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不死の死にたがりと異世界少女  作者: 陽炎 紅炎
第一部 三章 吸血魔戦争・前
27/43

脱出

一言:かなり急いで書きました。

 張り詰めた空気が場を支配する。

 額から流れる汗を拭う事すら致命的な隙になると言葉以上に空気が語っていた。

 四対一、普通の喧嘩なら結果は火を見るよりも明らかだ。しかし、アルカにその常識は通用するのだろうか。


「四対一か、こちらが不利だね」

「卑怯とか言うなよ」

「ははは、そんなことは言わないさ。これも立派な戦術だからね」


 アルカは考える仕草をしながら状況を分析する。

 数の上では俺達が有利。それは確かだ。なのにアルカは余裕の態度は崩れていなかった。


「仕方ない。こちらも()()()()()()()()

「何だと?」


 耳を疑った。

 アルカが指を鳴らす(スナップする)と部屋の両端にあるカプセルから音が聞こえた。

 ごぼごぼと泡立つカプセルから無数のウルフが出てきた。その数九匹。

 俺達を囲み、唸り声をあげながら涎を垂らし、ジリジリと距離を詰めてくる。

 まさかとは思うがこの魔物……。


「その通り。あのカプセルの中に居るのは全部僕の作った吸血魔だよ。僕だって一人で王国を相手にできるとは思っていないさ。あぁ、後それと、リィンお疲れ様。よくやってくれた」

「いえ、このくらいお安い御用です」

「なに!?」


 見知らぬ人、リィンがアルカの隣に行く。

 止めようとしたがウルフに邪魔されてしまった。

 リィンの行動にケンジが憤る。


「ちっ、あんたらグルだったのか!」

「あぁ、君達がここに来ることを教えてもらってね。待っていたのさ。後は、コアを盗めたのも彼のおかげさ」

「この野郎っ!」

「悪く思わないでください、私にも野望があるのですよ」

「ふざけんな!」


 じりじりとウルフが距離を詰めてくる。

 クロとケンジ達と背中合わせになる。

 それぞれ武器を手に取り戦闘態勢に入る。

 クソ、とことんツイてない。


「さぁ、三対一だけど卑怯とは言わないでくれよ? これも立派な戦術さ」

「ちっ! 揚げ足取ってんじゃねぇよ!」

「言っても始まらねぇ! やるぞタケル!」


 アルカの合図と共に九匹のウルフが一斉に飛び込んできた。

 俺は手に五割ほどの魔力を集め飛び掛かってきたウルフを殴り飛ばした。

 だが、一匹の対処をしている間に残りの二匹に左腕と右足を噛まれる。


「ぐっ! この!」


 肉を抉り取るように首を捩じらせ、体制が保てない。

 しかも、尋常じゃないほどの痛みで魔力を集めることもできない。

 その時、二発の銃声と共に俺に噛みついていたウルフは悲鳴を上げて離れた。


「タケルさん、これを使ってください!」

「クロ、わかった!」


 ウルフを撃った銃をそのまま俺に投げてくる。

 銃を失ったクロが気がかりになったが、クロはそのまま二丁目の銃を抜いていた。

 全く、準備の良い奴だ。


 ウルフの方に意識を戻すと撃たれた傷は塞がっており、三匹とも一定の距離を保って俺を睨んでいる。

 やはり心臓を破壊しなければ倒せないらしい。

 クロ達は俺と違い冷静に三匹を相手取っている。

 そういえば初仕事の時、クロは五匹相手にしてたな。


「っと、今はどうでもいいか」


 左手に銃を持ち右手に魔力を集める。

 ウルフ達は俺から一定の距離を保ったまま俺を囲んでいる。

 連射の利かない俺がウルフに正面から挑んでも勝ち目はない。なら、狙うはカウンター。

 ウルフが飛び込んできた時が勝負だ。


 痺れを切らしたのか一匹のウルフが遠吠えを上げ、それを合図に二匹が俺に飛び込んでくる。

 左から飛び込んできたウルフに銃を撃つ。

 心臓を狙ったつもりだったが、足を掠めただけだった。

 だが、その隙に右から来たウルフを避けてすれ違いざまに魔力を放つ。

 五割程度でも威力は十分な様で、一撃でウルフを倒せた。


「ふぅ……。後、二匹」


 少しだけ余裕ができた。

 ちらりとクロ達を確認すると、クロは残り一匹、ケンジも残り二匹になっていた。

 アルカの様子を見ても手を出してくる気配は無く、高みの見物をしているだけだった。

 クソ、余裕綽々だな。


「グルゥラァ!」

「危ね!」


 余所見をしていると、ウルフの口がすぐ目の前にあり危うく首を食い千切られるところだった。

 俺達を無視するな、お前の敵は俺達だと目で訴えてくる。


「悪かった、そう怒るなよ」


 そうだ、俺にはクロのように実践での経験がある訳じゃない。

 今の俺に敵を目の前にして気を逸らして良い暇なんて一瞬たりとも無いのだ。


 二匹になったウルフは囲んでも効果がないと知ったのか、二匹とも正面から突っ込んできた。

 それならと銃を撃つが、しなやかな体さばきで避けられてしまい弾切れになった。

 あと一息の間合いになったところで一匹が正面から、もう一匹が銃がある左側から飛び込んできた。

 ここだ!


「くたばれぇ!」


 握っていた銃を放し、両手に魔力を集める。そして、正面から来たウルフを両手で掴み、もう一匹へ叩き付ける。

 二匹は縺れ、互いに体勢を立て直そうとするせいで、互いの足を引っ張ってしまう。

 その隙に右手に魔力を集中させ、ぶつける。

 二匹は壁まで吹き飛び、空いているカプセルを破壊した。そして、二匹はそのまま動くことも無かった。


 俺の勝ちだ。

 その実感が沸きあがると同時に大きく一息ついた。


「随分と派手にぶっ飛ばしたな」

「相変わらず派手ですね、タケルさんは」

「ほっとけ」


 クロ達も丁度片付いたようだ。

 軽く息を整えながらアルカを見ると、俺達に拍手を送っていた。


「いやぁ、まさか全滅させるとは恐れ入ったよ」

「お気に召したなら光栄だ。ここから帰ってもいいか?」

「――次は、()()()()()()()()?」


 その言葉と共に薄暗い通路から倍の数のウルフが出てきた。

 冗談じゃない、九匹でも割ときつかったんだぞ。


「あぁ、補足をするとこいつらはさっきの失敗作とは違う。心臓を破壊されると死んじゃうのは変わらないけど、戦闘能力はさっきの個体とは比べ物にならないよ」

「ちっ、ケンジ、クロ、下がれ!」


 右手に全魔力を集め、ウルフの大群目掛けて解き放った。




 〇




 魔力を解き放った後、俺達は施設を出ることができた。だが、ウルフの大群を撒くことは出来ず、現在森の中で壮大な鬼ごっこの真っ最中だ。

 ウルフも吸血魔になったとは言え、元々鼻が利く。しかもそれが吸血魔になったおかげで身体能力まで向上している。

 逃げ切るのも厳しいが、かと言って全滅させるのも難しいのだ。


「クソ、次から次へと厄介な!」

「嬢ちゃんなんかアイテム持ってねぇのか!」

「殆どアイゼンの宿ですよ!」


 というわけで自力で逃げ切るしかないが、そんなこと無理なのはわかりきっている。

 元々、吸血魔になっていなくても人間がオオカミに脚力で勝てるわけが無いのだ。

 走り続けて、酸素が回りきらない頭で考える。すると、視界の隅に河が見えた。

 河は広く、流れも速い。だが、今はこれしかない。


「河に飛び込もう、ウルフは臭いで俺達を追ってきてる。なら臭いを消せば逃げ切れるかもしれない」

「俺やお前はともかく嬢ちゃんはどうする。あの流れの速さじゃ最悪の場合だってあり得るぞ!」

「行きましょう。今はこれしか方法がありません!」

「行くぞ!」


 俺達は河に飛び込んだ。

 河は思っていたより深く、俺達全員が頭まで浸かれる程だった。だが、流れが速く体が流される。

 体制を保てず、岩に体がぶつかる。

 ウルフが近くに居るかもしれないので頭を出すことも、クロとケンジの様子を確かめることもできない。

 流される勢いのまま大きな岩に背中から叩き付けられる。

 肺から空気が押し出された。

 息ができず視界が眩む。

 最悪、俺はどうとでもなる。だが、クロ……。




 〇




 水の音が聞こえる。

 それだけじゃない、流されている感じもしない。

 どうやら、運よく岸に打ち上げられたらしい。

 張り付いたシャツや髪が鬱陶しく感じる。

 体を起こすために力を入れようとすると息が詰まってしまう。

 自分で胸元を思い切り叩くと、空気で無理やり水が押し出され咳き込んだ。

 暫く、咳き込んで呼吸が落ち着いた頃にクロ達を探すと近くに居た。


「げほっ、ケンジ、クロ、無事か?」

「う、ごぼっ、がはっ、どうにか生きてるぜ」

「私も、どうにか……げほっ!」


 とりあえず全員無事の様だ。

 二人の無事が確認できて大きく息が出た。

 後ろを見ても俺達が居たであろう森とはかなりの距離が空いていた。

 心の底から大声を出してやりたいが今はそんな気力が湧かないので辞めておこう。

 ただ、疲労感にも勝るとも劣らない達成感を俺はぐっと噛み締めた。

 こうして、俺の大脱出は無事幕を閉じたのだった。


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