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マスターは50歳って言ってたし、確かにイケオジの部類だろう…
なんて雑誌を読みながら悶々としていると…
「一沙さん?」
“ガタッ”
目の前にいたマスターに驚いてしまった…
しかも、イケオジページ見ている時に…
「マスター、どうされました?」
「ごめんね。雑誌に夢中の時に…驚いたよね?コーヒーのおかわりあるかと思って聞きに来たんだけど…」
「いえ、私も夢中になってたので驚きすぎちゃいました。おかわりですよね?お願いします。」
そう言ってカップを少しずらしたその時…
マスターと手が触れてしまったのだった。
どきりとしてしまい、脈が速くなる感覚だった。顔が赤くなりそうだったため、平常心を保ちつつ、雑誌に目を落とすように俯いた。
「一沙さん、お仕事はどうですか?」
マスターから仕事の事を聞かれると思ってなかったので、驚いてしまった。
「仕事ですか?んー…そうですねー。楽しいんですけど、時々体がキツくなったりもするし、人間関係が億劫になることがありますかねー。それでも、たまに面倒になる人も、利用者さんはみんな可愛いし、やりがいはありますよ。マスターは?どんなお仕事されてたんですか?」
「仕事のお話ししている一沙さんは笑顔ですね。僕が社会人の時は案外辛くて辛くて…今で言うパワハラ多かったからねー。まぁ、企業のサラリーマンってそんな感じなんだろうなって諦めちゃいましたからね。しばらく我慢して仕事して、やっと脱サラして現在に至ります。」
マスターはサラリーマンの時のことを話す時に顔が陰っていたけれど、cafeの事になると笑顔になるんだなって思ってしまった。
マスターと話していると、また視線を感じた。
振り返るのが怖くて振り返れないが、その場をなんとかしようとマスターと話し続けたのだった。
“カランカラン”
「マスター、こんにちはー。」
「みちるちゃんいらっしゃい。テーブル空いてるよ。」
入ってきたのは可愛らしい女の子。
清楚なワンピースがよく似合っていた。
「マスター、ティーセットお願いします。」
そう言ってテーブルに向かって行った。
「おや、みちるちゃん。今日はじーさんは来んのか?」
「朝日奈のおじーちゃん、修平くん。こんにちは。今日は後から来るみたいですよ。」
あの人たちは家族絡みの付き合いなのだろう。
そう思いながらまた雑誌に目を落とすとまた携帯が鳴った。
今度は姉からだった。
「マスター、ちょっと外で電話してきます。」
「いってらしゃい」
そのまま外に出て電話に出た。
「もしもし?ねーちゃんどうしたの?」
『どうしたもこうしたもないわよ!』
なんと電話口にいたのは母だった。
『あんた、まだ結婚しないの?もう三十なんて、いい歳なんだから結婚しなさいよ!彼氏はいないの?』
始まった。母特有の面倒臭い事極まりないこのセリフ。
実家に帰りたくない理由はこれだ。
昨今の晩婚事情を把握してないからこんなことが言えるのだ。
とりあえず、うるさいからどうにかするしかない。
『ちょっと!きいてるのー?』
「聞いてるから。彼氏いるしまだそんな段階じゃないから。会わせる気もないので。今出先だから切るよ。」
切ろうとした時だった。
『この前、急にあの人来たから、もう関係ないですよねって言ってあるけど、身の回り気を付けなさいよ。あのタイプは執着凄そうだからね。』
「わかった。ありがと。じゃぁね。」
電話を切るとため息が出てしまったのだった。
あの人とは、私の元彼で、裏切った人。
あの人のおかげで今の地位があると思うとなんか腑に落ちないのだが…何事もないと良いと思った。
店内に戻ると、先程のみちると言う子は読書中、後はお祖父さんと話している朝日奈くんだけだった。
ため息を吐きつつカウンターに戻ると、ケーキと新しくコーヒーが置かれていた。
「お話し大丈夫でしたか?」
「はい。あの、これは…?」
「それはサービスです。と言うか、新作なんで、味見してみてください。」
そう言って奥の方へ戻って行った。