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旅の途中

作者: かなで四歌

 あなたは旅をしている。

 食料、数枚の衣服、生活必需品。

 それらを詰めた鞄を背に歩く。武器を下げて歩いていく。



 あなたの朝は早い。

 夜明け、朝日で目を覚ます。

 顔を拭い、水で口を湿らせ、夕食の残りを口に入れる。

 地面に寝て凝り固まった身体をほぐす。

 それで朝は終わり。

 長い昼が始まる。

 道は一応あるけれど、あなたは磁石と地図と太陽とで方角を確かめる。

 軽く祈り、あなたは歩き出す。



 食べられそうな物があれば、あなたは持ち主がいないか確認して、回収する。

 あまり多くは採らない。それは重く、あなたの歩みを遅らせる。

 鞄とは別に、肩から前に下げた小さいポーチはそのためのものだ。

 あなたは見つけた野草や果実、時に仕留めた小獣を入れて運ぶ。



 時にあなたは他の旅人と出会いもする。

 その多くはあなたを警戒する。

 武器こそ向けてこないが、近づいてくることは決してない。

 表情と連動せず、決して笑わない目で相手の出方を探り、

 こちらに向けこそしないものの、手で武器を探っている。

 あなたが怪しげな対応をすれば、すぐに攻撃されるだろう。

 お互いに武器を探り合い、近接武器であればそれなりの距離を置いてすれ違う。

 稀に、情報交換をすることもあるが、そのような時でも近寄ることはない。

 悪人は善人のような顔をしている。

 悪人の顔をしていることは殆どない。

 遠距離武器であった場合はどうするか?

 元来た道へ後退し、迂回するのが賢明だ。



 やがてあなたは疲労を感じ、休憩を取る。

 水場があれば最高だ。

 布を濡らして汗を拭えるし、沸かして水筒に詰めることもできる。

 気温が高ければもちろん水浴びもできるが……。

 無防備になるので、やることはあまりないだろう。

 水場には様々な生物が集まる。危険なものも、人間も。

 昼食は抜くこともあるし、食べることもある。

 朝までに用意できるようならば食べる。

 そうでなければ、我慢しなければならない。

 太陽の出ている時間は限られているからだ。

 果物を採れているなら、ここで食べるのもいいだろう。



 あとはもう、野営に適した場所を見つけるまで歩きだ。

 たまに地図と磁石を取り出し、位置を確認する。

 目標地点へ到達するかしないかで、あなたは野営地を探し始める。

 暗くなる前に燃料を確保したい。

 雨が降っているなら、森の中や洞窟がいい。先住者がいなければだが。

 燃料はあるが限られている。使わないに越したことはない。

 夕暮れよりもだいぶ早い時刻に、あなたは野営地を定め、可燃物を拾いにいく。



 あなたは旅の間、殆どの時間、誰とも喋らない。

 安心できる時間は独り言が多くなる。

 話し相手は多くの場合、自分だ。

 毎日目的地へと足を進めるだけの一日を過ごし、あなたは孤独に耐える。

 旅とはそういうものだ。

 人が恋しく、街へ着いたときは涙が出そうになるだろう。

 だがしかし、その街でさえも、あなたはただのよそ者だ。

 どこの誰も仲間ではない。

 あなたが孤独を癒せることはない。

 いつか旅の途中で出会った他人が、連れ合いになってくれないものか。

 そんな夢をいつも見ている。

 きっと出会う相手のうち何人かもそう思っているのだろうが、なかなか実現することはない。



 それでも。

 枝や木の火に爆ぜる音を聞き、揺らめく炎を眺める、この時間は代えがたいものだ。

 簡素な食事を終えたあなたは炎に微睡み、歩き通した体は心地よい疲労をあなたに与えてくれる。

 あなたは疲労を取り、明日に備えなければならない。

 旅は続くのだから。

 幸運にも今夜は晴れだ。

 武器を手にし、焚火を調節して、あなたは毛布にくるまる。



 そしてまた一日が始まる。

 いつか満足に動けなくなれば、どこかの街で諦めて、定住するのもいいだろう。

 けれど、今はまだその時ではない。



 あなたは歩き出す。

 自分で定めた目的地に向かって、あなたは旅をしている。

 簡単に辿り着ける目標ではつまらなかった。

 だからまだ、あなたは旅をしている。

 歩く足に力がこもる。

 最低限の荷物を持って、武器を下げて、あなたは歩いていく。

 目的地は遠く、しかし着実に近づいている。

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