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家から逃げ出したい私が、うっかり憧れの大魔法使い様を買ってしまったら  作者: 琴子
第三章

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すべての初めてを君と 4



「お前のこと、買い被り過ぎてたんだな」

「っすみま、せん……」

「エルヴィス、どうかその程度で許してあげてください」

「は? お前もお前で、大した力もねえ奴らのクソみたいな作戦を容認した責任を取れよ」

「……すみません」


 一体なんだろう、この雰囲気は。まるで上司に叱られる部下達、という感じだ。


 ……もしかしてエルは、わたしが怪我をしたことでこんなにも怒っているのだろうか。頬の怪我についてはクラレンスが悪いわけではない。わたしが勝手にやった事だ。


 エルの足は未だにクラレンスのお腹の上にあり、苦しそうで。わたしはそんなエルの足をぎゅっと掴んだ。


「エル、ごめんね。わたしが勝手に怪我をしただけで、クラレンスは悪くないの。本当にごめんなさい」

「……はっ」


 エルは何故かそんなわたしを鼻で笑うと、ひどく苛立ったような表情を浮かべたまま、クラレンスから足を避けた。


 そしてわたしに背を向けると、エルはユーインさんの名を呼んだ。それだけで言いたいことを理解したらしく、ユーインさんは「分かりました」と頷いた。その表情は、暗い。


「ジゼルさんとクラレンスも私に触れて下さい。既にこのアジト内は制圧済みですので、ここにいる方々も順次解放されます。私の魔法で、一足先に戻りましょう」


 クラレンスも、ひどく気まずそうな表情を浮かべたまま立ち上がると、ユーインさんの肩に手を置いた。わたしも慌てて、ユーインさんの腕に触れる。


 次の瞬間には覚えのある浮遊感に襲われ、気が付けば学園内の寮のエルの部屋に、わたし達は立っていたのだった。




◇◇◇




 エルの部屋へと戻ってきたものの、ユーインさんは今にも死にそうな顔をしていた。そういや以前、数人まとめての長距離の転移魔法は疲れる、と言っていたことを思い出す。


 わたし達がどこに捕らえられていたのかは分からないけれど、四人一気に移動したのだ。かなり身体に負担がかかっていたに違いない。心配になり声をかければ「大丈夫です」とひどい顔色のまま、微笑まれてしまった。


 そんな彼とクラレンスは、わたしに対して再び丁寧に謝罪をしてくれて。こちらに背中を向けてソファに座っているエルにも、謝罪と感謝を述べていた。そして後日、改めて謝罪と礼をすると言い、部屋を後にした。


 そうしてエルと二人きりになったものの、室内には気まずい雰囲気が漂っている。間違いなくエルはまだ怒っていた。


「エル、ごめんね」

「…………」


 もちろん、返事はない。きっと、かなりの心配をしてくれた筈だ。だからこそエル自身が助けに来てくれたのだろう。


 それと同時に、一番大切なことを伝えていないことに気が付き、わたしは背を向けたままの彼のすぐ隣に腰掛けた。


「エル、助けに来てくれてありがとう。本当に嬉しかった」


 けれどやっぱり、彼は何も言ってはくれない。出て行った方がいいだろうかと、悩んでいた時だった。


「……むかつく」

「えっ?」


「あいつに引っ付いて名前まで呼んで、あのまま居た方が良かったんじゃねえの」


 そんなことを、エルは言ってのけた。


 クラレンスに引っ付いて、というのは彼と上着を一緒にかける為に、隣にいたことを言っているのだろう。名前呼びだってメガネが奪われ、メガネくんじゃなくなったからだ。


 そんなことがむかつくなんて、理由はひとつしかない。


「もしかして、やきもち……?」

「んな訳ねえだろ、バカじゃねえの。アホ、タコ」


 エルは否定したけれど、絶対にそうだ。彼が心配をしてくれている間、わたしが呑気にクラレンスと仲良くしていたと思い、拗ねているに違いない。


 そう思うとやっぱり嬉しくて、愛しくて。


「わたしはエルが一番大好きで、大切だよ。助けに来てくれた時、かっこよかった。本当にありがとう」


 飛びつくように彼の背中に抱きつけば「暑苦しい」「バカ」「ほんとむかつく」という三連発をいただいた。


 けれど今日も、振り払われることはない。愛しさが抑えきれず再び「大好き!」と言えば「しつこい」と返された。


 しばらく抱きついていた後、流石に暑くなってきたわたしは彼から離れる。するとエルは振り返り、まだ少しだけ痛むわたしの頬へと視線を向けた。


「……それ、痛かったか」

「ちょっと痛かったけど、大丈夫だよ」

「どんな奴にやられた?」

「ええと、見張りをしていた赤髪の若い人かな」

「分かった」


 素直に答えてしまったものの、そんなことを聞いてどうするのだろう。不思議に思っていたわたしに、彼は続けた。


「あと、もうこういうのやめろ」

「こういうの?」

「察しろ、クソバカ」


 こういうの、の意味がわからずにいると、エルは再び苛立ったような様子を見せた後、口を開いた。


「だから、お前が近くにいないと落ち着かないんだよ」

「…………え、」


 エルの突然のそんな言葉に驚いたわたしの口からは、間の抜けた声が漏れ、固まってしまう。


 彼にそんなことを言われたのは、初めてで。ずっと、わたしの気持ちばかりが大きいのだと思っていた。だからこそ、迷惑ではないかと不安に思うこともあった。


 嬉しさと安心したような気持ちでいっぱいになり、視界が揺れる。それを隠すように、再び彼の胸の中に飛び込んだ。


「っずっとずっと、一緒にいる」

「……あっそ」

「エル、大好き」

「知ってる」


 そしてエルは、ぐすぐすと泣き出したわたしの頭に自身の顎を乗せると「心配かけんな、バカ」と呟いた。



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― 新着の感想 ―
[一言] ずっともだもだ悶えながら読んでいましたが、エルがじんわーりデレていく様がたまらなくギュンです…。 うぅぅぅ好きぃ…。
[良い点] ん"ん"ん"ん"ん"ん"ん"ん"ん"ん"ん"ぅ! 萌えの花がぁあぁあぁぁ!
[一言] 最近暴力系ツンデレばっか見ていて正統派ツンデレを見て充足感があるけど... 男なんだよなぁ...新しい扉開きそう
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