表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/88

輝いて見えたのは、きっと 1



 ある日の放課後、わたしはエルとリネと共に、屋外練習場の使用許可を貰い火魔法の練習をしていた。


 学園祭が終わり、放課後に空き時間ができた今後は、こうして練習に励むつもりでいる。エルも文句を言いながら、なんだかんだ付き合ってくれるから好きだ。

 

 その上、リネの水魔法についても指導してくれていて、エルは本当に大人になったなと内心いたく感動していた。とは言え、血まみれだった光魔法の初練習がトラウマすぎて、彼の指導方法に関しては油断できないけれど。


「う、うーん……」


 そんな中、ぽわんとわたしの手のひらから出た火は、的に当たる前に消えてしまった。そんなわたしを見て、近くのベンチに腰掛けていたエルは深い溜め息をついた。


「お前、ふざけてんの?」

「いえ……そう言うわけでは……」

「お前の魔力量でそれはねえだろ」

「す、すみません」


 やる気満々で練習に臨んだものの、思っていた以上に火が怖かったのだ。思い返せば、子供の頃から火は得意ではなかったように思う。その結果、万が一失敗したらどうしようと悪い方に考えてしまい、腰が引けて全力を出せないでいた。


「本当にごめんね、何かあったらと思うと怖くて」

「あのな、お前がミスした時のために俺がいるんだろ」

「そうですよジゼル、私もいますから!」


 氷魔法が得意なエルと、水魔法使いのリネ。そんな二人の心強い言葉にわたしは頷くと、両頬を叩き気合を入れた。いい加減、しっかりしなくては。


 ちなみにこの練習場の的は大きな魔獣の形になっていて、壊しても魔法で自動で修復されるようになっている。仕組みはわからないけれど、とにかくすごいのだ。


「いいから、さっさと思い切りやってみろ」

「……わかった」


 二人がいれば、絶対に大丈夫。それに、魔法を使う感覚は光魔法で既にマスターしている。あとは勇気を出すだけ。


 小さく深呼吸をすると、わたしは両手を的へと向ける。そして思い切り、魔法を発動した瞬間。


 的があったはずの場所に、空高く火柱が上がった。


「…………?」


 それと同時に、耳をつんざくような警報音が鳴り響いた。すぐに二人が魔法で火を消そうとしてくれたけれど、その勢いは衰えることはなく、轟轟と燃え続けている。


 色々な意味で、汗が止まらない。


「あー、今の俺の魔力じゃ無理だわ」

「えっ」

「お前、ほんとどうなってんの」


 早々に自身の魔法による消火作業を諦めたらしいエルは、おかしそうに笑っている。リネも「すみません、無理です」と言って泣き出しそうな表情を浮かべていた。


 ……結局、駆けつけた先生方によってなんとか鎮火され、その後事情を説明した結果、翌日から特別授業として先生方から火魔法の扱いを一から教わることになったのだった。




◇◇◇




「お前、神殿で働きたいとか思わねえの」

「えっ?」


 リネと別れ、わたしの部屋でいつものように隣に座っていたエルは、突然そんなことを言い出した。


「そもそも、すごい人しか働けないんじゃ……」

「お前ならいけると思う。光魔法は特に重宝されるし」


 神殿に勤めることは、魔法使いとしては一番の栄誉ある仕事だと聞いている。お給金だってかなり良いと聞くけれど。


「でも王都で働いていたら、ハートフィールド伯爵家に見つかっちゃうだろうし……」


 卒業後、あの侯爵と結婚せずに逃げ出すためにも、王都から離れた場所で仕事を見つけなければと思っていたのだ。


 すると、エルは「は?」と眉を顰めた。


「お前、まだそんなこと気にしてたのかよ」

「えっ?」

「俺がお前を、黙ってあんなやつに嫁がせるとでも思ってんのか、って聞いてんだけど」

「ええと……?」


 何故か苛立っている様子の、エルの言葉の意味がさっぱりわからず、わたしは戸惑ってしまう。


「だって、逃げないと」

「ババアの呪いさえ解ければ、俺はすごいんだ」

「うん……?」


「この国じゃ、俺が望んで手に入らない物の方が少ない」


 エルはそう言い切ると、わたしの額にこつんと自身の額をあてた。鼻先が触れ合いそうなその距離に、心臓が跳ねる。


「とにかく、俺がお前を貰うって一言言えば、あんな奴らのことなんて気にしなくて済むんだよ」


 よく分からないけれど、エルがすべて何とかしてくれるという話らしい。手に入らない物の方が少ないというのは、流石に大袈裟ではと思ってしまったけれど、その気持ちは何よりも嬉しかった。


 それにしても、さらりと言われたものの「お前を貰う」なんて、すごい言葉だと思う。


 エルにとって深い意味はなかったとしても、そんな言葉やこの近すぎる距離のせいで、心臓の音が漏れてしまうのではないかというくらい、わたしはときめいてしまっていた。


 この甘い雰囲気が落ちつかず、空気を変えるために何か冗談のひとつでも言おうとしたのに。


「な、なんだか、プロポーズみたいだね」

「そのつもりだけど?」


 そんな言葉が返ってきて、心臓が、止まった。



あけましておめでとうございます!今年も更新頑張りますので、最後までお付き合い頂けると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 最高
[一言] 萌え死にって本当にあるんですね。 胸がぎゅーんとなって死ぬ。 いやぁ、本当たまらないです。
[良い点] とにかく、俺がお前を貰うって一言言えば、あんな奴らのことなんて気にしなくて済むんだよ [一言] すっごくときめきました! 新年からありがとうございます!
2021/01/04 23:00 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ