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エルとシャツとわたし(3巻イラストあり)

学生時代のふたりのお話です。


そしてそしてなんと!!本作の完全書き下ろしの書籍3巻とコミックス1巻が今月7日に発売です!!!

エルのデレもMAXで、ハッピーエンドの完結巻になります。イラストなど詳しいお話はあとがきにて( ; ᴗ ; )‬



「くしゅんっ! うう……」


 本日何度目か分からないくしゃみをすると、わたしは毛布にくるまって小さくなった。


 休みの日、朝から借りてきた洗濯用の魔道具で服をまとめて洗っていたわたしは、うっかり着ていた服まで汚してしまったのだ。


 洗濯を一度始めてしまうと、乾くまで数時間は取り出せない。結局、全ての服を同時に洗うことになってしまい、下着姿の上に毛布にくるまっている。


 所持している服の少なさと、間抜けさに泣きたくなる。そうして、洗い終わるのを待っていた時だった。


「お前、虫みたいなかっこして何してんの」

「エ、エル!」


 ふと声がして顔を上げると、窓からエルが入ってきたところで、エルはわたしの姿を見て眉を顰める。


 わたしの隣にどかりと腰を下ろしたエルに、照れながらも事情を話せば、思い切り鼻で笑われてしまう。


「バッカじゃねーの、お前」

「……だ、だって」

「間抜けすぎんだろ」


 散々バカにされてしまい、更に小さく身体を丸めているとエルは大きな溜め息を吐き、立ち上がった。


「少し待ってろ」

「えっ?」


 エルはそれだけ言い、窓から出ていく。そして数分後、戻ってきたエルの手にはシャツとズボンがあった。


「ほら」

「えっ?」


 それらを差し出されたわたしは、戸惑ってしまう。


「いらねーならいいけど」

「えっ? あっ、か、借りていいの?」

「ん」

「あ、ありがとう! エル、優しいね!」

「べつに」


 なんとエルはわたしのために、自身の服を貸してくれるらしい。驚きながらも嬉しくて慌てて手を伸ばしたところ、毛布が思い切りばさりと滑り落ち、「きゃあ」と慌てて身体に巻きつける。


「み、見た……?」

「はっ、お前の身体なんざ見ても何も思わねえよ」

「も、もう! あっち向いててね!」

「当たり前だろ」


 わたしはエルがそっぽを向いたのを確認すると、慌てて服に袖を通す。


 シャツもズボンも大きくて、ぶかぶかで。いつの間にかエルとこんなにも体格差ができたのだと思うと、なんだか急にエルが男の人みたいに感じて、落ち着かない気持ちになった。


 着替え終わるのと同時に、全身がいい香りに包まれていることに気が付く。


「エル、すっごくいい匂いするね!」

「……は?」

「わたし、エルの匂いすっごく好きなんだ」


 そう言って袖に顔を近づけると「やめろバカ」と、すごい勢いで止められてしまう。


 珍しくその顔は、少しだけ赤い。もしかすると、照れているのだろうか。


「ほんとお前、やだ。もう着んな」

「えっ? 折角だし、明日まで着てたいなって」

「バカ言うな、脱げ」


 そうしてエルに、シャツを引っ張られた時だった。


「おや、エルヴィス。女性を襲うとは感心しませんね」

「は」

「えっ?」


 突然の声に顔を上げると、何とソファにユーインさんの姿があって、心臓が止まりそうなくらいに驚いてしまう。一体、いつの間に。


 この状況だけ見れば、エルは「脱げ」と言って服を引っ張っているのだから、誤解しかされなそうだ。


「あのな、俺がこんなクソガキに──」

「はいはい、わかっていますよ。大好きですもんね」

「死ね」


 くすくすと笑うユーインさんに、エルは「早く出ていけ」なんて言って、無理やり追い出そうとしている。


 ユーインさんはエルに渡すものがあったようで、紙の束を渡すと「お邪魔しました」と言って、あっという間に転移魔法で帰っていった。


「ほんっと最悪」

「エル、なんだかごめんね。でも、大好きなエルの洋服を着てるの、すっごく嬉しい! 毎日着たいくらい」

「……あっそ。変なやつ」


 エルはそれだけ言うと、再び隣に腰を下ろす。そんなエルに抱きつくと、より幸せな気持ちになる。


「あっ今度、わたしの大きい服、着てみる?」

「着るわけねーだろ」


 それから数時間後、無事に洗濯が終わっても着替えずにいたけれど、エルは何も言わずにいてくれて。結局わたしはエルのぶかぶかの服を着たまま、エルとともに幸せな休日を過ごしたのだった。



皆さまの応援のお蔭で、本作の3巻を刊行していただくことになりました!WEBのラストを変更し、完全書き下ろしになっております〜〜!!!!!


挿絵(By みてみん)


見てくださいこのハッピーな表紙を……( ; ᴗ ; )‬


【あらすじ】

大魔法使いであるエルが、世界を滅ぼす厄災を封印してから三か月。ジゼルは神殿で働きながら、エルや仲間達と幸せな日々を送っていた。しかしエルの体は厄災の影響で穢れに侵されており、治療のために姿を変え、魔力を封印することに。そんなある夜。 「君を迎えに来たんだ。僕の花嫁になってもらう」ジゼルはエルと共に、グローヴァー王国の第一王子ジークベルトに攫われてしまう。そこで明らかになるジゼルの特別な力と、本当の家族。そして、母の祖国であるこの国が存亡の危機に瀕していると知り――二人の過去と未来を繋ぐ、愛にあふれた感動の完結巻!


ふたりが最後の困難を乗り越えるお話、そしてハッピーエンドな結婚式、初夜、子供が産まれた未来まで、大判書籍1冊分まるごと書きました!!


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


美しい素晴らしい口絵、挿絵も……!( ; ᴗ ; )‬ WEB版では出てこなかった神殿組の最後の一人も出てきます♪


ぜひぜひ読んでいただき、エルとジゼルを最後まで見守っていただけると嬉しいです……( ; ᴗ ; )‬


そして同じく6月7日にはコミックス一巻も発売です!

ほんっとうに素晴らしくて可愛くてかっこよくて、最高の形で家逃げの世界を描いてくださっています……!!

本当に本当に神です。


挿絵(By みてみん)


ぜひ二冊合わせてお迎えしていただきたいです!!

よろしくお願いします……( ; ᴗ ; )‬!!!



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― 新着の感想 ―
[良い点] 彼シャツ…!良い!素敵!
[一言] 絶対買います!
[良い点] 尊い とにかく作品が尊い 番外編あると思ってなくて泣いちゃうくらい最高 エルの匂い…気になる~! ジゼル、ホントにかわいい\(^-^)/ [一言] クラレンスは本編でジゼルに気があった素…
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