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不死の死にたがりと異世界少女  作者: 陽炎 紅炎
第一部 一章 力の芽
9/43

天災

この話から書き方を少し変えてみました。

感想、ブックマークありがとうございます。

これからも精進しますのでよろしくお願いします。

 日が沈み、賑やかだった昼間の空気を静かな夜が月と共に覆い始める時間。

 ローブに身を包んだ男がその闇に紛れるように街を眺めていた。

 フードを目深に被り顔が見えないが僅かに見える口元は歪んだ笑みを浮かべ、これから起こることに楽しみを感じていた。


「さぁ、実験開始だ」


 闇と静寂に包まれた森の中、誰にも聞こえないその言葉は男の姿と共に夜風に包まれ消えていった。




 〇




 時を同じくしてギルドでは宴会が始まっていた。

 酒と料理の匂いに包まれた屋内は日が沈み切ったにも関わらず昼間の活気に勝る勢いだった。

 大飯を食らい、大酒を呑み、大声で笑う。


 そんな活気に満ちた世界を閉ざす様に、山が鳴った。

 いや、そう聞こえるほどに大地が揺れた。

 椅子や机、人が倒れ酒と料理が地面に散らばる。


「な、なんだ!?」


 一人の男がギルドの外に出ると、山のような者がこちらに迫っていた。

 大地を削り、家屋を飲み込み前進していた。


 ──化け物だ、人の身では到底敵わない怪物だ。


「な……あぁ……」


 本能が危険信号を出すことを諦めた男が最後に見たのは天を覆う暗闇が自身を覆う瞬間だった。




 〇




 手を天井に突き出しグッと握り込む、そして開く。

 握る、開く、握る、開く。

 天井には何も変化が起こらないし手にも変化はない。

 ……当たり前か。


「何時までやってるんですか?」


 首だけ動かし顔を向けると寝巻きに着替えたクロが不思議そうにこっちを見ていた。

 俺は手をもう一度握りこむ。


「……結局ウルフの体を木っ端微塵にしたのはなんだったんだろうって思ってな」

「わかりません。それについてはまた調べてみましょう、早く寝ないと明日に響きますよ」

「あぁ」


 クロでもわからないなら仕方ないと割り切りお互いに寝る体勢になる。

 真っ暗な部屋で目を閉じて寝ようとするが中々寝付けない、頭の中で色々な考えが浮かぶ。

 これも、イールの仕業なのだろうか。

 あんなに性格の悪い神のことだ、俺に黙って別の力を押し付けていてもおかしくはない。


「クソ、寝れん」


 考えないようにすればするほど勝手に頭が冴えてくる、イライラも相まって目も冴えたままだ。


「……散歩でもするか」


 床に投げていた上着を拾いこっそり部屋を出る。

 クロの様子を確認するとすーすー寝息を立てて眠っていた。

 その事に安堵しながら玄関から靴を持ち出し自室の窓から外へ出る。


「っと……」


 二階から飛び降りたのは初めてだが脚を挫かなくて良かった。

 まぁ、すぐ治るんだが。

 空を見上げると満点の星が広がっていた。

 日本では目にすることが出来ないほど星がくっきりと見える。

 何時ぞやの暗雲の空とは大違いだ。

 その事に少し気分が良くなり大通りに出ようとした時、轟音と共に地面が揺れた。


「なんだ、地震か!?」


 立つことが難しい程の揺れが一定間隔で起こる。

 普通の地震とは何か違う……。なんだこれは。

 どうにか壁伝いに歩き家の中に入る。

 とにかく今はクロの安否確認が最優先だ。


「クロ、無事か!」

「タケルさん、大丈夫でしたか!?」


 寝間着のまま銃を構えたクロが慌てて走ってくる、銃を持つ手は若干震えており不安が見え隠れしている。

 無理もない、地震なんて慣れてる奴いないだろ。


「あぁ、どうにかな。お前は?」

「私も大丈夫です。でも、街が……」


 近くの窓から街を見ると夜に紛れて大きな何かが蠢いていた。

 月明かりに照らされて薄ら形が見えるが正体が分からない。

 それが動く度に揺れが起きて家全体が軋む。


「なんだあれ……知ってるか?」

「……ドラゴン、だと思います」

「ドラゴン!? 」

「吸血鬼と同じくらい希少種です。でも、なんで街に……」

「っ!?あそこってギルドの近くじゃねぇか!? 」


 俺がそう言うとクロの顔が真っ青になる。

 手近にあるものだけをまとめ、服も着替え直ぐに出る。


「は、速く行きましょう!」

「わかった!」




 〇




 あれだけ賑やかだった街は次第に血と煙の臭いに包まれていった。

 石畳は割れ、建物は崩れ、燃え移った炎と立ち上る黒煙で息が詰まる。

 ギルドに駆け付けるとガドルがドラゴンと対峙していた。だが、すぐにドラゴンから離れ俺達の近くに戻ってきた。

 息を荒くし、額から血と汗を流し、大剣を杖代わりに踏ん張っていた。


「ガドル、大丈夫か!」

「ハハハ……若造に心配されるなんざ、俺も焼きが回ったもんだぜ」

「今治します」


 クロが回復魔法を使いガドルを癒す。

 額から流れている血は止まり、脂汗が流れて苦しい表情だった顔に生気が戻ってきた。


「ふぅ……ありがとよクロ。だが、あいつは正真正銘の化け物だぜ。俺の剣が奴に傷をつけてもすぐに治っちまう。正直、手の打ちようがねぇ」


 憎ったらしく悪態をつき瓦礫に座り込む。

 両手を握りしめ、怒気と殺気をドラゴンに向ける。

 唯一見えている左目は獣の様に据わっていた。


「傷が治るってことはあのウルフと一緒なんだろ? なら、心臓を破壊すれば」

「試したさ、だが心臓付近は固すぎて歯が立たねぇ。心臓が破壊できない以上、俺達にできるのはこの街を捨てて逃げるくらいなのさ」


 周りにいる冒険者達を一瞥し、俯いた。

 冒険者達も大、小問わず怪我を負っていた。

 中には再起不能になっている奴もいた。

 ドラゴンは俺達など眼中に無いのか、ゆっくりと城に向かって前進していた。


「……だからって、諦める理由にはならねぇ」

「なんだと?」


 あっちの世界じゃドラゴンなんて神話の世界だ。

 だが、人間がドラゴンを倒した神話も確かに存在する。

 なら、勝てる筈なのだ。


「教えてやるよ、いつの世も化け物を倒すのは人間だってな」

「お前、何をする気だ」

「なに、ただのドラゴン狩りだ」




 〇




「無茶だ、それじゃお前さんが死んじまう! ギルド長としてそんなことは許可できん!」


 ドラゴンを倒すため俺が考えた作戦を伝えるとガドルは猛反対した。

 それもそうだろう、普通に考えればこんなの作戦とは呼べる代物じゃない。

 ただの愚策だ。


「クロ、お前からも止めてくれ!」

「……私は、この作戦がベストだと思います」

「なっ!?仮に可能性があったとしてもどうやって近づくつもりだ。無策で近づいたら命がいくつあっても足りんぞ!」

「それなら私がやるわ」


 突如、何もないところからマリーが現れた。

 いつもの服装とは違い、紫の分厚いローブに着替えていた。

 ただ凛とした態度は崩さず俺の背中を叩く。


「私の魔法なら彼を運べるんじゃない?」

「マリー、お前まで」

「このままじゃ被害が広がるだけ、仮に私達が逃げ切れたとしてもあの化け物は他の街もここと同じように壊すでしょう。ここで倒せるなら彼の作戦に乗ってみるのを悪くないんじゃないかしら」

「むぅ…」

「頼むガドル、俺一人じゃ無理だ。クロと俺だけでも駄目だ。お前達の力が必要なんだ!」

「……わかった。お前さんに賭けよう。これを使いな、信号弾だ。撤退用に使おうと思ってたが、必要だろ?」

「あぁ」


 マリーの提案を受け渋々と首を縦に振り、信号弾を俺に渡す。

 だが、その顔はさっきまでの暗い顔ではなく闘志が表れていた。

 頼もしい限りだ。


「マリー、さっき急に出てきたが、あれなんだ」

「あれは転移魔法よ。私を含めて使える人間は片手の指くらいしかいないの」

「……何者なんだよ、お前」


 突然の告白に驚きと呆れ交じりの返答をするとマリーはふっと笑った。


「あら、ミステリアスなほうが魅力的でしょ?」


 指を自分の唇に当て妖艶にほほ笑む。

 こんな状況でなければ誘惑されていたかもしれない。


「痛って! んだよクロ!」

「ふん、惚けてる場合ですか」


 なんで殴られたのかあまり釈然としないが今は放っておこう。

 ガドルとマリー、クロに作戦の詳細を伝え、所定の位置についてもらう。

 周りの熱気と緊張で全身が汗ばむ。

 何度も深呼吸をして心を落ち着かせる。

 それでも、心臓の鼓動は早いままだった。

 暫くすると銃声が聞こえた。


「……作戦開始だ!」


 俺も信号弾で合図を返す。

 そこから銃声と轟音が響き、戦闘が始まった。

 まずはドラゴンを人が少ない場所まで誘導する。

 ガドルとマリー曰く、住民の避難を優先していやっていたらしく街の東側にはもう人がいないらしい。

 だからまず、そこへ誘導する。

 クロの銃による牽制と僅かなダメージを主にドラゴンを攻撃する。


「……」


 息を飲んで状況を見る。

 二発目の信号弾が上がる。

 誘導完了の合図だ。

 そこからは誘導するための攻撃から倒すための攻撃に切り替わる。

 クロの銃弾がドラゴンの鱗を貫き、ガドルの大剣が肉を切り裂き骨を断つ。

 だが、ダメージを負った先から傷が癒えていく。

 ドラゴンが炎を吐き、爪で大地を割る。

 街が燃え、建物が崩れる。

 クロやガドルの逃げ隠れする場所が無くなっていく。


「さあ、準備はいいかしら?」

「あぁ、やってくれ」


 マリーが俺の後ろに立ち背中に手を当てる。


「任せたわよ……」

「あぁ!」


 次の瞬間視界が歪み、空へ投げ出されていた。

 高速で落下し、風の音ばかりが耳を叩く。

 拳に慢心の力を込めて目を閉じる。

 感覚が研ぎ澄まされ、時間の流れがゆっくりに感じる。

 ウルフの体を弾き飛ばしたように、あり得ないほど力を叩きこむように。

 イメージを体に浸みこませ目を見開く。

 ドラゴンも俺に気づき、炎で俺を迎撃する。

 だが、炎を吐く直前で黒い魔力がドラゴンの頭を弾き、俺のすぐ横を焼き払った。


「うおぉぉぉぉぉらあぁぁぁぁ!!!!」


 ありったけの力を込めた拳がドラゴンの胸元に突き刺さり、大穴を開ける。

 衝撃波で瓦礫と炎が舞い俺を吹き飛ばす。

 いくつかの建物を破壊し、どれだけ転がったかわからないが誰かに抱き留められようやく止まった。


「大丈夫ですか?」

「う、く、クロか。治るのにちょっとかかりそうだ」


 クロに支えられながら立ち上がると俺が転がってできた道があった。

 その道をゆっくり歩き戻ると。

 先ほどまで街を破壊ししていた天災、ドラゴンが横たわっていた。


「討伐、完了です」

「はは、やってやったぞ」 


 疲労と達成感でぐちゃぐちゃになりながらも確かに成し遂げた実感がわいてきた。


「……わりぃ、少し寝る」

「はい、お疲れさまでした」


 クロの言葉を最後に、俺の意識は闇に落ちた。




 〇




「ハハハ、すごいや。実験は成功、予想外の収穫もあり。うん、上々だね」


 ローブを纏った男は"実験"の一部始終を見ながら歪んだ笑みを浮かべた。

 その顔は人の笑みとはかけ離れ人ならざる者の笑みになっていた。

 だが、突如顔から笑みが消える。


「もう少し、もう少しだ……」


 男の目には黒く濁った憎悪だけが写されていた。

10/26 誤字修正

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