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不死の死にたがりと異世界少女  作者: 陽炎 紅炎
序章
6/43

ギルド

 自殺を図ったら見知らぬ少女に助けられて、神を自称する男から不死を与えられてしまった。

 冗談にしても笑えない、B級映画にもこんな題材は転がっていないだろう。

 本当に、笑えない……。

 ベッドにもたれ、丸くなる。

 外はすっかり暗くなり、それを助長するように俺の気持ちも暗くなっていく。


「……あの、いつまでも不幸オーラを出さないでもらえません? こっちまで移りそうなので」

「あぁ、すまん」


 ベッドに座り本を読みながら、不機嫌そうな声が聞こえる。

 さっきからクロのご機嫌が斜めになってしまっている。

 理由なんて考えなくてもわかっている、クロを騙すような事をしてナイフを自分にぶっ刺したからだ。

 何度も、何度も怒られた。土下座までして謝り、何とか許してもらえたが機嫌を直すまでは至らなかったようだ。


「はぁ……」

「……」

「す、すまん」


 また不幸オーラを出してしまっていたらしい。

 クロにジト目で見られてしまった。

 それでも不死のことを考えてしまうとどうにも思考がネガティブな方向に流れてしまう。

 いや、死に方を考えている時点でかなりネガティブではあるが。

 そんな俺の態度を見かねたのかクロは本を閉じてベッドに仰向けで転がる。


「いっそ諦めて生きてみたらどうですか? そうやってるよりマシだと思いますけど」

「……目的もない今、そんな気力湧かねぇよ」

「卑屈すぎますね……。私は両親の顔を見たことがないって前に言いましたよね」

「あぁ」

「私が産まれてすぐに戦争があったんです。両親には魔法の素質があったので兵士として戦場に連れていかれて、産まれて間もない私は両親の知り合いに預けられたと聞きました」

「その知り合いの人ってのは今どうしてるんだ?」

「病死しました。元々身体が弱かったので、それも相まって……」

「……そうか」


 クロは辛さや悲しさを顔に出さないように努めて話していたがどうしても寂しさだけは顔に出ていた。


 こいつは、行く先々で人を亡くして孤独というものを散々味わってきた。

 それが友人を亡くしたことと重なり胸が痛くなった。


「つまり、私の命は私一人のものじゃないんです。私は色々な人の十字架を背負って生きてます、私が勝手に無意味に投げ捨てる訳にはいきません」

「それがお前の生きる理由か……」

「はい」

「……そうか」

「個人的な意見ですけど、生きる目的や理由は与えられるものではなく見つけるものだと思います。ゆっくり時間を食いつぶして考えてみては?」

「生きる理由、ね」


 生きる理由、か。

 別にアニメやゲームみたいに勇者になるために異世界に来た訳でも、最強の力を手に入れたから無双してやろうとも思ってない。


 現状は何の目的もない、巨大な迷路だ。

 チラっと横を見るとクロはまた本に目を通していた。


「なぁ……」

「……なんでしょう」

「生きる目的とかあるのか?」

「ありますよ、両親のお墓に参ることです」

「……まさか、両親の名前も分からないのか?」

「はい、顔も名前も知りません。唯一の手がかりはカトレアという性だけです」

「……わかった、それなら俺も手伝おう」

「え……」


 驚いた顔で俺を見る。

 当面、生きる理由や目的は俺自身にはない。

 それなら、クロの手伝いでもしながらこの不死をどうにかする方法を探せばいい。

 それに、こいつには色々と恩もある。

 ついでにゆっくりと返していけばいいだろう。


「まぁ、俺に出来ることは限られてるだろうけどな」

「それでも、嬉しいです」

「……そうか」

「ですが、それなら私と同じく冒険者になってもらいます!」

「冒険者?」


 ベッドから降りて腰に手を当て、俺を指さしてくる。


 あれか、組織に属して魔物討伐や捜し物をするあれか。

 この世界でも手に職つけろと言うのか。

 前の職場は上司のパワハラやらアルハラが酷かったせいで姿勢が後ろ向きになる。


「いや、あの、俺は組織とか団体行動が苦手なんだが……」

「別に上下関係とかあんまりないですよ。ギルドには属しますけど形式だけです」

「……そうなのか」

「ただ、問題行動が多いと査問会行きですけどね…」

「おい、なんでそこで目をそらす。ふざけんな、お前に限ってそんなことあるか?」

「いや、私はありませんけど……。その、ギルドのメンバーには査問会の常連がいて……」

「査問会常連って独房に詰め込むべきだろそいつ!」

「とりあえず、行けばわかりますから!」

「少しもわかりたくねぇよ!」


「行く」「行かない」と互いに譲らずヒートアップしていく。

 満月が煌めく夜は暫く騒がしいままだった。




 〇




 翌日、気分は乗らないがそれでも年下の子供のヒモになる訳にもいかないと思いクロの案内の元、ギルドを訪れた。


 外見は酒場とあまり違いはなさそうだが外からでも中が活気づいているのがわかる。


「ここがギルドか……もう少し肩がこる場所かと思った」

「ここは他に比べてあまり組織的ではありませんからね。冒険者のたまり場と思ってくれれば充分です」

「なるほどな。で、多分登録手続きとかいるんだろ? 早く行こうぜ」

「そうですね、行きましょう」


 中に入ると活気溢れた雰囲気が伝わり、それと同時に酒と料理の入り交じった匂いがして思わず一歩下がる。

 ガタイのいい男達が酒を飲み交わしていたり、山積みになった本に埋もれながら読書をしている女性もいる。


 正直、思い描いていた場所とは程遠く少し肩の力が抜けた。

 もっと規律や規則を重んじる場所かと思っていた。


「置いていきますよ~」

「ん、あぁ、悪い」


 あちらこちらと見渡していると、クロに声をかけられ意識を戻される。

 駆け足でついて行くとカウンタに案内された。

 ウェーヴ掛かった金髪の女性が少し退屈そうに頬杖をついていた。

 香水を振っているのか柑橘系の匂いが彼女をこの場から切り抜いていた。


「あら、クロが誰かと一緒なんて珍しいわね。彼氏さんかしら?」

「ち、違います! 今日はこの人の冒険者登録をお願いしに来たんです」

「どうも……」


 そのままの体制でクロを茶化す女性。

 流石に初対面の俺に対し、まずいと思ったのか頬杖を辞めて座り直した。

 俺も姿勢を少し正す。


「初めまして、私はマリー・コードル。このギルドの受付嬢をやってるわ。冒険者登録だったわよね? この紙に名前を書いてちょうだい、それが終わったらこの水晶に手を触れて」

「あぁ、わかった………ん?」

「どうしました?」


 渡された紙を見た俺はその場で固まってしまった。

 理由は単純、文字が読めなかったのだ。


 完全に失念していた、クロにも街の人間にも言葉が通じるから文字も日本語だと勝手に思い込んでいた。だが、ここは異世界。

 漢字や平仮名が使われているはずもない。


「あー……その、文字が読めん……」

「「え」」

「いや、冗談とかじゃなく……本当に」

「そういえば……そうでしたね。私が代わりに書いておくので水晶に触って下さい」

「……わかった」


 まさか自分より年下の子供に文字のことで助けてもらう日が来るとは……。

 敗北感に打ちのめされながら紙の隣にある水晶に手を触れる。

 すると水晶は青く染まった。今まさに俺に心情そのものだ。


「……貴方、文字は読めないのに魔力は凄いのね」

「そうなのか?」

「えぇ、青は上から二番目のランクなのよ。因みに魔力のランク上からは赤、青、黄、黒、無っていう感じに分かれてるわ」

「なるほどな」

「マリーさん書き終わりました」

「はいはーい、じゃあ少し待っててちょうだい」


 紙と水晶を持ってマリーはカウンタの奥へと消えていった。

 とりあえず近くの席に座りマリーを待つことにした。


「……仕方ないですよ、誰だって最初はできないものです」

「辞めろ、今は気遣いが辛い」


 マリーが帰って来るまでの間、クロの憐れむ目が死にたくなるくらい辛かった。




 〇




「お待たせ、貴方の冒険者カードよ。無くしたら再発行まで冒険者としての活動は出来なくなるから注意してね」


 マリーから渡されたカードを受け取り見てみるがやはり文字は読めない。

 こればかりは時間をかけていくしかないだろうな。


「貴方の名前と冒険者としてのランクが書かれているのよ。貴方は登録したばかりだから一番下級のブロンズね」

「なるほど、ランクに応じて仕事が割り振られるわけか」

「理解が早くて助かるわ、より大きな報酬が欲しければランクを上げることね。いつか私にも奢ってちょうだいな」

「まぁ、これから世話になると思うし考えとくよ。因みにクロのランクはなんなんだ?」

「私は一番上級のダイヤモンドですね」

「マジか」


 少し誇らしげに自分のランクを自慢してくるクロ。

 無知な俺でも凄いことは分かった。

 多分、高校生位の歳の子供がオリンピック選手になるくらい凄いことなんだと思う。


「さて、どうする?折角だしなんか仕事受けてみる?」

「そうですね……ウルフ討伐にしましょう」

「まぁ、クロもいるしこのくらいなら彼も一緒でも問題なさそうね」

「はぁ……まぁ、分かったよ」


 勝手に話が進んだが、どうせ断っても無理な気がする。

 流れに身を任せるのが吉と思い、初仕事を受けた。


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