レベル50で上級クラスが解放されるからだ。
雑魚とはいえあなどれない相手が増えてきた。
そろそろ〈マジックアロー〉の同時発動では力不足を感じる。
追尾性能が優秀なので使い続けてきたが、さすがに基本攻撃魔法だ。
そろそろ別の魔法を試してみるのがいいかもしれない。
そこで候補に挙がったのは、〈シャドウセイバー〉だ。
対象の影から刃が飛び出して貫くというもので、追尾性能ではないが奇襲性のある攻撃魔法である。
同時発動で二体以上に放つこともでき、〈マジックアロー〉より威力は当然、高い。
攻撃魔法の中では威力はそこまでではないのだが、影の中から攻撃が発生するため、足を傷つけることが多く、機動力を奪うのもメリットが大きい。
闇属性の物理攻撃魔法に耐性のある魔物が少ないのも、利点のひとつかな。
というわけで、〈シャドウセイバー〉に切り替えて戦った感想だけど、……いやこれは便利だわ。
耐久力の低い魔物なら一撃。
そうでなくとも足に傷をつけられるので、前衛のミアラッハが対応する時間を稼ぐことができる。
雑魚戦に余裕ができたので、サクサク進むようになった。
相変わらず私の魔力は無尽蔵だ。
魔力自動回復もあるので、消費分を戦闘と戦闘の合間に回復してしまう。
遂に第三十階層の中ボス部屋に辿り着いた。
「ここはなんだっけ?」
「バジリスク」
「……石化?」
「そう、石化」
嫌そうな顔をするミアラッハ。
まあまあ、事前に分かっていれば対策も打てるのだ。
「そんな顔しないで。〈マインドプロテクション〉するから」
「ああ、闇属性の精神効果を無効化するんだっけ?」
「そう。バジリスクの邪視も防げるから」
「なら安心だね」
私の防具には闇属性無効がついているのだが、胴体の防具ゆえに精神効果に対しては完全耐性とまではいかない。
これが頭部の防具だったら精神効果を無効化することもできたのだが、どのみち私には〈マインドプロテクション〉という精神効果を無効化する魔法があるため、優先度は低めだ。
ミアラッハと私に〈マインドプロテクション〉をかけてから、扉を開ける。
バジリスクは三つ目の大きなトカゲだ。
額の目から石化の邪視を放ってくるのだが、私たちは対策済みなので問題はない。
「〈ブリザード〉!!」
「ふっ!!」
トカゲだけに冷気には弱いらしい。
〈ブリザード〉で弱ったところにミアラッハが槍を一閃。
それで終わった。
石化の邪視は使われたのかどうか分からない。
まあ何にせよ石化しなかったので問題なし。
バジリスクは邪眼と肉が素材だ。
とっとと剥ぎ取らないと、迷宮に飲まれてしまう。
ミアラッハと一緒に解体し終えると、バジリスクの残骸が迷宮に解けるようにして消えた。
あとに宝箱が残る。
罠は石化ガスが噴出するらしい。
物理的なトリガーなので、スカウト用ツールでピッキングだ。
そういえば罠解除の講習を受けていないなあ。
鍛冶に夢中で完全に失念していた。
よっと、解除成功。
中身は?
リボン……にしては厚手だ。
たすき?
まあ何にせよ帯状の白い布である。
「よし、今日はこれで終わりだね」
「お疲れさま。帰ろうか」
私たちはどちらからともなく手を繋いで、転移魔法陣に乗った。
* * *
鑑定師の前に十品の迷宮品を出す。
小瓶に入った緑色の豆、水晶、絵画、彫刻刀、短槍、剣、縄、水晶、酒瓶、帯状の白い布。
さあ順番に行こうか。
まず小瓶に入った緑色の豆。
これは土に埋めて水をやると、数日で複数の豆がなるという繁殖力旺盛な植物らしい。
なんと言ってもこの豆は栄養価が高く、やせ細った土地でも難なく育つため、飢饉の対策に使われるそうだ。
そう言われてみると、不作の年にこの豆のスープを飲んだ記憶がある。
迷宮産の原種に近いほど繁殖力が高く、常に需要があるとのこと。
金貨2枚になった。
次に水晶。
これはふたつ出たもので、どちらも同じものらしい。
スキル結晶と呼ばれるもので、使用することでランダムにスキルを身につけることができるスグレモノだ。
これは私とミアラッハにひとつずつ使用することにする。
確保だ。
次に絵画。
両手で抱えられるほどの絵画で、ミアラッハが戦う姿が描かれている。
迷宮産の絵画は迷宮内での出来事を絵画にしたためたものが出るそうで、コレクターがいるそうだ。
ミアラッハの魔槍の輝きが忠実に再現されており、ミアラッハ自体も美人ゆえオークションに出せばそれなりの額になるとのこと。
だがミアラッハは「この絵をブライナー家へ手紙とともに送りたい」と言ったので、そうすることにした。
私と違ってミアラッハは家名を捨てただけで家族との絆は切れていないのだ。
次に彫刻刀。
これはミスリル製の彫刻刀で、それ以上でもそれ以下でもない。
工具としては上級者向けらしいが、【彫刻】スキル持ち垂涎の品とのこと。
今の所、スキルがないので売却することにした。
金貨10枚になった。
次に短槍。
帰還の特性を持っており、投げても手元に戻ってくる優秀な武器だ。
私のサブウェポンにするのにちょうどいいので、確保しておく。
次に剣。
これは呪われており、攻撃すると稀に自分に大ダメージが発生するとのこと。
特性は攻撃力増大。
呪われたアイテムの買い取りはしていないとのことなので、一旦、ストレージに仕舞う。
次に縄。
これはただの縄だ。
ただし破壊不能の特性を持っているため、千切れることが絶対にないスグレモノ。
騎士団が犯罪者を捕縛するのに使うとのことで、高値で買い取られた。
千切れないとはいえただの縄なので、金貨1枚にしかならないけど。
次に酒瓶。
迷宮産の高級酒だ。
銘柄は『竜の吐息』というやたら強い酒精を誇る酒で、ドワーフに人気の品だそうだ。
金貨5枚になるということだが、師匠にプレゼントしようと思ったので確保。
魔法の武器を打つまでお世話になるからね。
次は帯状の白い布。
正体は包帯だった。
これを巻くと、止血消毒痛み止めの効果があるとのこと。
傷自体は治らないけど、一時しのぎにはなる。
騎士団や施療院で需要があるらしく、金貨1枚になった。
忘れずに剥ぎ取った素材を売却する。
結構な量になったが、なかなかの金額にもなった。
正直、お金はダブついているので現金でもらっても嬉しくない。
宿に戻る。
〈クレンリネス〉で汗とホコリを落として、ミアラッハのステータスを確認することに。
さあ成長しているかな?
《名前 ミアラッハ・ブライナー
種族 人間 年齢 16 性別 女
クラス ランサー レベル 21
スキル 【レクタリス地方語】【算術】【礼儀作法】【宮廷語】
【槍技】【槍術】【回避】【闘気法】【縮地】【空歩】【製菓】
【魔槍召喚】【?】》
「ミアラッハ、ランサーがレベル20になってるよ。新しくスキルが増えるね」
「本当? どれどれ」
「ここ。これを意識すればスキルが増えるはず」
「よおし、新しいスキル来い!!」
【?】がグルグルと回転を始める。
ミアラッハの新しいスキルは?
【魔法斬り】だ。
その名の通り、魔法を武器で斬ることのできる防御スキルである。
「やった! これで魔法を防御できる!」
「うわー……ミアラッハが前衛として強化されたなあ」
大当たりである。
この流れで私のステータスも確認しておく。
《名前 クライニア・イスエンド
種族 人間 年齢 15 性別 女
クラス セージ レベル 17
スキル 【日本語】【レクタリス地方語】【算術】【礼儀作法】【宮廷語】
【全属性魔法】【闘気法】【錬金術】【魔法付与】【鍛冶】【剣技】
【剣術】【槍技】【槍術】【魔力制御】【魔法範囲拡大】【素手格闘】
【気配察知】【罠感知】【罠設置】【鎧貫き】【魔力自動回復】
【同時発動】【消費魔力軽減】【魔法武器化】【怪力】【俊足】
【創世神信仰】【経験値20倍】【熟練度20倍】【転職】》
惜しい。
さすが上級クラス、一度の迷宮探索ではレベル20にならないらしい。
まあ今日はここからスキル結晶を使ってスキルを習得するんだけどね。
ミアラッハとともにスキル結晶を使用する。
結果は?
《名前 ミアラッハ・ブライナー
種族 人間 年齢 16 性別 女
クラス ランサー レベル 21
スキル 【レクタリス地方語】【算術】【礼儀作法】【宮廷語】
【槍技】【槍術】【回避】【馬術】【闘気法】【縮地】【空歩】
【魔法斬り】【製菓】【魔槍召喚】》
《名前 クライニア・イスエンド
種族 人間 年齢 15 性別 女
クラス セージ レベル 17
スキル 【日本語】【レクタリス地方語】【算術】【礼儀作法】【宮廷語】
【全属性魔法】【闘気法】【錬金術】【魔法付与】【鍛冶】【剣技】
【剣術】【槍技】【槍術】【魔力制御】【魔法範囲拡大】【素手格闘】
【関節技】【気配察知】【罠感知】【罠設置】【鎧貫き】
【魔力自動回復】【同時発動】【消費魔力軽減】【魔法武器化】
【怪力】【俊足】【創世神信仰】【経験値20倍】【熟練度20倍】
【転職】》
ミアラッハが【馬術】、私が【関節技】だ。
ミアラッハは騎乗しながら槍を振るえるようになったので、これは好相性だ。
私の方も素手格闘もあるため、関節技は美味しい。
なおスキルは並び替えた。
ミアラッハはこのままランサーをレベル50まで育てるらしい。
レベル40で新しいスキル、レベル50で上級クラスが解放されるからだ。
道のりは長そうだけど、頑張れミアラッハ。