サイコロふったら死んじゃう病
ある男が呪いをかけられた。
サイコロを振ったら死んでしまうという。
別に困らないだろうと思っていると、ある問題に直面した。
「お題はサイコロ……だと」
男は編集者から言い渡されたお題を聞いて固まる。
「ええ、サイコロについて小説を一つ書いてください。
内容は何でもいいです」
「なっ……なんでサイコロなんだ⁉
他にもいろいろあるだろう!」
「他のお題は既に別の作家さんが書かれているので、
これしか残ってないんですよ」
「うそ……だろ」
あまりに絶望的な条件を付きつけられるが、仕事を断るわけにはいかない。
男はしぶしぶ依頼を受けることにした。
しかし……弱ったな。
男は悩みながら次のような小説を書いた。
『サイコロを飲み込んで死んじゃいました』
アホみたいな内容だったが作品にはなった。
これをサーバーにアップロードして……。
……ぐっ!
突然、胸に違和感を覚えた男。
本能的に命の危険を察知した彼は、すぐさまデータを削除。
途端に苦しさが消えて行く。
――なるほど。
つまりはこういうことか。
サイコロを飲み込んで胃の中で転がってしまった。
そう言う解釈ができるから、このネタはアウト。
やれやれ、これは難題だぞ。
少しでもサイコロが転がったらダメらしい。
男は考えを巡らせて、新しい作品のプロットを組んだ。
次の作品はこれだ。
『サイコロを振ったら死刑になる国』
うむ、これならば……ぐっ!
どうしてダメなの⁉
禁止したところで、この世界の誰かがサイコロをふってしまう。
だからアウト……と言うことか?
これでは何を書いてもダメではないか。
というか、どうして今まで大丈夫だったのだろうか。
何百という作品を書き上げて来たというのに……。
はっ、そうか!
俺は今までサイコロの存在しない世界の物語を書いて来た。
だから大丈夫だったんだ。
そうと分かれば話は早い。
俺が書くべき小説は……。
『サイコロの存在しない世界』
……だ!
これなら大丈夫だろう!
俺は書き上げた小説のデータをサーバーにアップロード。
特になんともなかったので、このネタなら大丈夫だと確信。
ふぅ……ヤバイ仕事だったけど、何とか乗り切ったぜ。
男は額に着いた汗をぬぐって、深く息を吐いた。
「あの……大賞どれにします?」
編集者が言う。
「ううん、それなりに完成度高いけど、
どれも似たり寄ったりだな。
会議で決めるのも面倒だし……」
「あっ、いいこと思いつきました!」
若手の編集者が手を上げる。
「サイコロで決めましょう!」