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捕快物語  作者: ムネミツ
2/5

初めての巡回 昼の部

 「平時の銅鑼の鳴らすタイミングはまずは出発時の今だ」

 ピョウの言葉に従い、まずは一回ゴ~ンと軽く鳴らす笑快。

 「そう、巡回始めはそんな感じで良い次はしばらく進んでから鳴らせ」

 先頭に立つハンが教える。

 捕吏の仕事は実地研修形式で始まった。

 ハンを先頭に二番手がチェン、三番手がピョウ、最後が笑快と隊列を組んで

歩き出す。

 「捕吏の普段の仕事は大体見回りだ、芝居みたいな捕り物は滅多にないぞ」

 チェンが捕吏の現実を語る。

 「でかい事件は起きても衛兵隊の奴らに持って行かれちまうしな」

 ピョウがため息をつく、悲しい事に黄蘭の街では捕快より衛兵などの

軍が幅を利かせていた軍の頭は領主の跡取りでジミーの兄。

 領主の子供達で冷や飯を食っているのが捕快の頭のジミーだった。

 「衛兵がなんだ、権力も予算も人手も向こうが上でも俺達が頑張るんだよ」

 リーダーのハンが熱く語る。

 「新人ですが頑張ります」

 笑快が答える。

 「まあ、気を張り過ぎるなって♪ いざという時に力が出ないぞ♪」

 チェンが笑ってリラックスを促す。

 「チェン先輩は緩み過ぎだよ! はい、銅鑼鳴らして!」

 ピョウが表通りの一つをある程度進んだ所で笑快に銅鑼打ちを促す。

 ゴンゴンゴ~ンと小刻みに銅鑼を打ち鳴らす笑快。

 住民達は一行を見るがすぐに目を離して商売などに戻る。

 「捕快が来たぞ~! 用のあるものはいるか~?」

 ハンが声を上げるが特に事件がない以上、まっとうな庶民には

捕快へ用がある者は特に現れなかった。

 「この辺りは、とりあえず何事もないようですね先輩方」

 笑快が周囲を見渡しながら尋ねる。

 「まあ、ここはまだ住民も大人しい所だからな手数料は稼げないが」

 ピョウがぼやく、給料を貰える捕快だがその額は非常に安い。

 なので、捕吏は他から仕事を請け負い報酬を受け取る事が認められていた。

 「クエストなど捕吏の仕事以外で手数料稼ぐ時は、私服と個人の装備でやれよ」

 チェンが酒場では金が要る遊侠(ゆうきょう)達に仕事を斡旋してくれる事

とそこで仕事を受ける場合は捕吏ではなく遊侠として受ける事を教えてくれる。

 「西洋では遊侠を冒険者って言うようだがな、新人には捕吏の仕事をさせろ!」

 ハンがチェンを叱りチェンが笑って謝る。

 「ま、いずれ笑快も遊侠の仕事を教えるよ」

 ピョウが話を締めて見回りを再開する事になった。

 次の通りに達すればまた笑快が銅鑼を鳴らし、住民達に捕快が来た

事を喧伝し捕吏全員で怪しい様子や住民の困り事がないかを探す。

 そんな中、麺の屋台を出していた住民が「食い逃げだ!」と叫ぶ。

 その声に反応したのは笑快。

 自分が逃げてきた所に捕吏がいるとも知らずに駆け出してきた哀れ

な食い逃げ犯の姿は、ツルツルの禿げ頭を光らせて走るぼろい着物姿の男。

 先輩捕吏の三人は横に並び逃走経路を塞ぐ、そして禿頭の男が捕吏の姿

を見て立ち止まった所へ笑快が銅鑼による一撃を叩き込んだ。

 「食い逃げ犯、確保!」

 笑快が叫んで犯人を取り押さえると、先輩捕吏が近づいて来て縄で犯人

を縛り拘束する。

 「お手柄だな、新人♪」

 ハンが褒める。

 「よ~し、屋台の店主から手数料を取るぞ♪」

 チェンが被害者である麺屋の店主の所へ行き、手数料を請求する。

 「俺が牢屋へ連れて行くか、面倒だが仕方ない」

 ピョウが縛った食い逃げ犯を引き立ててメンバーから外れる。

 ピョウが向かう場所は街の中心にある裁判所、捕吏が捕えた罪人は

裁判所の中にある牢屋へぶち込まれる。

 ぶち込んだ後は中央から派遣されている判事や牢番や刑吏の仕事だ。

 

 ピョウが抜けても見回りは続く。

 「ちぇ、手数料は食い逃げされた麺一杯分か」

 チェンが笑快とハンに小銭を一枚ずつ渡す。

 「欲張るなよ、銭は悪い奴らからふんだくれ」

 ハンがチェンを諭す。

 「ハン先輩は豪胆ですね」

 笑快は感心する。

 「多少は肝が据わっていないとやっていけないからな」

 ハンが憮然とつぶやく。

 「へいへい、悪党からふんだくった銭は世の為にでしょ」

 チェンが笑う。

 「そうだ、悪党に銭を持たすと碌な事に使わんからな」

 ハンは喋りつつも街の様子に目を光らせていた。


 その日の昼間の巡回は特に事件もなく平和に終わった。

 「今日は新人も混ぜて夜回り、締めは歓迎会だ」

 詰所に戻って来て皆で一休みする中、ハンが語る。

 「巡回は昼と夜を基本的には交代制だが、今日は皆で行くぞ」

 銭の袋を持って戻って来たピョウが語る。

 食い逃げ犯には賞金が掛かっていたようで、彼らの懐は一時的に温まった。

 「巡回は夜が本番だ、妖怪や魔物共が市を出したり悪さするのは夜が多い」

 チェンが街の夜について語る。

 「場合によっては、伏魔刀で魔物とやりあう荒事になるから気を付けろよ?」

 ハンが鞘から伏魔刀を抜いて見せる。

 短い柄で刀身は先端が幅広い、銀の刀身には赤い字で呪文が刻まれていた。

 「こいつは人や魔物だけでなく神様だって切り殺せる業物だ、仕事の合間に

こいつの稽古もやって行くからな」

 そう言ってハンが刀を鞘に納める。

 「あの刀、呪文が刻まれてるがあれは冥界の王様のお墨付きって意味だ」

 チェンが大まかに呪文について教えてくれる。

 「俺達はこの世の役人でもあると同時にあの世の役人でもある、捕頭から

銀札を貰ったよな? あれは冥界での身の証でこの世とあの世の手形だ」

 ピョウが銀札を見せて解説する。

 「……あの兄弟子、何をやらかしたんですか?」

 ジミーの顔を思い浮かべる笑快、冥府の王とどんな取引をしたんだろうか?

 「何でも捕頭が前世からの業の清算を条件にこの世とあの世の面倒事を片付ける

組織を作れと命じられたそうでな、その時に自分や部下の死後の世界での権力と

立場も約束させたそうで俺達は死んだらあの世でも捕吏になるらしい」

 ハンがげんなりした声で語る。

 「……死後の暮らしの事まで面倒見てくれるとは思いませんでした」

 まさかこの世の職だけでなくあの世での職も決められるとは思いも

よらなかった笑快。

 「ここの捕吏になった時点で俺達は一蓮托生の義兄弟だ、弟分よ♪」

 チェンが笑顔で笑快の肩に手を置く。

 笑快の口からは乾いた笑いしか出なかった。

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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