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不死の死にたがりと異世界少女  作者: 陽炎 紅炎
第一部 二章 人と化け物
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療養

身内の都合で投稿が遅れました。これから投稿ペースを戻しますので、よろしくお願いします。

 草木も眠る丑三つ時、会長が帰った後も俺はクロの病室にいた。

 俺は持ち前の体質で殆ど治ったが、クロは未だに意識が回復しない。

 医者にも早く休むようにと言われている。

 でも、少しでも目を離すとクロが居なくなってしまいそうで女々しくも病室に留まっている。


「まだ居たんですね」

「ん、あんたか」


 真っ暗な病室に女性が入ってきた。

 俺の病室に真っ先に来たあの女性だ。


「貴方も早く自分の病室で休んでください」

「分かってる。でも、こいつが起きた時に傍に居たいんだ」

「大切にしてるんですね」

「……かもな」

「かも?」

「いや、なんでもない」


 本当はわかっているのかもしれない。向こうに居た頃に居たたった一人の友人、事故で亡くなったあいつと重ねているのかもしれない。

 ……やめておこう、あいつは死んだ。


「……そろそろ戻る」

「ええ、そうしてください」




 〇




 細い何かが顔に当たる。

 一定の感覚で俺の顔を突っついて安眠を妨害される。

 寝返りをうって狸寝入りでやり過ごそうかと思ったが、あまりにもしつこいので我慢の限界が来るまでそう時間はかからなかった。


「誰だよ、朝からガキみてぇなことするやつは!」

「私ですよ、タケルさん」


 勢いよく飛び上がった先には悪戯な笑みを浮かべたクロがいた。


「クロ……起きたのか」

「はい、ついさっき。心配、かけたみたいですね」

「……そんな顔してるか?」

「はい」


 どんな顔をしているかわからないが、こいつが言うならそうなんだろう。

 自分でもそんなことができたんだなと少し驚いた。


 クロは相変わらず悪戯な笑みを浮かべているが、その顔は少し汗をかいていた。

 少し落ち着いてクロを見ると右腕はまだ吊っていて車椅子に乗っている。

 顔色も少しだけ悪い。


「もう動いて大丈夫なのか?」

「なんとか、まだお腹は痛いですけど……」

「無理すんな、起きたばっかだろ?」

「ふふ、タケルさんに言われたくありません」

「そっか、そうだよな」


 ベッドに座り、クロと向かい合う。

 上から下までじっくり見て、自分の頬を抓る。

 しっかりとした痛みが帰ってきた。

 夢じゃない、痛みがしっかりと現実を教えてくれた。


「よかったっ!!」

「タ、タケルさん!?」


 痛くないように、だがしっかりとクロを抱きしめる。

 漸く、漸く安心できた。


「本当に、良かった……」

「私も不思議な気分です。もうだめかと思いました、心配かけちゃいましたね」


 クロも左手で抱き締め返してくる。

 声は若干湿っていて、今離れるとクロは泣いているのだろう。

 それをわかってか、左手の力が少し強い。


「でも、私も心配でした。タケルさんが私を庇って、血塗れになって……」

「俺は大丈夫だ。死なない体だからな」

「それでも、痛いはずです。約束してください、もう怪我しないって」

「ならお前もだ、クロ」

「良いですよ、約束です」


 この日、俺達の間に大切な約束が一つ増えた。



 〇




「やれやれ、少しは感謝してほしいもんだな」


 暗く静かな空間で、神はごちる。

 予想外の労働で疲れ果てた神は大きく伸びをして一息つく。

 治癒は彼の専門ではなくむしろ苦手分野と言っていい。

 慣れないことをすれば疲労するのは神も人も同じなのだ。


「あーーー、ガラでもないことして疲れた。寝る!」


 余計な仕事を押し付けやがってと言いたげな神は何処からかベッドを取り出し横になる。

 不機嫌な態度とは裏腹に彼はこの事態を少し楽しんでいた。

 それに気づいた彼は自嘲気味に嗤う。

 寝転がった体制で『外』を見ると青年の嬉しそうな顔や少女の笑みが映り込みまた不機嫌になる。


「どうせ俺は独り身だよクソが!」


 不死の神は初めて一人の人間に対しジェラシーを滾らせていた。

 彼はこの時の心情を忘れるよう新品の日記にこう記した。


 人間風情が神を差し置いてこのようなことをしてよいものか。断じて否だ、リア充爆発しろ。


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