表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/88

ふたりだけの 3



「ルビーと会えて、本当に嬉しい!」

「私もです。お嬢様がお元気そうで何より」

「ありがとう、話したいことも沢山あるんだよ」

「はい。楽しみです」


 リネの家に遊びに行くまで、一週間を切った今日。お泊り用の物を買いに、わたしはルビーと共に王都の街中に来ている。ちなみにエルも誘ったけれど、面倒だと断られた。


 伯爵家に寄り付いていなかったわたしは、こうしてルビーに会うのは数ヶ月ぶりだ。彼女は休みを使って買い物に付き合ってくれていて、本当に嬉しい。


 必要な物を買い揃え、カフェでゆっくりお茶でもしようかと話しながら歩いていると、不意に通りがかったアンティークショップの中に並ぶ、古い本が目に入った。


 魔法に関する本ならば、毎日わたし以上にだらけているエルに、いいお土産になるかもしれない。そう思ったわたしはルビーに少しだけ見たいとお願いして、店内へと入る。


 そうして、気になった本に手を伸ばした時だった。


「あっ」

「あ」


 ちょうど反対側からも同時に手が伸びてきていて、ぶつかってしまう。すみません、と謝り顔を上げればそこには、若葉色の髪をした格好いいお兄さんがいた。わたしよりも10以上は歳上に見える。


 それにしても最近は美男美女ばかり見るなあ、なんて思いつつ、伸ばした手を引っ込めたのだけれど。


「お前、こんなところで何をしている」

「えっ?」

「今日はエルヴィス様は一緒じゃないのか?」

「……ええと、エルのお知り合いですか?」

「あ」


 何故か突然、馴れ馴れしく話しかけられて。


 戸惑ったわたしがそう尋ねると、お兄さんはハッとしたように口元を手で覆った。その上彼は何故か、ひどく焦ったような表情を浮かべている。


「っ何でもない、誰だお前は! 間違えたんだ!」

「…………?」

「し、失礼する!」


 そうして、あっという間にお兄さんは店を飛び出していった。間違いなくエルヴィスと言っていたし、やはりエルの知り合いだろうか。彼の周りは、美男美女率が高すぎる。


 そもそも、どうしてわたしを知っているのだろう。綺麗な顔をしていたけれど変な人だったなあと思いながら、再び本へと手を伸ばしたのだった。




◇◇◇




 そして、数日後。わたしは天使達に囲まれていた。


「じぜるお姉ちゃん、だいすき!」

「ぼくも!」


 栗色の髪をした可愛らしい子供達に、前からも後ろからもぎゅうっと抱きつかれ、その上「お姉ちゃん」と呼ばれ、大好きだなんて言われているのだ。幸せすぎる。


「ここは……天国か何か……?」

「ふふ、ジゼルは子供にも好かれるんですね」


 そう、昨夜リネの家に無事到着してからというもの、彼女の双子の弟達が、わたしにとても懐いてくれているのだ。今日も朝からずっとべったりだ。


 まだ4歳の彼らはとても小さくて、柔らかくて。本当に可愛らしい。大きさは少し違うけれど、なんとなく出会った頃のエルを思い出してしまう。態度も全然違うけれど。


「ねえ、エルも一緒に遊ぼうよ」

「バカ言うな」


 もちろん一緒に来ていたエルにそう声をかけても、全くつれない。どうやら小さな子供が苦手らしい。少し離れた場所に偉そうな態度で座り、リネが用意してくれたお菓子を食べながら、こちらを見ている。


 ちなみに予定では一週間ほど、お邪魔する予定だ。彼女のご両親も優しくて素敵な方々だった。わたしにもエルにも、とても良くしてくれている。


「そう言えば、ジゼルには妹さんがいるんでしたっけ?」

「う、うん。いるよ」

「きっと素敵な方なんでしょうね……!」

「うううん……?」


 サマンサはきっと、リネの想像とはかなりかけ離れている気がする。そんな彼女も来年、魔法学園に入学してくると思うと、ひどく気が重い。


 今までのようにわたしの悪評を流し、孤立させようとする未来しか見えない。本当にやめて欲しい。


 なんだか暗い気分になってしまい、サマンサのことを頭から振り払うように、わたしはむぎゅうと双子ちゃんを抱きしめる。するとすりすりと頬擦りしてくれて、憂鬱な気分が一瞬で吹き飛んでいく気がした。


「すき!」

「か、かわいい……! わたしも好き!」


 そうして、サラサラの髪を撫でていた時だった。


「ジゼル」


 不意にエルに名前を呼ばれ、視線を向ける。彼がわたしの名前を呼ぶ時は大体、何かを頼む時だ。


「どうしたの?」

「クッキー、なくなった」

「そこに新しいのあるよ」

「開いてない」

 

 エルの手の届くすぐ先に、小袋に入ったクッキーがある。


 自分で開けた方が早いのではと思いながらも、やっぱりわたしは双子達から離れ、エルの元へ行き袋を開けてしまう。


「はい、どうぞ」

「ん」


 そしてお礼だとでも言わんばかりに、エルはクッキーをニ枚くれた。そもそも、リネが用意してくれたものだけれど。


 そんなわたし達を双子達は、大きなくりくりの瞳で、不思議そうな表情を浮かべたまま見つめている。


「じぜるお姉ちゃんは、このお兄ちゃんのこいびと?」

「ううん、違うよ」

「じゃあぼくとけっこんできる? しよう!」

「ええっ」


 まさかのプロポーズをされてしまい、あまりの可愛らしさに笑みが溢れる。リネも「まあ、いつの間にそんなことを覚えたの」と言って笑っていた、けれど。


「無理」


 ほのぼのとした雰囲気の中、エルはそう言い切った。


「どうして?」


 お兄ちゃんであるリオンくんが、悲しげにそう尋ねる。


 わたしもどうしてだろうと他人事のように思いながら、手渡されたクッキーを一枚齧り、エルを見つめた。


「もしかしてお姉ちゃん、すきなひといるの?」

「ああ」


 彼はそんな問いに、なんの躊躇いもなく頷いて。


「こいつは俺が好きなんだよ」


 そしてわたしはクッキーを思い切り、喉に詰まらせた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 4歳相手にやきもち妬くなよ(^◇^;)
[一言] おーい誰だーこの男の情操教育をしたやつはー?
[良い点] 今日も素晴らしすぎるシーンばかりで、満足感がすごいです…! 毎回キュンキュンする展開が書ける琴子先生は天才すぎますね…! 冒頭の美形はメガネ氏ですよね…!? 自分から話しかけておいて「誰…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ