猫の坊さん
飼い犬が亡くなった時、どこで火葬してもらうかという問題が持ち上がる。
1代目の犬が亡くなった時に夫が探し出した火葬業者は、郊外の、キャンプ場にでもなりそうな、なかなかワイルドな場所にあった。
ペットも家族の一員という昨今、人間顔負けのセレモニーホールや納骨堂もある施設も少なくない中で、そこは全ての無駄を削ぎ落としていた。
まあ要するに、倉庫らしき建物の中に火葬設備と仏壇がひとつあるだけの場所だった。出迎えから火葬まで、女性オーナーさんが一人でやってくれる。
犬、猫は仏教徒なのか――ぼんやりそう思いながら線香をあげた。
そういえば仏教説話には動物がよく出てくる。輪廻転生の考えからすれば、仏教が一番ふさわしいのかもしれない。お釈迦様はどんな命も等しく憐れんで下さるだろう。
それなら、さっき私の足をかすめるように入って来て、見守るように静かに座っているあの猫は、僧侶に違いない。
猫の坊さんに送られて、我が家の犬は白い煙に乗って虹の橋のたもとへと旅立って行った。
2代目の犬の時も、同じ火葬場にお願いした。
相変わらず虚飾を取り払った施設のままで、むしろ清々しい。
その日もやはり猫の坊さんがいて、静かに見守ってくれていた。
帰り際、ふらりと別の猫がやって来た。
「この子もここの猫ですか?」
「ううん。どこかから時々来るの。野良じゃなくて飼い猫だと思うんだけど」
そうか。あちらは和尚で、この猫は托鉢僧か。
お坊様、どうかうちの子のために祈って下さい。
「うちの猫じゃないけど名前はつけてるの」
火葬場のオーナーさんはそう言った。
「リョータっていうのよ」
猫の托鉢僧は、意外と世俗的な名前を持っていた。