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不死の死にたがりと異世界少女  作者: 陽炎 紅炎
第一部 三章 吸血魔戦争・前
23/43

敗走

一言:中々目標の5000文字に届かない……

 吸血魔探知機になっているペンダントが黒いローブを羽織った白髪の男性を指していた。

 前にメリセアンで出会ったその人、アルカ・ハイマーを私は警戒していた。

 顔は笑っているのに、あの赤い目がなにか別のものを映している気がして不気味だったから。


「タケルさん離れてください! その人が吸血魔です!」

「残念もう遅いよ」


 私の警告とほぼ同時にタケルさんが貫かれる。

 胸に大きな穴を開け、あり得ないほどの血が溢れ、鉄の匂いでむせ返りそうになった。


「タケルさん!」


 血だまりに倒れる彼を支え傷口を見る。

 傷口は既に治り始めていて、少しづつではあるが出血も止まってきている。

 そのことに少し安堵するが、今は撤退に専念しなければいけない。


 すぐさま持ってきていた閃光弾と煙幕を使い視界を断つ。

 血で滑る彼を担いで移動しようにも体格と体重差がありすぎて引きずってしまう。

 ここから地上までの距離を逃げきれるのか、不安に駆られ止まりそうになる足を奮い立たせ歩く。


「タケルに免じて逃がしてあげたいけど、こんなところを見られたら逃がすわけにはいかないな」

「あぐっ!」


 視界がほとんど効いていない筈なのに的確に私達のいる位置に魔力弾を撃ってくる。

 そのうちの一つが私の腕を掠め、扱けてしまう。

 すぐに立ち上がろうにもタケルさんの体重と足元の血だまりで滑るせいで立ち上がれない。

 最悪なことに腕の傷もかなり深いみたいで左腕は使えない。


「さて、すまないけど君にも死んでもらうよ。さようなら、タケルによろしくね」


 死の恐怖がすぐそこにまで迫って体が動かなくなってしまう。

 動け、動け、いつも守られてばかりなのに……。

 今度こそ私がタケルさんを守らなきゃいけないのに……!


「ふふ……」

「ん? どうかしたかい?」

「いえ、ただの自虐ですよ」


 何を簡単に諦めているんだ私は。

 彼はどんな時だって自分を卑下していたけど、一度だって諦めたことはなかった。

 なら、私も諦めるわけにはいかない!


鮮血魔刃(ブルートクリンゲ)

「っ!」


 左腕から流れている血に魔力を送り、複数の小さな刃にして相手に飛ばす。

 マリーさんに教えてもらった奥の手、血液を使った魔法。

 どんな体制からでも使えて魔力の消費も軽い代わりに加減を一つでも間違えれば大出血を起こしてしまう。


 でも今はこれしかない。


 相手と距離が空いているうちにタケルさんの体の下から抜け出し右手で銃を構える。

 自分に治癒魔法をかけている暇はない、このままでどうにか退路の確保しなければならない。

 さっきの魔法が顔を掠めたのか彼の顔からは血が流れていた。


「やれやれ、まさか血を使った魔法とは恐れ入った」

「吸血魔に効くとは思ってもみませんでしたよ」

「効くさ。自慢じゃないが体はそこまで頑丈じゃなくてね」

「それはどうも、親切で助かります」

「それはここから帰らせる気がないからだよ!」


 少しでも気を緩めれば消えたと錯覚する速度で接近してくるが動きは素直で直線的だ。

 きっとこの人は対人戦はあまりやったことがないのだろう。

 かなりギリギリだが避けれる。


「やるね、ならこれはどうかな!」

鮮血魔盾(ブルートエスクード)!」


 高速で動きながらまばらに散らばらせた魔力弾を飛ばしてくる。

 それを血で作った盾で防ぐが血が足りず致命傷を防ぐので精一杯だった。

 アドレナリン任せの威勢もここが限界かもしれない。

 気力もなけなしの体力も振り絞って立ち上がる。


「ふむ、どうやら体内の血じゃないと大きな力は出ないみたいだね。それも一度使えばただの血に戻る」

「はぁ、はぁ、はぁ」

「答えるだけの体力は残っちゃいないか、そろそろ楽にしてあげるよ。先ほど傷も治ったしね」


 顔に会った傷はいつの間にか完治していた。

 余裕の表情で近づいてくる彼に歯噛みする。

 彼の言う通りこの魔法は一度使った血は体内に戻らず術者は常に出血状態だ。

 ただ、大きな力は無いがさっきみたいに小さな刃を飛ばすことくらいなら地面にある血だまりからでもできる。

 でも、それもあまり効果は期待できなさそう。


「ははは……すいませんタケルさん。ここまでみたいです……」


 気力も途切れ、意地を張って立つのも限界で座り込んでしまう。

 せめて、タケルさんを逃がすことができていたら……。

 最初の判断を誤ったことだけが心残りだ。

 ゆっくりと近づいてくる死の音を目を閉じてを待つ。


「させねぇよ」


 その言葉とともに一発の銃声が響いた。

 タケルさんがやったのかと思ったが今の彼に意識はないはずだ。

 じゃあ誰が……。


「よぉ、嬢ちゃん。また死にかけてるじゃねぇの」

「貴方は、メリセアンの商会の……」


 メリセアンでの吸血魔事件の犯人で、私達を追い詰めた張本人。

 メリセアン商会会長、ケンジ・タカナシがそこにいた。

 一体どうしてこんなところに居るのか、さっきの銃声はなんなのか、疑問が次々湧いてくる。

 そんなことを思っているとあっさりと担ぎ上げられた。


「え、ちょっと、なにして……」

「何って、嬢ちゃん歩けないだろ。あいつも連れて行かなきゃだしこっちのほうが効率がいいんだよ」

「でも、まだあの吸血魔が!」

「それなら、ほら」

「う、ぐぅ……」


 ケンジさんが指差すところにはアルカが蹲っていた。

 そのことに驚いているとニヤリと笑ったケンジさんが補足をくれた。

 さっき打ち込んだものは銀でできた弾丸で吸血魔に打ち込むと絶大な効果があるらしい。

 ただ、これはまだ試作品の段階で倒しきることはできないが一時的に吸血魔の能力を抑え込むことができるようだ。


「ケ、ケンジ、まさか君が裏切るなんてね」

「裏切るなんて人聞き悪いな。俺は最初からアンタに忠誠を誓った覚えなんてないぜ? それに、ここには借りを返しに来ただけさ」

「ふふ、裏切ったつもりはないか。でも、どちらにしろ関係のないことだよ!」


 タケルさんも担ぎながら堂々と裏切りを公言する。

 それを聞いたアルカは何がおかしいのかクスクス笑い始めた。

 彼の後ろにあるコアがより強く光を帯び始める。

 周りの空気は揺れ始め、彼の魔力が膨れ上がっていく。


「僕の計画は今ここに完成する!!」

「やべぇ!」


 大気が震え、計り知れない魔力の光の奔流が私たちを飲み込む。

 目も眩む光を最後にすでに限界に達していた私は意識を手放した。




 〇




「おい、嬢ちゃん、おい!」

「う……ぁ」

「よし、生きてるな。移動するぞ」


 半ば霞む意識の中でケンジさんの声に返答する。

 どうやらまだ生きているみたいだ。我ながら悪運が良い。

 力の入らない体で必死に状況を見るとさっきまで一緒に抱えられていたタケルさんの姿が見えない。


「タ、ケルさん、は?」

「……どうやら吹き飛ばされたのは俺達だけみたいだ。あいつは多分まだ部屋の中だ」

「そ、んな」

「すまねぇ、でも今は嬢ちゃんを最優先させてもらう」

「ダメです、タケルさんも……」


 いつも、いつもそうだ。タケルさんが辛い目にあって私だけが彼に守られてしまう。

 今だって、人に担いでもらわないとまともに歩けやしない。


 私は、弱い。あまりにも弱すぎる。

 無力感で心の中がぐちゃぐちゃになり抑えきれない正体不明の感情が涙になって溢れてくる。


「自分を責めるこたぁ無ぇさ。嬢ちゃんはいつだってあいつを支えてきたんだ。嬢ちゃんが居なけりゃあいつはきっと俺みたいになっていた」

「え……?」

「あいつは、俺と少し似てる。俺はその支えがなかったから化け物になっちまったがあいつは嬢ちゃんが隣に居たから人間でいられたんだ」

「そんなこと……」

「あるさ、嬢ちゃんには誰かの隣に立てるだけの強さがある。誰が何と言おうと俺が嬢ちゃん達を強いって言ってやるよ」

「ありがとう、ございます」


 少しだけ心が軽くなった。

 今はケンジさんの言う通り生きることに全力を捧げなくてはいけない。

 そうでなきゃ、きっと彼を助けることはできない。


「このまま俺の隠れ家に行く。意識飛ばすなよ」

「は、い」


 掠れた声で返事をする。

 涙はもう、流さない。

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