ふたりだけの 1
タイトルの通りです……!!!!
「暇だね…………」
「…………まあな」
夏休み開始から一週間。二人でひたすら寮に篭っていたわたし達は、読書にも散歩にも飽き、お互いソファやベッドでダラダラと寝転がってばかりいた。
リネの家に遊びにいくのは二週間後で、まだ少し先だ。このままでは二人とも腐ってしまう。そう思ったわたしは、重たい身体を起こし、エルに話しかけた。
「ねえ、たまには街中にお出掛けしようよ」
「だるい、無理」
「お願い! 美味しいもの食べて、お買い物しよう!」
「暑い、無理」
「少しだけでいいからお願い! デートしよう!」
「は?」
デートとは一体何をするのかわからないけれど、男女で出掛ければそれはもうデートだと、リネは言っていた。
そんなわたしの誘いに、エルは呆れたような目を向けた。
「いいですね、デート。私も混ぜてください」
「えっ」
そう言ったのは、なんとユーインさんだった。
いつの間にか、当たり前のように近くの椅子に座っていた彼に、心臓がばくばくと跳ねる。ユーインさんはわたし一人の時には窓をノックしてくれるけれど、エルがいる時には普通に入ってくることがわかった。微妙な気遣いだ。
「エルヴィス、女性からのデートの誘いを断るなんていけませんよ。早く行くと返事をして、支度をしないと」
「こいつ、デートの意味も分かってねえだろ」
「貴方は分かっているんですか?」
「…………」
どうやらエルも、いまいち分かっていないらしい。詳しくても置いていかれたような気分になるので、少し安心した。
「そもそも、お前は何しに来たんだよ」
「今日、近くの街で祭りがあるんですよ。今日は私も休みなので、お二人を誘いに来たんです」
「へえ。お前、友達いないもんな」
「エルヴィスにそれを言われるとは、私も終わりですね」
どうやら二人とも、友人が少ないらしい。「とにかく」とユーインさんは両手を叩いた。
「エルヴィスは私が支度させますから、ジゼルさんも準備なさってください。デート用の服はありますか?」
「デ、デート用の服……」
「無ければこれをどうぞ」
そうして今日も、ユーインさんはどこからか可愛らしいドレスと靴を出し、手渡してくれた。遠慮したものの、いいですからと押し付けると、彼はエルを連れて消えてしまう。
戸惑ってしまったものの、素敵な服を着て三人でお祭りデートなんて、とても楽しそうだ。ワクワクしてしまう。
「そうだ、アナベラちゃんがまだ寮にいたはず!」
わたしは慌ててユーインさんに渡されたドレスに着替えると、お気に入りのリボンを持ち隣の部屋を訪ねたのだった。
◇◇◇
「わあ、エル!! かっこいい!!」
小一時間程して、エルとユーインさんが部屋へと戻ってきた。エルもユーインさんが用意したらしい素敵な服に着替えており、寝癖のついていた髪も綺麗に整えられている。
わたしも可愛らしいドレスに着替え、友人に可愛いらしく髪を結ってもらっていた。軽く化粧まで施してくれて、自分でも驚くほど変わったように思う。
「エルヴィス、何か言うことがあるのでは?」
「……別に」
「すみません、ジゼルさん。貴女があまりにも美しいせいで言葉も出ないようです」
「勝手なこと言うな」
そしてユーインさんは、こちらが恥ずかしくなるほどベタ褒めてくれた。嬉しくなって彼の手を取ってお礼を言えば、エルにすかさず離されてしまったけれど。
やがてユーインさんが手配してくれた馬車に、エルと二人で乗り込む。魔法による、三人まとめて長距離の移動は流石に疲れるらしく、今回は馬車で移動するそうだ。
とても大きな馬車だったため、ユーインさんも一緒に乗らないのかと尋ねれば「ぜひ二人で」と言われてしまった。
「おい」
「なあに?」
そして馬車に揺られ、30分程が経った頃。ずっと無言だったエルに突然話しかけられた。何故かその視線はこちらではなく、窓の外へと向けられている。
「………ない」
「うん?」
「似合ってなくはない」
「…………?」
あまりにも言葉が足りなさすぎて、一瞬何のことか分からなかったけれど。やがて今日の服装について褒めてくれたのだと理解したわたしは、口元が緩んでいくのがわかった。
「嬉しい! 大好き! エルもとっても格好いいよ!」
「知ってる」
嬉しさを抑えきれず、向かいに座っていた彼の隣に移動して抱きつけば、暑苦しいと怒られてしまったのだった。
「うわあ……! すごい!」
やがて着いた先には沢山の屋台が並び、大勢の人で溢れかえっていて、ワクワクしてしまう。美味しそうなものも数えきれないくらいあって、エルも満更ではなさそうだった。
ユーインさんを乗せた馬車もすぐに到着し、三人で人混みの中を歩いていく。ユーインさんはお小遣いだと言って、わたしにもエルにもお金を渡してくれた。
「とっても美味しいね!」
「ん」
色々な食べ物を買い、食べ歩く。はじめての体験に、わたしは楽しくて仕方なくて、浮かれっぱなしだった。
エルも最初は「人が多くてイライラする」なんて言っていたけれど、途中からは何も言わなくなっていた。ユーインさんはそんなわたし達を見て、にこにこと微笑みながら、色々な説明をしてくれている。
そんな中、可愛らしい兎の形をしたパンを見つけ、エルと買ってみようかなんて話していた時だった。
「……エルヴィス?」
不意に、鈴を転がしたような、可愛らしい声がエルの名前を呼んだ。
思わず足を止めて振り返るとそこには、桃色の髪をした美女が、ひどく驚いた表情をしてこちらを見ていて。
隣にいたエルからは「……最悪」という言葉が漏れた。
「っ会いたかった! あれ、しばらく見ない間に小さ、」
「ここは私に任せて、お二人は先に行っていてください」
すると突然、エルに飛びかかる勢いで抱きつこうとした美女を、ユーインさんが何故かがしりと捕まえた。
それと同時に、美女の整いすぎた顔が怒りで歪む。
「ユーイン、お前、ふざけるな! やっとエルヴィスに、」
何やら美女は叫んでいたけれど、エルも「頼んだ」とだけ言って背を向け、わたしの手を掴み歩き出した。どう見ても知り合いだったけれど、大丈夫なのだろうか。
「エル、知り合いなんじゃ」
「あんなうるさい女、知らん」
そしてわたしはエルに手を引かれたまま、人混みの中を歩き続けたのだった。
いつも読んでくださり、ありがとうございます!
な、なんとこの度、こちらの作品の書籍化が決定いたしました……!!!やったーーー!!
これも全て、いつも応援してくださる皆様のおかげです!
本当に本当に、ありがとうございます!
エルの成長過程や可愛らしい二人の姿をイラストでも見れると思うと、今から本当に楽しみです。
詳細につきましては後日、ツイッターや活動報告にてお知らせさせて頂きます。
引き続き、よろしくお願いいたします!




