追憶と気づき
俺は確か会社から帰っている途中だったはずだ。
記憶が曖昧かつかなり断片的で、自分がどこで何をして働いていたのかは思い出せない。
ただ雨の中、歩いて帰宅していたことは覚えている。
疲れていた俺は帰宅途中、橋の上で服が濡れることも気にせず欄干に身を預け煙草を吸っていた。
凝り固まった身体をほぐそうと伸びをした時、目の前が閃光で真っ白になった。
恐らくは、雷にでも打たれたのだろう。
その衝撃で欄干を超えてしまい、俺は増水した川の中に落ちた。
そして何の因果か、この泥沼に流れ着いてしまったわけだ。
「なんなんだよ一体…」
泥まみれの手で顔を抑えながら愚痴をこぼす。
そもそもあんな小川からこんなところに流れ着くわけもないし、そもそもここが日本かどうかも分からない。
半ばパニックになりながらも思考を巡らせてみたが、結局まともな結論は出ず、まずは生存の為にどうにかして陸地へたどり着くのが先決だと思い、一旦、この大沼の謎からは逃げることにした。
「あれ?」
移動しようとした俺は大きな違和感に気づく。
「足…あれ?足は…?」
今までそれ以外のことに夢中になっていて気が付かなかったが、今自分の身体が泥上に露出しているのは腰から上で、腰から下の感覚が無い。
埋まってしまっているのかとも考えたが先ほど周りの確認をする時に普通に旋回できていたのでそれもない。
両手を泥の中に突っ込み、泥の中の太ももがあるはずの位置を探るが泥の中には何も無かった。
何かがおかしい
とてつもない違和感を感じる。
そもそもこの両手だって変だ、泥まみれとは言ったが泥の下の肌の質感を全く感じない…まるで泥を固めて人の体を無理やり形成しているような…
片方の手でもう片方の手首を掴み思い切り握る。
ボト…
たやすく握りつぶされた手首は、もう手を繋ぎ止めて置くことは出来ず、水の中に落ちた手は溶けるように消えた。
「え?俺の…手?手が…手…てが?」
手首から先の消失、かなりすり減らされていた正気は容易く打ち砕かれ、俺はパニックとすら呼べない、まるで半狂乱のような状態に陥ってしまった。
「なんなんだよこれ…なんなんだ…なんなんだよこれェ!!!!」
スキル 鑑定が発動しました。