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不死の死にたがりと異世界少女  作者: 陽炎 紅炎
序章
3/43

出会い

一言:この3話は急遽改稿したものなので投稿時期がおかしいですがあまり気にしないでください。

 少女と別れてから三日が経過した。

 あの日から天気は変わらず快晴そのものだった。

 山にでも行けば生命の息吹を感じられそうだが、俺は薄暗い裏路地で餓死しかけていた。

 呼吸は掠れ、意識も混濁していた。

 立ち上がる気力も湧かず、今の俺にできることは意識が無くなり肉体の最期を味わうことだけだった。


 日陰独特の温度の風が前髪を揺らす。


 天国や地獄はあるんだろうか、そんなどうでもいいことが頭をよぎる。

 こんな時でも割と冷静な自分に笑えてきてしまう。

 この際だ、いっそ笑いながら死んでやろう。


「此処に居たんですね」

「ぁ……?」


 途切れてしまいそうな意識の中、聞き覚えのある声がした。

 壁にもたれながら顔を上げると三日前に出会った少女、クロが居た。

 印象的な出会いだったおかげできちんと名前を覚えている。

 掠れた声で返事を返すが、声なのか音なのか自分でもよくわからなかった。

 そんな様子に見かねたのか手持ちのカバンから水筒を出し俺に差し出す。


「とりあえず、水を飲んでください。家の近くで死なれちゃ私が困ります」


 あぁ、またこいつに救われるのか。

 クマの時といいガキの時といい何かの縁でもあるのだろうか。

 差し出された水筒を受け取ることもせず上手く回らない頭でぼんやりと考えていると痺れを切らしたのか水筒を口に突っ込んできた。


「ごぼっ!?」

「ほら! さっさと飲んでください!」


 これには流石の俺も驚愕の一言しかない。

 一部のマニアからすればご褒美なのだろうが俺にとっては一種の拷問だ。

 顔を固定され流れ込んでくる水を吐き出すこともできない。しかも、体制が悪いのか鼻で呼吸もできず体が緊急対応で水を飲み始める。

 だが、それと引き換えに冷えた水が乾ききっていた体に染み込み生気をもたらしていく。

 久方ぶりに飲んだ水はとても美味かった。


「ふぅ、これで大丈夫です」

「ごほっえふっ! 殺す気か!」

「なんだ、結構元気そうじゃないですか」


 薄暗い路地に黒髪の少女、現れたのは女神ではなく死神だったようだ。

 昔、小学生の時にクラスメイトの悪ふざけに巻き込まれてプールで溺れかけたことを思い出した。


 まぁ、今はそんなことどうでもいいか。


 クロは空になった水筒をしまうと今度は俺の左手に巻かれた包帯を取り、傷口を確かめた。

 血は止まったものの、まだ動かすと痛く傷口から骨が見えて割とグロい状態だった。

 そんな状態の左手を見たクロは自分の手を重ね目を閉じた。

 すると淡い光が手を包み、傷がみるみる小さくなっていく。


「なぁ、なんだこれ」

「魔法ですよ、知らないんですか?」

「知らん。いや、知ってるが知らん。余計なことはしなくていい」

「人が親切でしてるのに、少しは感謝してください」

「頼んでねぇ」


 文句たらたらな俺に構わずクロは魔法とやらで傷を塞いでいく。

 お人好しというか、貧乏くじを引くタイプだなこいつ。

 傷が殆ど治ると下げている鞄から新しい包帯を取り出し俺の左手に巻く。

 処置が終わった手を握ったりしても痛みは無い。


「これでこんな汚いところに居ても問題なく治りますよ」

「へー、へー、どうも」

「なので何処へなりと行っていただいて結構ですっ!」


 ペチンと俺の手を叩き、拗ねた感じで何処かへと行く。

 その背中を見て自分の情けなさに溜息がこぼれる。

 ほんと、情けない。


「ありがとよ」

「……はい」


 せめてもの礼を伝えるとクロは振り返り綺麗な笑みを浮かべた。どうやら満足していただけた様だ。

 クロの居る大通り側には行かず、俺は裏路地を進んでいく。

 また死ぬことには失敗したが、今回は飛び降りた時の様に嫌な気にはならなかった。


「さて、どこへ行くかねぇ」


 見上げた空は憎いほど晴天で日光は一日を祝福するように穏やかだった。

 俺は足元の小石を蹴った。




 〇




 この三日間街を徘徊したおかげで少しは土地勘がついてきた。

 東京のようなビル群が立ち並ぶ土地とは違って、石畳の大通りに家や露店が並んでいる。

 行ったことはないが、学生時代に教科書に乗っていたヨーロッパに近い。

 それに、スーツの上着を着ていては少し暑い


 それにしても広い街だ、まだ行ってない場所のほうが多いし、デカい城みたいなものもあるし、クロの言葉を信じるなら魔法だってあるのだろう。

 半信半疑だが俺の手の傷を治したのだってその魔法だ、信じるしかない。


「あぁ!!」


 街の大通りを歩いていると露店のほうから悲鳴が聞こえた。

 振り返ってみると品物だろう、林檎とよく似た果物がそこら中に散らばっていた。

 見てしまったが故か、このまま知らんぷりを決めて去るのは簡単だが気が引ける。

 こういうのをお人好しというのだろうか、溜息交じりで転がっている果物を拾う。

 俺も人のこと言えないな。


「おばちゃん、手伝うよ」

「あぁ、ありがとうよ。見ない格好だね、旅人かい?」

「まぁ、そんなところさ……これで全部か?」

「あぁ、助かっちまったよ! お礼に一つ持っていきな今朝仕入れたばかりで新鮮だよ!」


 断ろうとも思ったが、こういうおばちゃんは断るほうが面倒なことになると思い素直に受け取った。

 思えば丸三日、水以外何も口にしていないのだ。いい加減、空腹も限界を越していた。

 一口齧ると味も林檎と似ていて甘い果肉と果汁、甘酸っぱい匂いが口の中に広がった。

 嬉しいことに林檎と違い種がないのか余すところなく食べれた。


「なにやってんだか……」


 死にに来たのに人助けして、果物食って、年下の少女にまで世話になって、自分の行動が理解不能だ。

 石ころを拾い、近くに居た鳥に投げる。

 鳥は驚いて逃げるように飛び立っていった。

 理不尽極まるが何かに当たらないとやっていられないのだ。

 気づけば日が傾き始めていた。

 とりあえず、すっかり馴染んでしまった裏路地に戻る。


「あー、くそが!」


 つくづく悪運が強いのか、死のうとしても死にかける程度で終わってしまう。

 だが、もういよいよこれで最後だ。

 誰にも気づかれずひっそり死のう、誰にも看取られず、誰にも迷惑かけず。


「またここにいるんですか?」

「……クロか」


 自分でも気づかぬ内にまたこいつの家の近くに来ていたらしい。

 占いのラッキーカラーが黒なのか、それとも神の悪戯か、こいつとは前世の因縁さえ感じる。


「悪かった、すぐ消えるさ」

「まだ何も言ってませんよ……。実はさっきの露店での出来事、見てたんですよ」

「ストーカーかよ」

「失礼な、偶然ですよ」


 クロが隣に座る。

 良いとも言ってないが何を言っても無駄な気がするので気にしないことにした。

 日が傾いたせいで日光が俺達に降り注ぐ。


「行くところがないなら、家に来ますか?」

「なんでだよ」

「いえ、少し誤解をしていたというか、意外と良い人そうなので、このまま死なせるのはもったいないかと思いまして」

「やめとけお前の家に死体が増えるだけだぞ」

「死なせませんよ、どうしても死にたくなったら私が責任をもって埋葬します」

「ちっ、勝手にしろ」

「はい、勝手にします」


 こうして数度死にかけた俺は一人の少女に拾われることになった。

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