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抱き締められていた腕が解ける感覚があり、振り返ると
“ダンッ”
と音と同時に百瀬くんが押さえ付けられていた。
「えっ………」
一瞬の出来事で驚きしかない。
のほほんとほんわかした雰囲気のマスターでは無くなってしまった。
案外武闘派だったのかとしみじみ思ってしまった。
「一沙さんに手出しする様なら容赦しませんよ?」
そう言って笑顔を向けているマスターにも驚きつつ、少し怖いと思ってしまうのが隠せない。
押さえ付けられた百瀬くんはいつの間にか気絶していた。
ボーッと見つめていると、自転車のブレーキが聞こえた。
「先程、女性の叫び声が聞こえたと通報がありましたが!大丈夫ですか!?」
お巡りさんが来たのだ。
誰かが私の叫び声に反応してくれて呼んでくれた様だった。
声をかけてくれつつもこの状況に驚いていた。
事情を説明し、被害届は出さないと言うことで話をした。
百瀬くんのことは香に連絡し、香と香の彼氏が迎えにきてくれてとりあえず、職場の仮眠室で寝かせておくことにしたそうだ。
警察に話したり、香に連絡したりする間ずっとマスターが付き添ってくれていた。
警察も香たちも居なくなり、ホッとしたのか足の力が抜けてしまった。
「一沙さん!大丈夫ですか?」
慌てて支えてくれるマスターに感謝しつつ、疑問をぶつけてみた。
「なんでここに来たんですか?」
「あぁ、一沙さん昨日も疲れてたみたいだったし、夜来るって言ってたけど、来る途中に体調悪くなってないかなって思って、お客さんも居なかったし、心配で買い出し中の札下げて出てきたんだよ。でも、こんなことになってるとかも思わなかったから、びっくりしたよ。」
そう言いながら私の頬に手を当ててくれる。
酔ってもないのに顔が赤く、熱くなっていくのがわかる。
「もっと早く出てたら良かった。怖い思いさせちゃったけど、無事に見つけられて良かった。」
笑顔を向けられるとどんどん胸の鼓動が速くなる。
「マスターこそ、来てくれて、心配してくれて、守ってくれてありがとうございました。」
泣きそうになりながらやっとの思いで伝えた。
歩きながら、百瀬くんが職場の後輩であること、今日の飲み会で妙に絡んできていたことを話した。
「マスターって案外武闘派なんですね…倒した時びっくりしました。」
「あぁ。実は、学生の頃合気道してたんですよ。だから勝手に体が動いちゃうんです。でも、守れてよかった。」
そう言いながら笑顔を向けてくれるマスターはとても素敵だった。
お店に着くと、朝日奈くんが居た。
「マスター!どこ行ってたんですか?せっかく来たのに…」
手を振っている彼を見る主人に忠実な柴犬の様に見えてしまう時がある。
「一沙さんを迎えにね。女の子の一人歩きは許せないので。」
これを言っているマスターは信念なのだろうと思ってしまうほどだ。
それから私はお酒を飲む気にはなれず、ソフトドリンクで過ごしたのだった。
本当はコーヒーが飲みたかったのだが、飲酒後に飲んで悪酔いして二日酔いになったことがあり、諦めたのだった。




