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不死の死にたがりと異世界少女  作者: 陽炎 紅炎
第一部 三章 吸血魔戦争・前
22/43

黒幕

一言:文字数を増やしていこうと思います

 宿に戻った俺達は博物館への潜入のため夜まで休息をとっていた。

 荒事用の武装も整え、潜入ルートの確認も行った。


 コアのレプリカ付近には警備はいなかったが、昼に確認したところ博物館の裏には二人ほど兵隊がいた。途中で交代や連絡があり人数の増減はあったが、つまるところ警備しなければならないものがあるということだ。

 今回はその裏口の警備を無力化して潜入することになった。


「嫌そうな顔ですね」

「俺だって罪悪感くらい持ち合わせてるっての」

「ほんと、意外と真面目ですね」

「ほっとけ、どうせ俺は愚か者だよ」


 それだけ言うとクロはすぐに寝た。

 外はまだ昼過ぎで人通りもそこそこある。

 いたって普通の光景だがこの街の中に吸血魔がいる事実のせいで光景に異様な感じがした。

 まぁ、考えすぎたって良くはない。

 全部夜になればわかることだ。




 〇




 突如、体に違和感を感じ目が覚めた。

 柔らかい布団の感触はなく、かと言って固い地面の感触もなく、体が浮いている感じがした。

 だが以前にも来たような気がする。

 もしかして……。


「よ、俺だ」

「だろうと思ったよ駄神」

「はっはっは! 元気そうで嬉しいぞ!」

「がふっ!?」


 駄神にむかついたのかいきなり腹パンをくらった。

 ギャグマンガの様に物理を無視した吹っ飛び方しながら何度もバウンドを繰り返し、最後に地面に熱い口づけを交わしてようやく止まった。

 だが不思議と痛みはなく、衝撃だけがあった。


「痛くはねぇが何しやがる!」

「なに、素敵な挨拶を返しただけさ」


 悪びれる様子もなく飄々とした態度で胡坐を掻いている駄神もといイール。

 俺もいつまでも寝転がっているわけにはいかずイール同様、胡坐を掻く。


「全く、神を前に胡坐とか信仰心とかないのかねぇ」

「生憎宗教には疎くてな。というかさっさと本題に入れ」

「やれやれ、せっかちだな」


 イールは肩をすくめながら仕方ないなと話を切り出す。


「今回、お前らが潜入する博物館だが。正直言うが辞めておけ」

「どういう事だ」

「そのまんまさ。今回の主犯は今のお前らじゃ戦闘になったときに敵わないから辞めとけってことだ」

「お前、主犯を知ってんのか!?」

「あぁ、なんせ神だからなっ♪」


 イールのどや顔に若干イラつくが主犯がわかっているなら話は早い。

 誰が犯人かさえわかってしまえば調べようはあるだろう。

 ただ、問題はこいつが素直に教えてくれるのか?

 いや、教えてくれないだろう。反語。

 イールのほうを見るとどや顔のまま俺のほうをチラチラと見ている。

 誠意を見せろという事らしい。


「ど、どうか愚かなわたくし目に崇高な神イ、イール様の知恵をお授けください」


 反発する心を抑えながらどうにかひねり出した精一杯の敬語と土下座で頼んでみる。

 だが、幾ら待ってもイールは何も言わない。

 気になってイールのほうをチラ見すると満面の笑みを浮かべ……


「い・や・だ♪」

「上等だこらぁぁぁぁぁ!!!」


 遂に我慢できず感情に任せイールに飛び掛かった。

 そのまま暫く俺と駄神の鬼ごっこが続いた。




 〇




「ぜー、ぜー、こ、このやろう……」

「修行が足りんなぁ小僧。まぁいいや、流石にどこの誰かまでは教えてやれねぇが一つだけアドバイスをしてやろう」

「あぁ?」


 できの悪い生徒に教えるように、だが憎い笑みを忘れずに人差し指立てる。

 本当にこいつと俺は相性が悪いのかもしれん。


「今回の主犯の目的はコアじゃねぇ。もっとその先にあるものだ」

「その先?」

「あぁ、ま、あとはお前らで考えてみろ」


 イールの合図と共に俺の意識は朦朧になる。

 また目が覚めたらいつものように戻るのだろう。


「お前がその先を知りどんな答えを出すか楽しみしてるぜ。がんばれ!」


 変わらない憎い笑みとおまけのサムズアップを最後に俺の意識は沈んでいった。




 〇




 目が覚めると夜になっていた。

 あまり長い時間居たつもりはないが、その辺はあまり気にしないようにする。

 隣に居るであろうクロのほうを見るとすでに起きていて準備を進めていた。


「あ、起きましたか」

「あぁ、すぐに準備する」


 少ない会話をして必要なものをまとめる。

 昼のうちに買っていたパンを夕飯代わりに食べて宿を出る。

 空に雲は無く、満天の星と半月が出ていた。

 それに目を奪われることもなく俺達は予定通りに博物館の裏に着いた。

 近くの茂みから目立たない様に黒いローブを被り裏口の様子を探ると昼間と変わらず兵隊が二人いた。

 クロとアイコンタクトを交わし、作戦通りに俺は茂みから飛び出た。


「何者だ!」

「止まれ! こんな時間に一般人が何の用だ!」


 俺に槍を向けながらじりじりと距離を詰めてくる。

 充分に近づかせたところでホルスターから銃を抜き片方の兵隊に発砲した。

 弾が当たった兵隊はぐらりと体を揺らし地面に倒れそのまま動かなくなった。

 サプレッサをつけているので大きな音が出ず一瞬何が起きたのか理解が追い付かない兵隊。


「なっ!? 貴様!」


 別に殺したわけじゃない、クロからもらった麻酔弾を使って眠らせただけだ。

 もう一人の兵隊は俺を外敵とみなしたのか俺に注意が向く。

 その隙に茂みに居るクロが同じように麻酔弾で眠らせる。

 とりあえずこれで裏口への道は開いた。


「起きても大丈夫なように腕だけ縛ってその辺に転がしておきましょう」

「……わかった」


 ついでにこれで俺達は晴れて犯罪者の仲間入りというわけだ。

 神様、仏様、駄神様にどうかバレませんように……。

 信仰心なんて大それたものは持っていないが、困ったときの神頼みと良いことわざがあったもんだ。

 眠らせた兵隊の腕を縛り茂みの中に転がしておく。

 裏口には鍵はかかっておらずそのまま入ることができた。

 入るとすぐに下への階段があり俺達は銃を持ってゆっくりと降りていく。


「……長いな」

「この先は未知数です。無理な様ならすぐに引き返しましょう」

「それがいい」


 張り詰めた緊張感が嫌な汗を流させる。

 暑い訳でも体を動かした訳でもなく張り詰めた空気が自然と体をこわばらせる。

 呼吸も浅くなり脈拍が早くなっていくのを感じる。

 そんなときに後ろから手を握られ心臓が高鳴った。


「っなんだお前か」

「タケルさん一度落ち着きましょう。深呼吸です、はい吸って……吐いて」

「ふぅ……すぅ……」


 クロに言われた通りゆっくり深呼吸をすると早かった脈拍も嫌な汗も落ち着いた。

 視界もさっきに比べ広くなった気がして浮足立っていたのが元に戻った。


「落ち着きました?」

「あぁ、悪い」

「仕方ないですよ、タケルさんはダイヤモンドといえど経験は浅いですからね」

「お前のメンタルが羨ましいよ」

「これでも一応先輩なので」


 フフンとあまりない胸を張るクロを見てさっきまでの緊張もかなり和らいだ。

 だがあまりゆっくりもしていられない。

 引き続きゆっくりと階段を下りていくと地下は一本道になっていた。

 兵隊もおらず壁にぶら下がっている僅かな光が不気味さを漂わせる。

 とりあえず武器をおろしほっと一息つく。


「どうする、素人目から見ても絶対なんかあるぞこれ」

「ペンダントはこの先を指してます。ここまで来て何も収穫なしじゃ来た意味がありません。行きましょう」

「わかった、でも無理だと思ったら「すぐに引き返しますよ」……ならいい」


 さて、鬼が出るか蛇が出るか。




 〇



 通路の先にある重い鉄の扉を開けると、鈍く光る球体が目に入った。多分これが本物のコアだろう。

 薄暗い部屋のせいか禍々しさを帯びているように見える。

 二手に分かれ部屋の中を探索するが、自然の生命力を送るための魔具とコア以外何もなかった。


「やぁ、まさか君たちがここに来るなんてね」

「あぁ? 誰だお前」


 声のした方向に銃を向けるとコアの前にさっきまではいなかった人影があった。

 俺達が来ているような真っ黒なローブを羽織りフードで顔を隠していた。

 そして、この声はどこかで聞いたことがあった。


「誰だなんて、ご挨拶じゃないか。君こそ彼女と観光するならもっといい場所があると思うんだけど。なにもこんな辺鄙な場所に来なくてもよかったじゃない」


 そんなジョークを言いながらフードを取るとツンツンした白髪と赤い目が表れた。


「アルカ、か?」

「そうだよ、久しぶりだねタケル」


 初めて会った時から変わらない爽やかな笑みを浮かべ近づいてくる。

 できるだけ最大限警戒して銃を向ける。

 そんな俺の様子がおかしいのかクスっと笑い手を出してくる。


「ふふ、そんな警戒しないでよ。ここは僕の職場なんだよ。今日は偶々残業でね、いやー参ったよ」

「そのローブはなんなんだよ」

「これかい? これはコアの魔力には人間には有害なものが含まれているからね。防護服のようなものさ」


 さ、もういいだろ?と両手を挙げて降参の姿勢をする。

 流石にもういいだろうと思い俺も銃を下す。


「タケルさん離れてください! その人が吸血魔です!」

「残念、もう遅いよ」


 フワリッ


 室内のはずなのに柔らかな風を感じた。

 何かと見下ろすと俺の胸に手を当てているアルカとぽっかりと穴の開いた俺の体が目に入った。

 理解が追い付かず交互に見るが頭より先に体が理解し大量の血が噴き出た。


「残念だよタケル。君とは友人になれると思っていたんだけど」


 その言葉を理解する前に俺は意識を失った。

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