにちは」
「こんにちは」
挨拶はしておこう。
ギィ、と扉が開く。
「それじゃ、お先に失礼します」
「うん。頑張ってねー」
六人の背中を見送る。
「彼らも頑張ってるねえ」
「そうだねえ」
「ところでクライニア、ここのボスなんだっけ?」
「ええと、……ダイアウルフが六体だね」
地図を見ながら答える。
ダイアウルフは大きな狼だ。
連携して狩りをする習性があり、コンビネーションに定評がある。
もちろん、私たちの敵じゃない。
しばらく待つと、扉が開いたので入る。
「五体は受け持つよ」
「うん、任せた」
私は〈マジックハンド〉と〈マナジャベリン〉を五発同時発動した。